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お姫様はハーレム勇者に殺意を抱いているようです  作者: 矢御あやせ
プロローグ―異世界に召喚とかそういうお年ごろは過ぎました―
4/10

異世界トリップ主人公100人に聞いたピンチの時に助けて欲しい人

とはいえ、机星はちっくんの存在がとてつもなくありがたかった。


女子2人童貞1人の気まずい飲み会に救世主が現れたのだ。

ありがたがらない要素なんてない。

具体的に言えば、定年間近の男性上司だ。

昼行灯で陰口ばかり叩かれている勤続年数だけが自慢みたいな上司も、童貞にはありがたいものなのだ。

なにせ、男2人で話ができる。年寄りは勝手に話してくる。

彼相手にビールも注ぐことができるし、メニューを見たりもする。自然と、やらなければならない事も多くなる。

渡る必要がなくなれば、崖となっていたテーブルの間も怖くない。


《ねえきせいくん こんどのみにいこ~よ ちっくんのしりあいの ちゃんねーのおみせ》


そしてちっくんはごく平均的な男性上司よろしく、飲みニケーションがお好きのようだった。


「ああ、いいですね。今度行きましょうね、今度」


今度という言葉がいつになるかは分からない。「後で」「今度」「行けたら」の類の単語は机星にとっては「お断り」の常套文句だ。

あえて、この中で飲みに行けと強制されたらまず間違いなくちっくんを選ぶだろうが、この世界そのものがあまりよく分からない。

机星はそこそこ疑り深いのだ。


「おねえちゃんのお店ってぱふぱふする所ですよね? 結局男ってスケベなんですわ……」

「姫様、気をつけてください。男ってアレですから。すぐアレなんです」


女性陣ときたら、言っている傍からこれだ。机星はため息も出ない。


《きせいくんは ちっくんのさそいをことわったんだよ》


ナイスだちっくん!!!

が、女性陣、特にフルールの白い目は変わらない。


「そうだ、俺はそういう店はあまり好きではない」

《きせいくんは そんなに すけべじゃないとおもうな》

「いいです、ちっくん。全知の神の遣いである貴方が知らないなんて事はないと思いますが、男は皆バカでスケベですわ」


やたらと「バカ」と「スケベ」を強調するフルール。


「何なんだその歪んだ男性観は」

「うるさいです! 私は歪んでなんておりませんわ」


フルールはやたらムキになって机星に噛み付く。

が、机星はここで引かなかった。今、こちら側にはちっくんが居る。ちっくんさえ居れば2:2だ。そこまで女子も怖くない。


「言っとくが俺はそんな態度でお願いとか言ってくるムシの良いヤツの味方などせんぞ」

「いえ、私は知っております。“ムショクドーテー”の手を握った時に、相手の心の声が聴こえたのです」

「お前、そんな事もできるのか」


なんて女だ。召喚した人間の選定をしているらしいし、侮ってはいけない。


「ここが異世界だと知った“ムショクドーテー”は皆一様に現世を恨んでハーレムとか無双とか下らない事ばかりを考えておりました。どうせ貴方もその類なんでしょう?」


ハーレム、と言った瞬間にフルールの顔がひどく歪む。

彼女の自分に対する嫌悪はこの発想にあるのではないのだろうか。

机星はその可能性に懸けてみる事にした。


「お前、もしかして変な男にでも引っかかったのか?」


と言った瞬間、静寂が訪れた。

部屋の中に居る全員が緊張感に動きを止めた。

当然だ。彼らはきっと“事情”を知っている。

最初に動いたのは、やはりフルールだった。


「どういう、意味です」


フルールは笑顔のまま聞く。

笑顔だが、そこには異常な程の威圧感があった。


「そのまんまの意味だ。どーせヘンな男惚れて捨てられたんだろ」

「ライラ、この者を捉えろ。極刑だ。極刑に処す!! いや、その場で殺しなさい!!」


どうやら机星の予想は正解だったようだ。

即座にライラが彼の背後に回り込み、両腕を掴んでナイフを首筋に突きつけた。

キラリと光るそれが本物であることはたやすく想像できる。

だが、机星は物怖じしなかった。

正確にはやけっぱちになっていたのだ。


「どうした、図星か。ハハ、確かにお前、おつむが弱そうだもんな。変な男っていうのは転がってるもんなぁ」


ライラの持ったナイフが机星の肌に僅かに触れた。

背中に大量の汗をかいた。もう後戻りはできない。

だが、彼はここで死ぬつもりはなかった。彼には予定があるのだ。


どうしようか、と机星は思案を巡らせる。

ここで刺激をする事は絶対条件だった。

こうでもしないと早々に本音が飛び出すなんて事はあり得ないと思ったからだ。

あの関係を延々耐え忍んでご機嫌取りして徐々に好感度常勝だなんて、まっぴらゴメンだ。


戦闘は――無理だ。

多少武術を扱えようが、ライラの動きは軍人のソレだった。机星の手首を締める手の力から考えても、筋力も日本男性の平均をゆうに超えている。

それに、ウルトラCの「実はチート魔法を持ってましたー」的展開はまずあり得ない。ちっくんの宣言によって魔法を使えない事を伝えられているし、うん、というか期待すらしていない。


となると、やはり交渉だ。これしかない。


「なあ、フルー……」

《待て、人の子よ》


と、突然誰かが机星の脳内に直接語りかけてくる。

厳かなようで、軽やかな、なんかもうメチャクチャだけどなぜかカッコ良い感じの声だった。

彼は真っ先にちっくんを見たが、凍りついたかのように止まっている。

フルールも、ライラも同じく止まっている。


《時は俺が止めた》

「誰だ――」


と、言い切る前に、机星の中に知識が流れこんできた。

“全知神セージ”。ちっくんを作った知を司る神様だ。


「ほう、手っ取り早くて助かるなっ……」


にっと口を歪めたが、机星には余裕がなかった。頭の中がかき回されるような強烈な痛みに襲われていたのだ。

額からどっと変な汗が沸いてくる。


《お前の潜在能力ってヤツを解放してやった。まあ、それで乗り切れ。以上》


簡単な挨拶だけ済ませて、セージとやらは机星の頭から去って行った。

なんだか一方的で勝手なヤツだった。

気に食わないことも沢山ある。聞きたいことだって山ほどあるのに。

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