異世界のお姫様100人に聞いた童貞っぽいアスリート
そうこうしているちに、頭痛も少し引き、時が再び動き出したようだった。
相変わらず修羅場のままだ。
フルールが奇声に近い声で何か喚いている。
《やめたげて きせいくんはいいこだよ》
ちっくんがフルフルと首を振りながらフルールに、ライラにスケッチブックを掲げている。
が、2人は聞く耳を持つ様子が無い。
「ま、まあ待て。少し話をせんと何も始まら――」
「始まらなくていいのです。あなたはここで終わるのですから」
フルールは「やれ」とライラに目で合図をしているようだった。
ど、どうする。どうする!!!!
と、その時。机星の頭の中で「ポーン」という変な効果音が流れた。
テレビのリモコンの「4」ボタンを押すとやっているクイズ番組的なモノに使われている感じのアレだ。
そして机星の目の前に3つのアイコンが並ぶ。
その横には日本語で文字が書かれていた。
1・「俺はそんなんじゃない。辛かっただろう」とフルールをなでなでする。
2・「申し訳ありません! 私が悪うございました」とフルールに土下座する。
3・「俺の世界には堂林翔太という男がいてな」とはぐらかす。
な、な、な、なんだこれは。と机星はひどくうろたえた。
どうやらこれがセージの言う机星の“潜在能力”とういうヤツのようだ。
多分、女の子や男の子とときめいたりするゲームを意識しているのだろうが、自分を含めた当人達をバカにしているにも程がある。
いささか理解に苦しむが、そうこう言っている場合じゃない。
っていうか3番は何なんだ。何でよりによって堂林みたいな守備も微妙なロマン砲系三振バッターが出てきたんだ。
チッチッチッチと時計の音のような効果音が鳴り続けている。そうか、時間制限か。
と、思った時既に遅し。
ブッブーという不快な音と共に3番のアイコンがピカピカと光った。
最悪だ。よりによってなぜ3番。
死んだら恨む。堂林を死ぬまで恨む。死んでも恨む。
でもまあ、1番、2番も無いといえば無い。堂林程じゃないが。
「最後に残す言葉位は聞いてあげても良くてよ?」
そう言ったのはフルールだ。
「なあ、堂林翔太って知っているか?」
そして机星の口は本人の意志を無視して勝手に動き出す。
「フン、命乞いはしないのですね。潔さは認めてあげますわ」
「野球……つまり、俺たちの世界で言う競技化した戦争みたいなもので競う選手で、現役のプロだ。上向きのチームに居る男で、顔も良いから女性人気も高い。彼を応援するかわいい娘はそれはもう溢れんばかりだ。要するに俺たちの世界のハーレム男だと思ってもらっていい」
「それが何だと言うのです? 私達には関係なくてよ」
言葉とは裏腹に、ハーレム男、という言葉にフルールはやけに食いついていた。
「だが、堂林は彼女たちを選んでいない。自分の好きな女性を1人選んだ。えっと、なんだ、……そう、つまり。コホン、そんな男も多いのだ」
机星は堂林が結婚した相手が局の美人看板アナウンサーというのは黙っておくことにした。
なぜなら、まさかのまさか、フルールの瞳がうるうるとしている。
時に目頭を抑える仕草までしている。
誰が思ったであろう、女性陣にこのどうでもよい話がきちんと効果を発揮したのだ!
「歩木庭様、ドーバヤシというのは“ムショクドーテー”なのですか?」
「は?」
机星は素っ頓狂な声を上げた。
もしや、彼女達は無職童貞の意味を知らないのか。
確かに、今のところこれだから穀潰しは、とかは、的な具体的な話は出てこない。
無職童貞を何かの種族だと思っている可能性はかなり高い。
「そ、そうだ」
その時、机星は心の中で堂林に土下座をした。なんというか、本当に申し訳なかった。
「ライラ、もう良いです」
言った瞬間、机星の足から力が抜け、彼は崩れ落ちるようにその場にへたり込んだ。緊張感から解放されたのだ。
「……そんな有名な“ムショクドーテー”が居るなんて。申し訳ございません、歩木庭様。私……恥ずかしながら勘違いしておりました。あの……その……貴方を……信じて――いいのですね」
と、フルールは目が醒めたような顔で顔を赤くしながら一人ごちている。
机星は彼女を別段「やばい女」と思う事はなかった。(確かに「ちょろい女」とは思ったが)
世界観的に、多分、「職業は強制的に就かされるもの」であり、「婚約者=性交渉の相手は親同士が無理やり決めるもの」とかなのだろう。
「無職」も「童貞」もあまり縁の無い概念なのだ。
「サンキュー堂林、フォーエバー堂林」
机星はどこぞの異世界で風評被害を喰らった堂林の事だけは永遠に覚えておこうと心に誓った。
だがしかし、彼は2015年、堂林翔太の三塁レギュラーは微妙なんじゃないかと思っている。
次回、ようやくフルール姫の過去が明らかに。
シリアスパートです。