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お姫様はハーレム勇者に殺意を抱いているようです  作者: 矢御あやせ
プロローグ―異世界に召喚とかそういうお年ごろは過ぎました―
7/10

無職100人に聞いた今日の予定

「姫が勇者殺害を依頼したのは何も、彼女が恨みを持っているからというだけではありません」

「ああ」


寝静まったフルールの寝室を後にし、机星・ライラ・ちっくんは別の部屋へと移動する。

そこは執務室のようで、本棚に囲まれた部屋には、ソファと木製の机だけがあり、机には山ほどの書類が積まれていた。


「勇者は、とにかくメチャクチャなのです。はじめこそは数々のダンジョンを踏破し、国々を救った英雄とされていました。どこからも歓迎され、神々から祝福を受けていたのです」


聞く所によると、勇者とやらは魔族とやらが作ったとされる、数々のダンジョンを踏破してそこに眠る秘宝を手に入れ、ある時は国を飢餓から救い、ある時は魔力枯渇による戦争を止めたそうだ。


「フルール姫が彼の仲間になったのも、彼が勢いに乗り始めた頃でした。難関とされるダンジョンを2、3踏破し、その名声が各地に広がり始めた頃です。いわば、当時の勇者は売り出し中の冒険者でした」


ライラによると、フルールは本当に王国の「姫」のようだ。

彼女は、現在政を収めている幼い王の血を分けた姉に当たるという。

今、こうして机星達が話している建物は城で、城は王都のおおよそ中央部に位置しているらしい。


「あ、ああ。なぜフルールはそんなヤツの仲間になったのだ」

「王と王妃が家臣の謀略によって殺害されたのです」

「……それは……っ、物騒な話だな」

「弟君……当時物心がついたばかりの現国王は家臣によって引き取られる事になりましたが、姫は処刑を受ける事となりました。それを勇者が救ったのです」

「っ、どうしてそんな」

「自作自演をしたのです。謀略を測った家臣一派は勇者から大量の金を受け取っていたようです。勇者は一派に”劇的に姫を助け出すイベント”を要求しました。自分の名を売るためでしょう」

「っ、訳がわからんぞ」

「机星さんは分からなくて当然ですが、現在私達が座しているこの国・シルマニアは大陸一の大国です」


机から一枚の書類を取り出して机星に見せてやる。

世界地図のようだ。大きく分けて4つの大陸があるようだが、一番大きな大陸の赤く塗りつぶされた部分が「シルマニア」だそうだ。そうとなればなるほど、確かにかなり大きい。


「なるほど、こんなに大国だったとは……。その姫を助け出したとなれば一躍、国の……いや、きっと大陸の大スターだな」


ライラが頷く。


「元国王は聡明で慈悲深く、非常に国民の信頼が厚い人物でした。大陸内の国々との交流も盛んでしたし。その娘である姫は、いわば”歩く宝物”と言っても過言ではありません。地位と名誉の証明のような物でしょう」

「まさか、それだけのために姫を?」

「ええ、それだけです」


ライラはため息をつくように言った。

それに机星は机を叩いて立ち上がる。


「っ、そんな馬鹿な話があるか! その勇者とやらはフルールの父と母を殺す手助けをしたのだろう? 一目惚れしたとか、国に伝わる技術を目的にしていたとか、そういう事ではないのか?」


それだってどうしようもない話だが、聞いている側も気休め程度には救われる。


「いえ、彼は姫の容姿を知らなかったようです」


この世界ではどうやら情報伝達技術がそこまで高い訳ではないらしい。

机星の世界では手紙、新聞、テレビ、インターネット……あらゆる手段で簡単に写真の情報が手に入る。が、ここはそうもいかないらしい。

確かに、「噂」だけでは姫の容姿の詳細まではわかりようもない。


「当時、勇者は奴隷ばかりを連れたパーティだったのですが、そこに満足がいっていなかったのでしょう」

「……」


机星は糸が切れたようにボスン、とソファへと崩れた。


「……馬鹿な。命を何だと思っているんだ」


大体、ライラの村をハーレムの一員に破壊させたとかいう話も机星は気に食わない。

勇者とやらは確かに聞いているだけでも胸糞悪い、それこそ「ぶっ殺し」たくなる人物に違いなかった。


「ふざけた話はらいくらでもありますよ。例えば――」

「もういい。そいつがどれだけの悪人かはもうわかった。憎悪を深めた所でどうにもならん」


机星はソファの背もたれにもたれかかる。


「では、何故その勇者とやらを軍隊で討たんのだ。お前らの国は何をしている」


ライラは深くため息をつく。


「彼はもはや人並み外れた力を持っているのです。剣の一振りであらゆる物を無に帰し、目を見るだけで魅了されて動けなくなります。それにその声には強力な魔力が宿っており、声を聞いた草花は異様な成長を――」


机星はライラに「待った」をかける。激しい頭痛がしたのだ。


「もういい……メチャクチャだ。神話の世界ではないか」


こめかみを抑えながら、机星。


「それだけ強力な相手なのです。勇者は。私達にできる事なんて、『被害者の会』を作って泣き寝入りする者と傷を舐め合う位です」

「そんな物もあるのか」


机星がイメージするのは全員が喪服でぽつりぽつり遺影を持った者の居る下を向く者ばかりの見ているだけでも気持ちが暗くなってくるような集団である。


「ええ。でもまあ、少数しか集まっていないですが」

「なぜだ? それほどまでにメチャクチャをやっている者に恨みを持つ者など少ないわけないだろう」

「被害者は殆ど死んでいますから」


机星はゾッとした。

なるほど、「最強」勇者は力で示すのが好きなタイプらしい。


「しかし、勇者はやり過ぎました。彼によって世界の生命の数割が削られたそうです。国だって2、3吹き飛びました」

「それも凄い話だな……」


他人ごとのように言ってしまったのは、机星に「彼と戦う」ヴィジョンが全く浮かび上がらないからだ。


「勇者の存在に危機感を抱いた神は、私達『被害者の会』に力や遣いを送りました」


それだけ事が大きければ神も流石に責任を感じるのだろう。

神が実在するかも分からない世界からすればあり得ない話だが、この世界ってファンタジーなサムシングだし、と思って机星は話を無理やり飲み込む事にした。


「……要するに全知神・セージみたいな奴らか」


ライラは首を縦に振った後に口を開く。


「セージだけではなく、愛の神ステビアも我々の味方です。姫様がその力の加護を受けています」

「ああ、最初にそれらしい事を言っていたな」

「ステビアは激しい愛のを司る女性の神です。浮気した夫の女を包丁で刺して夫を毒殺した、いう有名な神話もあります」

「……それって神話なのか。再放送のサスペンスとかじゃなくて」


再放送にしても、そんな類の話はハイビジョンに対応していない時代の代物だ。


「同時に何人もの女を侍らす勇者に最も怒りを抱いているのはステビアです。彼女はフルール姫にひどく哀れみ、同情したのです」

「半分以上は私情だろ」


そこで、机星は「はあ」、と溜息をついて立ち上がる。


「まあ知らぬ神の存在はどうでもいい。で、どうすれば俺は帰れるのだ? そろそろ家に帰して欲しいのだが。午後から就職試験がある。電車に間に合わなくなる」

《え》

「は?」


机星は、確かに無職である。しかし、それと同時に未来も生活も夢もあるのだ。

ちゃ、ちゃんと続きますよーーー(小声)

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