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俺たちは果てしない冒険を望む  作者: 壱一
序章『支えあう存在』
3/9

2話『始まりの街の俺たち』

6/14 改訂

「おう、坊主ども。無事かい?」


 屈託の無い笑みを向けられた俺達は、助かったという現実とあまりにも現実離れした目の前の光景に、目を白黒させるしかなかった。

 その反応も予想通りだったのか、「まあちょっとそこで休んでろや」なんていうかっこいい台詞を残して、ハンマーのおっちゃんはそのどでかい得物を肩に担ぎながら、吹き飛んでった鳥さんのほうへと足を進める。


 一方鳥さんはというと、ハンマーで頭でもかち割られたのか、時折ビクンと動くだけで息はもうないようだった。

 腰から抜いたナイフで心臓を一突きにして血抜きのような作業を行うと、そのまま足を掴んでもう片方の肩へと担いでしまう。ここまでで数分しか経っていない。


 未だに現実と先ほどまでの悪夢のギャップに慣れない俺達に、おっちゃんは腰に下げた水筒を差し出してくれた。



「運が無かったなぁ。興奮期のヒクイクイドリに目を付けられるなんてよ。ほら、飲めるか?」


「ひ、ひく……? あ、いえ。俺は飲み物あるんで、そっちのやつにお願いします」


「お? そうか。んじゃあ嬢ちゃん。怖かったろ。ほら、飲みな」


「は、はい……ぐすっ……。ありがとうございます……」


 流石に一般人には動物に命を狙われるなんていう体験はしたことがないので仕方がないが、俺より間近で命の危機に晒されまくった不良女子高生は泣きじゃくりながら水筒の中身を飲んでいる。

 鞄から取り出したスポーツ飲料入りの水筒でさっきまでで使い果たしたエネルギーを補給し、ちょっと落ち着いてから、俺はハンマーのおっちゃんに改めて向き直った。


「あ、ええっと……た、助けてくれてありがとうございました」


「ん? おうおう。いいってことだ。この時期はこの魔物は盛っててなぁ。こうして他の土地からくるやつらを狙って持て遊ぼうとしやがるんだよ」


 既に事切れている鳥……ええっと、ヒクイクイドリ? だったか。

 それを指して、「根性でこいつらから女連れて逃げるだなんて中々胆力があるな。いいぞ若いの」と褒めてくれるおっちゃんに照れていると、ようやく落ち着いたのか水筒の水を飲みきった不良女子高生が、そういえば! と声をあげた。

 


「えっと、おじさん! ここって日本ですか!? それとも海外!?」



 しまった。俺としたことが命が助かったことですっかり安心して本題を見失ってしまった。

 そもそも俺達がここを目指したのだって、人に会って知り合いに連絡をとるためだったし、このおっちゃんは思い切り日本語を話しているので、俺達の期待通りの言葉が出るはず……だったのだが。


「ニホン? カイガイ? うぅむ……。悪いが何を言ってるのかさっぱりだな。その服装も見慣れねえし。お前さんたち、東の森からきたのか?」


「えっ…………」

「は…………?」


 予想の斜め上をいく答えに、俺と不良女子高生の声が被る。

 日本を知らないならともかく、海外という単語も知らない? いや日本語喋ってる時点で日本知らないというのもおかしな話だろ。東の森ってどこだよ。

 混乱する頭に、ふとある可能性が浮かんだ。



「もしかして、異世界……?」


「い、イセカイ? また違う言葉か?」


「異世界……?」


 

 ぼそりと呟いたつもりがこの場全員に聞こえたようで、おっちゃんは新しい言葉に眉を顰め、天然女子高生にいたってはどういうこと? とお馬鹿を披露していた。

 そんな彼女の襟首を引っ張って、一旦おっちゃんに待ってていて欲しいと頼んでから、少しだけ離れたところでしゃがみこみ、話し合いを開始する。



「ちょっと、異世界ってどういうこと?」


「言葉の通りだよ。俺達が今見てるのがおかしな夢じゃないとしたら、ここは日本でも、ましては地球でもない。別の世界ってことだ」


「えぇ!? ど、どういうこと!? 説明してよ!! いったぁ!?」


 わざわざ声の音量を小さくしているのにわざわざ立ち上がって大声でリアクションする天然女子高生の後頭部をひっぱたいてもとの位置に座らせると、こんな馬鹿らしい考えに至った考えをつらつらと並べる。

 まずはこうだ。



「あの変な石と、聞こえてきた声。あれは俺ら以外には聞こえてないようだった。しかも突然出来たような道に、あの変な石に触った瞬間また声が聞こえたろ」


「う、うん……世界を救えとかどうとか……それで?」


「嵐みたいな空間に放り出されて、気がつけば野原。んでもって人を蹴り殺すようなでかい鳥に、あのおっちゃんの装備ときた。世界観的には俺がよくやるファンタジー世界RPGにそっくりなんだよ」



 しかもおっちゃん。あのヒクイなんちゃらを魔物ってはっきり言いやがったし。

 それでもこいつ馬鹿みたいなこと言ってるな的な目線を浴び続けるので、カマかけを含めておっちゃんへと立ち上がって問いかけた。



「おっちゃーん!! その魔物って大体レベルどれくらいの冒険者が狩るものなんですかー!?」


 ファンタジー世界で魔物といえば、恐らく冒険者みたいなやつらのレベルの肥やしにされているはずだ。

 ならばこういった質問で、それっぽい返事が返ってきたらビンゴ。外れれば俺はただの痛い奴。

 さあ、どうくる――――!?



「ああ? 冒険者って……。ああ、探索者のことか。このヒクイクイドリは大体が駆け出しが戦うには丁度いいがなあ。それがどうしたよー?」


「あざーっす!!!」


「お? おお……?」


 決まりだ、ここは、俺達の住む世界ではない。

 なにやら探索者という聞きなれない単語は聞こえたが、完全に世界観は剣と魔法のファンタジー世界であった。

 ドヤぁと顔を天然女子高生へと向けると、なにやら情報を整理しているらしくぶつぶつと呟いている。

 そして、呟き終わった後、顔を青白く染めてガタガタと震えだした。

 どうしたんだ。そんなに震えて。

 再びしゃがみこんで顔を近づけると、震えながら彼女はぽつぽつと呟きだした。



「だ、だって…………貴方の言うとおりならここは日本でも、地球でもないんでしょ? しかも人を襲う魔物もいるんでしょ…………? じゃ、じゃあさ……?」


「うんうん」


「私たち…………どうやって、帰るの……?」


「うんうん……あっ」


 

 この世界がなんなのかと考えて、その考えがあたって喜んでいたからまた本題を見失っていた。

 この壁へと歩いたのは知り合いに連絡するためで、でもそもそも世界が違うから連絡なんて当然出来なくて、しかも俺達が今いるのはさっきみたいなモンスターが跋扈する異世界ファンタジーなわけで。




 うん。どうやって帰るんだ? 俺達。




 …………。





「あ、あああああああ!!? どうやったら帰れるんだあぁぁあああ!!?」


「ほら!! ほら!! どうするの!? せっかくここまできたのに、帰る手段さえもないよ!? もー! もぉぉぉ!?」


「お、おおおお落ち着け! ほら、あの変な声が言ってただろ? 世界を救えとか! 世界救ったら帰れるとかあるんじゃないか!? ああでもそんなの無理に決まってるゥゥゥ!!」



 ぎゃいぎゃいと迫る現実に阿鼻叫喚する俺達に、おっちゃんが腰を上げてこっちへとやってくる。

 突然騒ぎ出した俺達を心配してくれたのか、どっしりとした足取りで歩いてきて、そしてがっしりと肩を掴まれてしまった。



「お、おい。どうしたんだ? とりあえず落ち着け。あんたら、なにか厄介ごとにでも巻き込まれたのか?」


「え、えっとですね……! は、話をすれば長くなるといいますか」


「そもそも私たち、この世界の人じゃなかったりでして!!」


「うん? 世界がどうとかっていうのはわからんが……ここを救うって言うのは、お前さんたちやっぱり女神様の洗礼を受けにきたのか?」


「は? 女神様?」

「の、洗礼? ですか?」



 おっちゃんの言ったことを二人で復唱すると、それを早とちりしたおっちゃんは突然ニカッとまた似合う笑い方をした後、そういうことか。と一人なにやら納得し始めた。

 えっと、どういうことなんでしょうか。



「おいおい。ここまできてまだしらを切ろうっていうわけにもいかないぜ? 女神様の洗礼を受けて、俺と同じ探索者になりにきたんだろ? それなら坊主の世界を救うっていうのも理由がつくし、なによりお前さん、ヒクイクイドリがどれくらいの探索者の相手になるか聞いてきただろ?」


 あっえっ。

 混乱する俺達に、おっちゃんはまだまだ語る。


「ヒクイクイドリは確かに攻撃は厄介だが、攻撃する瞬間とそのあとが隙だらけになる。しかも獲物を追い詰めたと思うとさっきみたいに舌なめずりして油断する習性があるんだ。戦いの基本はあいつから学べる。リベンジマッチをはやくも考えてるとは、中々見所があるぜ」



 あ、ああああああ違うんですうううう世界を救うって言うのはただ頭の中に直接垂れ流されただけで、あのヒクイなんちゃらは単純にカマかけただけなんですぅうううう! そんな情報まったく知りませんでしたぁああああ! そもそも探索者ってなんですかあああ!!


 なんてことを目の前で仲間が増えると目をキラキラさせているおっちゃんを前に言えるはずもなく。



「…………は、あはははっ! い、いや。ばれてしまいましたか。おっちゃん、実はそういうことなんで、街の案内とか頼めたりしませんかね?」


「ちょっ、ちょぉ!?」


「おう! 任せろぃ! 新しい仲間となっちゃあ俺らの兄弟みたいなものよ! そっちの嬢ちゃんもついでおいで!」



 もはや当たって砕けろだ!

 やけくそぎみに笑っておっちゃんの後を追うと、その後ろをついてきた不良女子高生が俺のわき腹をこづいて囁いてきた。



「ちょ、ちょっと。急に何言い出すの? 帰る話はどうなっちゃったの」


「とりあえず今は話に乗っかって、この世界のしくみとか覚えなきゃいけないだろ? 世界がどーとかは置いておいて、今は生きるためになにをするかが重要だろ」


「そ、それはそうなんだけど……」



 まあ、大体がでまかせなんだが、真実でもある。

 異世界トリップ系のゲームやラノベなんて大体読んで来たが、みんな郷に入れば郷に従えで生き延びて、そして生還するか世界に残るかだ。

 現実に戻るにも、まずこの世界の情報収集は鉄板コースだろう。

 明日を生きて家族のもとに帰るには、それしかない。



「……うん。わかった」



 こくりと頷いて、天然女子高生は俺の後ろについてまわる。

 近づくまでその壁のでかさはわからなかったが、数十メートルは越えているであろうでかい壁に、開け放たれた扉は街というより砦と呼ぶにふさわしい外観だった。



「ここが俺達の故郷、そして今は新たな探索者を生み出す街。通称『始まりの街』よ! 正式名称はフォルンだが、まあ始まりの街で通じるな」



 ふんっと鼻を鳴らして自慢げに披露するおっちゃん。

 よくみれば衛兵らしきものも何人か立っているが、おっちゃんの姿を見てなにやら納得したように街に入れるようにしてくれた。恐らくは顔見知りなのだろうか。

 確かにこんだけ立派な門を備えてれば自慢もしたくなるだろう、俺の地元なんてせいぜいでかいゲーセンがあるくらいで、自慢できることなんて何も無かったし。


 

「ん?……ううん? ふぅむ」


「え? お、おじさん? どうしました?」



 門を背にして自慢げに笑っていたおっちゃんが、今度は門の上のモニュメントと不良女子高生を何度も見比べてなにやら唸っている。

 突然ジロジロと見られて不良女子高生が困惑するが、困っている様子を見て、ああいや。と一言謝って頭を一度下げた。


「すまんな。嬢ちゃんよーく見たら、なんとなく女神様に似てる気がしてよぉ」


「め、女神様ですか!?」


「プーッ! こいつが女神! そりゃ傑作ですわ!! っでぇ!? おま、脛を蹴るな!」


 おっちゃんが突拍子も無い言葉を放って、不良女子高生は照れているのか声色が上ずっている。

 俺はというと女神なんていう大層な存在と、さっきまで鳥におっかけられて俺と一緒にビービー泣いていた天然女子高生のギャップに思い切り吹いてしまったところを、油断して極悪な脛に対する喧嘩キックを喰らってしまった。スカート覗いてやろうか。



「その度胸があるなら、いいよ?」


「すみません、ないです」



 セクハラよくない。



「? ……まあ、似てるって思っただけだ。気を悪くさせたらすまんかったな。んじゃあ街の中を案内するぞ、ついてこい」


「あ、はいっ!」


「了解ですっと」


 のっしのっしと大またで歩くおっちゃんの後ろに、女神様とか言われてちょっと機嫌がよくなった不良女子高生と俺が続く。

 門を抜けると橋がかかっており、下には堀。なるほど、橋を上げて砦として機能できる分、やっぱり直感で砦っぽいと思ったのは間違いじゃないらしい。


 建物は全てレンガなどで造られており、時代的には中世の建物らしさが出ていた。

 といっても中世の建物なんて教科書やら映画やらでしか見たことがないから、本当にらしい。としかわからない自分の知識の乏しさが非常に残念だ。


 無事元の世界に帰れたら歴史でも学んでみるか。と一人物思いにふけっていると、気づけば街の人たちがなにやらざわついているのが伝わってきた。


 俺達が入ってきたときは家のそばで女性同士が喋っていたり、おっちゃんのような装備をかためた人達が門の外へと向かって出て行くのを見てはいたが、そういった人達が足を止め、おしゃべりをやめてざわついていた。

 目線の先には、俺の目の前を歩いていた天然女子高生。



「え? え? ちょ、ちょっと。なんか見られまくってるんだけど、どうしよ。ね、どうしよ」


 知らんがな。こっちみんな。と目を逸らすと「ねえ、無視しないでってぱ。ねえ」と俺の横に移動して袖を引っ張ってくる。

 ええい、注目されているのは横のやつだが、俺も同時に見られているんだから離れろ。

 人の注目を浴びたくない性格な俺が必至にしがみつく不良女子高生を話そうと格闘している中、前を歩くおっちゃんが立ち止まったことにより、俺達も取っ組み合ったまま立ち止まることになる。


 まだ遠巻きに見ているものたちはいるのだが、そんなことは知ったこっちゃ無いとおっちゃんはそのまま俺達の目の前に建てられた協会を示す。



「ここが、女神フォルトナ様が降りてきたとか言われる教会だ。ここで俺達は洗礼を受けて、探索者となる。んでもってこの街道を道なりに行けばギルドだ。そこでクエストの受注ができる。先にギルドに行って、待ってるぜ?」


 頑張れよ新人共! と背中を叩かれて、おっちゃんはまたまたよく似合う笑顔を浮かべて去っていく。

 ……洗礼とやらを受ける気は正直あんまりなかったのだが、これは逃げ道を塞がれたか。

 まあクエストということは当然お金ももらえるのだろう。お金があれば衣食住が全てまかなえる。

 命を懸けて金を稼ぐのは喧嘩なんてしたこともない一般ピーポーな俺からしたら遠慮したいのだが、身内もいない知り合いもさっきのおっちゃんくらいな世界で職を探すのも至難だ。


 ひとまず、飛び込んでみるのもありかもしれない。


「…………はえー」


「? なにやってんだ。行くぞ不良女子高生」


「んっ!? あ、ああ。うん。待ってよー」


 教会の横に建っている女神様と思わしき石像をじっと見つめていた不良女子高生に声を掛ける。

 扉に向かうとき、チラッと銅像を俺も見てみたのだが……。


 背中の真ん中まである髪。顔立ちはまあ似てるともいえなくはない……まあ特徴は確かに合致している。



「へー、おっきい建物。どーやって作ったんだろうねぇ」



 だけどこんなぽやっとしたやつが女神様なら、この世界は信仰する神様をもうちょっと考えて選んだほうがいいと思う。

 そんな俺の思いとは裏腹に、銅像の女神様は当然動かずに、その背を見せ続けていた。



探索者=勇者、冒険職。って考えていただければ大丈夫です。

なるべく毎日投稿。


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