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俺たちは果てしない冒険を望む  作者: 壱一
序章『支えあう存在』
2/9

1話『異世界in俺たち』

6/14 改訂

 拝啓、家族の皆々様。


 元気にしてますでしょうか。


 私が修学旅行で旅立ってから、早二日が経ちましたね。


 母上は、是非とも料理を錬成したがる姉を台所に立たせないよう、頑張ってください。


 そして、私は―――――。










「きゃああああぁあああああぁぁぁぁあああ!!!? ちょ、ちょっとなにこれえええええええ!!」


「うわうわうわ、わわあわあああああああああぁぁああああ!!?」



 まるで映画のような、色とりどりの嵐のような空間に、知り合って数十分の不良女子高生と一緒に放り込まれました。


 というかやばい。なにがやばいって、これは酔う。頭が混乱してまともな言語が喋れない。ずっとぐるぐるして何時終わるかわからない。そもそもこれなんだ。

 色々な非科学的な現象が連続しておきてもう頭がパンク状態だ。

 しかし抵抗と言っても手足をバタバタさせるだけで碌な抵抗になっていない。


 このままどこかに叩きつけられて死ぬのだろうか。


 そう思うと、今までの思い出が走馬灯のように脳裏に浮かんできた。



 幼稚園。卒園前の遠足で、鳥に弁当を奪われる……。


 小学生。学芸会で、眠り姫の王子様の役に選ばれそうになったら姫役が泣いた……。


 中学生。校外学習のスキーで、てっぺんコースにつれてかれて遭難しかける……。


 高校生。高校デビュー、色々な理由をもって失敗。孤立する……。




「碌な思い出がねえええええぇぇぇあああああああ!!!」



 死にたくない!! 綺麗なお嫁さん貰うまでは、死にたくない!!

 そんなことを顔面を涙と鼻水でぐしゃぐしゃにしながら、俺の意識は段々と薄れていった。








 ――――ぇ、起きてよ。



 なんだよ。俺は眠いんだ。起こすんじゃない。



 ――――ちょっと、起きてってば。


 

 ええい、しつこい。俺の顔に触るんじゃない。


 …………。


 よかった。諦めてくれたか。これでようやくもう一眠りでき…………。




「いいからさっさと起きてってばスカタン!!」


「いってぇ!? おいお前人様の頭を蹴り飛ばしやがったな!? ……あれ?」


 今大変遺憾な罵倒と共に蹴り起こされたが、そんなことに対して怒鳴る気がうせるほどの光景が目一杯に広がっていた。



「……草、原?」


「うん。ねえ、ここどこだと思う?」



 きょろきょろとあたりを見回しながら、彼女が俺に聞いて来る。が、そんなことは俺だって知りたい。

 辺りを見回すと、そこにはまさに雄大な大自然。とでも言うべき草原が広がっていた。

 遠くに人工物が見えることから、人がいないということは確認できる。ずっと続く整備された道があるから、どっちかにいけばなにかがあるかもしれないが。


 ――――そもそもがだ。



「いくら神秘溢れる神社だからって、こんなところに飛ばす奇跡なんて起こすわけ……というかぁ!」



 今も真横で「わー、すっごい大きい鳥が飛んでる」なんていう天然も呆れるほどの馬鹿発言をかます目の前の天然女子高生の後頭部を、ありったけの怨みつらみを込めて張った。

 ……もう、彼女には陰キャラつくって接する必要のないほど、俺は怒り心頭である。



「い、いったあ!? 何? わざと暗い奴装って意地悪な奴だと思ってたけど、貴方って女の子に手を上げるような野蛮人だったの!?」


「やかましいわ馬鹿!! どこだよって聞きたいのはこっちだよ!! お前があんな怪しさ満点の石になんざ触れなければこんなことにはならんかっただろうが!?」


「だ、だって普通わかるそんなこと!? 石に触ったらまったく違う場所に飛ばされるなんて普通わからないでしょー!?」


「じゃあどうしてくれるんだよこの現状を! どう連絡とるんだ皆に!? というか帰れるのかよ!!」


「知らないよそんなこと! もぉぉ! 全部私に擦り付けないでよ!?」


 

 快晴の下大草原で罵りあうこと数分。

 お互いそれほど体力があるわけでもないので、すぐに息絶え絶えになってしまった。

 口周りの筋肉をほぐしながら、目の前の肩で息をしている不良女子高生へとにらみを利かせた。



「貴方のせいで無駄な体力使ったじゃん……」


「そりゃこんなことになった……。元凶があっけらかんとしてれば言うことも沢山あるわ……」



 ともあれ、こうしてだだっ広い草原のど真ん中で怒鳴りあっていてもしょうがない。

 俺達が持っていたリュックなどの荷物はなんとか背負っていた為、食料がゼロで飲み物もないという最悪の事態は免れたが、残念ながら携帯は高校の規定で持込が禁止となっていたため連絡手段はなし。

 それならばまずはここがどこだか考えよう……。日本でこんなにでかい草原がありそうな場所は?


「だめだ、北海道くらいしか思い浮かばん」


「にしてはあったかいよね。十月の北海道ってそこそこ寒かったはずだし」


 不良女子高生の言葉に頷いて、燦燦と降り注ぐ太陽の光に目を細める。

 確かに十月とは思えないほどの陽気だ。気温的には春あたりだろうか。

 日本と思えない気候。そして広大な自然。とすれば海外?


「海外かあ……。言葉とか通じなかったら帰るものも帰れないよなあ……」


「うぅ……。さ、流石に悪かったとは、思ってるよ? ちょっと軽率だったなーとは思ってるし」


「今更になって謝罪されても困るっつの。俺も悪かったよ、流石に言い過ぎた。――――それよりここを移動して、人がいそうな場所にいくのが先決だろ」


「う、うん。そうだよねっ!」


 

 よし。と気合をいれる意味あいでガッツポーズをする彼女に、思わず気が緩んで口角が上がる。

 そもそも、あんな神隠しの原因みたいな謎現象、普通の子供二人に察しろというほうが無理な話。

 状況的には絶望的だが、だけど動かないわけにも行かない。

 お互いのバックを漁ってこの状況で有用なものがないか確認したが、役には立たないものばかり。

 水と食料があるだけマシ。ということだろうか。



「うん。といっても見渡す限り原っぱで人がいそうな場所なんて……ん?」


「お、どうした。なんか見つけたか」



 自分とは逆方向を見つめる不良女子高生が、何かを見つけたかのような声をあげる。

 そっちに駆け寄って一緒にそっちの方面へと目を向けるが特に気になるものは見えない。

 見ている場所があってるかどうか横目で確認しても、横にいる彼女は目を細めて遠くを見つめていた。



「なあ、なんか見えるのか? 俺あんまし目がよくないから見えないんだが」


「…………ずっと向こうだと思うけど、壁? みたいなものが見える。多分人工物じゃないかな」



 なんと、この天然女子高生はそこまで見えているというのか。

 眼鏡をかけないほどでも決していいとは言えない視力の俺ではまったく見えもしないので、恐らく視力はとてもよろしいんじゃないのか。

 問うように見ていると、その視線に気づいたのか、ふふんと得意げに鼻を鳴らして見下してきた。


「普段ゲームばっかりやってる嫌味な男の子とちがって、私は運動系だからね。視力だってAを常時キープしてるんだよ! ふふん。褒めてもいいよ?」


「あーはいはいそらあ凄いことで。まあ見えたんならそっちに行くかー」


「あー! また投げやりにする! もー、ちゃんと聞いてってば!」


 その後ももーもー! と牛のように鳴いている不良女子高生を宥めながらゆったりとその壁とやらへとむけて歩き続ける。

 どうせ帰ろうにも神隠しのような事件に巻き込まれているのだ。

 海外ならば日本大使館などを通じて、状況を説明して送ってもらう。それが難しそうならば、空港にでもいけば日本人も一人くらいは見つかるだろうし、楽観視とも言えるだろうが案外気楽にあるくことができた。



「ね、ねぇ。あれ、あれ」



 騒いでいた天然女子高生がようやく大人しくなり、今度はくいくいと服の袖を引っ張り出した。

 なんだ、そのあざとい行為で食料でも強請ろうというのか。駄目だぞ。もし帰れなかったらこの保存食が命綱になるんだから。


「ち、違うってば! 後ろ! 後ろ見て!」



 後ろ?

 切羽詰ったような声に、俺は渋々後ろを振り返る。

 そこにはさっき俺達がいた場所と、青い空が絶妙にパソコンの壁紙のような風景をつくりあげていた。

 しかし、その綺麗なだけだと思っていた草原に、土煙と黒い影がひとつ。



「……あ?」


「き、気づいた? 気づいたよね? あれ、なにかおかしいよね?」



 よくよく耳を澄ませば、なにやら地鳴りのような音も聞こえる。

 そして音は段々とこちらに近づいてきているのは今も接近する黒い影のおかげで一目瞭然であり、それだけの足音を鳴らして突き進むようなものは、ぬくぬくと平和を享受してきた俺の脳内データにはない。

 よくよく目を凝らしてその影を見ると、黒い毛に、大きなトサカが特徴的であった。

 しかしてその正体は…………。



「グエェェエェ!! グェッ! グェッ!!!」



 大きな大きな、それはもうとてつもないスピードで大地を駆ける、一匹の鳥であった。




「ひぃっ!?」


「お、おい! 走るぞっ多分追いつかれたら殺される!!!」


 ビクついて動けない不良女子高生の腕を掴んで走る。

 直感的にわかる。あれは獲物を見つけて、それを狩ろうとする野獣の目。生き物としての本能が、あれから逃げることを強く推奨しているのか、ガンガンと頭の中に警鐘が鳴り響いてる。

 やばい。あの変な光に巻き込まれてからこれしかいっていないが、とにかくやばい。

 あれは一体なんだ。あのダチョウのような外見のくせして目を血走らせているやばい奴以外に形容しがたい鳥モドキは。

 こんなもの世界の珍動物とかいうテレビでも見たことが無い。

 もしかしたら俺達以外を追っかけているのかな? なんていうありもしない希望に縋って後ろを振り返ってみると。



「グェグェグェ!!! グェェェェァァァアアア!!!」


「ぎゃああぁぁああああぁあああ!!」


「ひぃぃぃぃぃ!!?」



 目が合った。

 そして吼えられた。

 これは完全に狙われている。少しでもスピードを緩めたら刈り取られる……!?


 脂汗と涙を流しながら、俺達は必至に壁と思われるもの目指して走った。


 しかし、運動神経には自信があったがブランク持ちの俺と、完全にあの鳥にビビッているただの女子高生。

 そんな二人が凶悪な面をして襲ってくる動物に走る速度で勝てるはずも無く、段々と距離を詰められていく。


 そしてついに。


「グェァアッ!!」


「うおおお!? 蹴り!? 蹴るの!? てかお前ブレザー引きちぎれたぞ!!」


「だ、誰かああああ!? 誰かああああああ!!」



 鳥さん跳躍してが放った渾身の前蹴りが、俺の後ろで手を引かれていた不良女子高生のブレザーをかすめる。

 なにやら堅い鱗で包まれているようで、その鋭いつめといいこの鳥の攻撃手段はこの前蹴りらしい。

 悠長に観察してると、ブレザーの後ろをちぎられた不良女子高生の涙腺がついに結界してぶわっと涙が溢れる。

 確かにこれを喰らったらぶち抜かれそうだなあ……。



「悠長に!! 考えてないで!! もっとはやく!! 走って!!」


「野生動物に勝てとか無茶いうんじゃねえ! いいか、それ絶対当たるなよ!? 死ぬぞ!?」



 あと走ってる最中に喋るな舌をかむぞ!! と怒鳴ると、口をつぐんで涙をそのままに大人しく手を引っ張られ続ける。

 むぐぅぅ。と唸りながら泣くその姿はこんな状況でなければ是非とも写真をとっていびりたいところだが、生憎本当にそれどころではない。

 こっちも息が切れてなさけない走り方で走り続け、あの鳥さんは蹴るときに一々地面にビッタンとご挨拶するためそのおかげで今まで追いつかれていないのだ。

 というか土ぼこりで汚れながらも突っ込んでくるその姿が怖すぎて、それ以上後ろを見ることができなかった。



「! おい! 門だ!!」


 そうして突如として始まった追いかけっこは、ようやくその姿を現してくれた壁と、そこに大きく存在感を示していた門の存在によって、一気に光が見えてきた。

 開門している先には、視力の悪い俺の目にも家らしきものが確認できる。

 人がいる! 先ほどまで限界ギリギリのところで綱渡りしていた俺の脚が、その安堵からかもつれてしまったのは、数ある失敗録に記録されることだろう。


「!? やべっ!」


「ひゃああっ!?」



 もっとも、俺がこの先生きていたらの話だが。

 もつれたまま思い切り前につんのめってしまった俺達は、そのまま地面に倒れこむ。

 受身の取り方なんてろくに知らないので、情けなく地面に転がってしまうわけだが、こんなチャンスを鳥さんが逃す訳が無かった。



「グェッ……グェグェ」


 まるでRPGの三下のように舌なめずりをしながら近づいてくる鳥さんに、俺達はそのまま動けなくなってしまう。

 緊張の糸が切れてしまった後のように、体に力が入らないのだ。

 動け! 動け! と頭で念じても、俺の体はうんともすんともいってくれない。


 ああ、さっき死にたくないと思っていたのに、またこんな思いをするのか……死ぬ前に可愛い彼女がほしかった。

 嫁よりランクを下げて彼女で妥協しますと都合のいいお願いを神様に祈っていると、ついに鳥さんは俺達のすぐ目の前まで迫ってきていた。

 そして、獲物に最後の一突きと言わんばかりの強烈な跳躍をしたところで、



「くっそ……!」


「えっ? わっ!?」


 せめてもの意地だと俺より前に転がっていた不良女子高生を引っ張って後ろに転がす。

 ああ、助走をつけただけであれならば、きっとジャンプして振り下ろされたら俺の胴体を簡単にぶち抜いて中のものを引きずり出すくらいは余裕なんだろうなあ。

 襲い掛かってくる衝撃に目を瞑って耐えていると、ふとガツン。となにかがなにかを叩いたような音が、俺の耳に届いた。

 痛みはない。ぶち抜かれるはずだった体には痛みはないし、何が起きた?


 恐る恐る目を開けると、そこにはまるでRPGにでてくる戦士のような、大きな胸当てと肩当をした、恰幅のいい男性が、俺の前に立っていた。



「グェ――――!?」



 その手に、まさに鳥さんを吹き飛ばしたと思われる、身の丈ほどのハンマーを振りかぶった状態で。



「おう、坊主ども。無事かい?」



 困惑する俺達に、その風貌によくに会いそうな、ニカッとした笑いを浮かべて、彼はそう言ったのだった。

 

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