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お姫様はハーレム勇者に殺意を抱いているようです  作者: 矢御あやせ
プロローグ―異世界に召喚とかそういうお年ごろは過ぎました―
6/10

元ハーレムのお姫様100人に聞いた消したい黒歴史

「本当に申し訳ありませんでした。歩木庭様」


フルールとライラが積極的に頭を下げるのを見るのは、気分が良いと言えば嘘ではなかった。


「ま、まあそれ位で構わん。なんだ、ムショクドーテーにも色んなヤツがおるのだ。確かに頭が沸いてるようなヤツも多いがな、堂林のようなヤツもまた多い」


堂林はムショクドーテーではないし、アナウンサーと結婚できる男なんて多い訳がない。

机星にとってはもはやそんな嘘はどうでも良かった。


「なぜ“勇者を殺す”のだ?」


机星はちっくんの使ってるであろう粗末なベッドに腰掛けてフルールに聞いた。彼女は顔を上げてもう一度頭を下げる。


「……憎んでいるからです」


ばつが悪そうに、フルールは言った。


「はあ」

「私も、ライラも。あの男のせいで、沢山のものを失いましたの。憎んでも憎み足りない事などありませんわ」

「ライラも被害者なのか」


机星はライラを見る。はじめて見た時よりも、彼女が小さく見えた。

陰になっているせいで表情は読み取れない。


「ライラはあの男に生まれた村を破壊されたのですわ。まあ、正確にはあの男の取り巻きの女騎士にやられたのですが」

「なんでまた……」

「彼女達は差別を受けている種族だからですわ。当人にすれば悪者退治のつもりだったのでしょう……」


種族が? 随分とひどい話だ。

机星もこれは流石に同情してしまう。


「私はもともと勇者のパーティで一緒に旅を致しておりました」

「仲間だったのか」

「ええ」


ふと、机星はフルールの顔色が余り良くない事に気づく。そう、彼女は顔を伏せてごまかしていたのだ。


「あの男の周りには常に女ばかりでした。戦闘力のある者から、炊事に長けた者、ただ地位がある者、物知りな者、とにかく様々です。ただ、彼女たちは必ず美しく、必ず勇者に心を奪われておりました」

「ハーレムってヤツか」


その言葉に、フルールから殺気立ったものを感じた。

ライラも机星に殺気を向けている。

が、フルールは彼から一時も視線を逸らさずに射抜くような視線でこう言ったのだ。


「ええ、その通りですわ。私、勇者のハーレムでしたの」


彼女は気丈に振る舞っているが、腿の上で握られたその拳はわなわなと震えている。

最初に手を握られ時と同じだった。

彼女は心からの後悔を語るように一言一言を噛み締めている。


「歩木庭様。貴方は、ハーレムについてどう思われます?」

「俺は好きじゃない。女の世界に平等はない。傍から見れば憧れる者もおるだろうが、並の男じゃなければ女という生き物を複数かつ平和的に従わせるなんて不可能だ」


女というものは残酷な生き物だ。例え幼くとも、序列を好み、奴隷の烙印を押された者をとことんいじめ抜く。

机星は現実世界で嫌というほどそれを見せつけられた。

女を複数置くなんて事をしたら、当然、序列が生まれるし、上に立つ女が余程優秀でない限り、男を巡っていじめも起こる。

彼は自らの経験上、女の世界に平等なんて物は存在しないと言い切る事ができた。


「やはり、歩木庭様を誤解しておりました。……私……ホント、男を見る目が無いようです。ホント、バカでございますわ……」


ふ、とフルールが力ない笑みを零す。


「私、ずっと五番手でしたの。女五人中の五番手。あの男には、滅多な事でもないと片手を伸ばした距離すら近づく事も許されませでしたし、夜伽など一度も致してもらえませんでしたわ」

「うむ……」


机星の考察通り、フルールのパーティにも序列があったようだ。

女の子を自分の周りに複数置いた上で序列を作るなんて日本人の生活からしたらありえない行動だ。

だが、男というのはどうもバカな生き物である。こういう物に憧れるヤツも少なくはない。


「ひとりぼっちになった私を助けてくださった。そう思って私はあの男を尊い、慕い、愛しておりました。あの男のためになる事ならばと、どんな汚れた仕事でもすすんで行いました。他のハーレムに無碍にされ、嫌がらせを受け、あの男にありもしない事を言いつけたようですが、常に笑顔でおるよう心がけました」


やはり、女の集団というものは醜く恐ろしい。


「おまけに最後はダンジョンで捨てられてしまいましたわ。他に出会った女が私より美しく、私よりも従順だったようでしたので」


それは机星にとってあまりに衝撃的な話だった。

フルールは、性格は……アレだが、容姿も……胸はないが、い、いや。話すと……まるで言葉が通じないが。

と、とにかく良い所はいまいち見つからないが、なんか、そう、うん、ちょっと可愛いではないか。一応お姫様だし。

例えどんなに周りの女に囁かれようと、それがこんな女の子をダンジョンに置き去りにするなんて絶対に有ってはならない。

男に生まれたのなら、最低限の心がけだと思う。

例え貧乳……いや、ブスであろうと女の子を危ない所にひとりきりにするなんて絶対にいけないことだ。


「流石に驚いて言葉にならないようですね」


そう言ったのはライラだった。


「ぅ……」


フルールは俯いたままだった。


「何で騙されたのでしょう、どうして好きになったのでしょう。私、あの時が悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて……」

「…手まあ、なんだ。疲れただろ。少し横になれ」


机星がようやく絞り出した言葉はこれだけだ。

ハーレム勇者を悪く言う事は簡単だが、自分だって上手く年頃の女の子と話す術がわからない。

もどかしいし、もっと優しくしてあげられるならしてあげたい。

事実、フルールの目からは光る涙の粒がいくつもこぼれている。

自分のちっぽけさがいやに際立った。


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