お弁当の中に神様ひとつ
わたしは神を信じています。無宗教大国と呼ばれる日本でわたしは、宗教にこそ入っていませんが、神様は居ると信じ続けています。
ああ、それにしてもお腹が空きました。学校にお昼ご飯を持ってくるのを忘れてしまう、なんて、手痛い失敗です。高校生の女の子ともなれば常に空腹と言っても過言ではないのです、だから比例してお財布の中身も乏しいのです。
神様、わたしはこのまま飢えて倒れてしまうのでしょうか。教室で行き倒れるなんて経験をしてしまうのでしょうか。
「ねぇ星羅ちゃん。部活の先輩が呼んでるよ」
クラスメートに言われたけど、それどころではありません。わたしは今、お腹が減っているのです。
「柊」
ふと、もう一度私の名前を呼ぶ声が、教室の出入り口から聞こえました。男性の声です。
……この声はっ。
ハッとして顔を上げます。そして居たのは、お弁当箱をぶら下げた先輩。
「部活のミーティングだってよ。飯は部室で、ミーティングしながら食おう」
「わっかりました神!」
「ん? なんかよく解んねぇが、少なくとも俺は神じゃねぇぞ?」
神待ちだったわたしにご飯を恵んでくれそうな人なら誰だって無条件で崇拝しますぅ。
元気良く立ち上がったわたしは、先輩の元へ駆け寄ります。
この先輩の名前は鳥原紅夜。我等が手芸部の形ばかりの副部長。そしてこっちの先輩は、成る程、から揚げが入っている事は匂いで解りました!
「別にミーティングって言っても、ほら、顧問が怪我したろ? それで監督してくれる人が居なくなったから、部活の日数減らそうぜって話になってんだ。んで、部員に何曜日やろうか聞こうってなったわけ」
なにやらよく解らない事を事務的に語る紅夜先輩。わたしはそんなことより、そのお弁当箱の中身が気になります。わたし、木になります!
「――で、お前はいつがいい?」
「――から揚げは先がいいです!」
「――若干意味わかんねぇわ」
え、お弁当の食べる順番の話をしていたのでは? 違うの? え?
「部活、いつやるかって話だよ。お前は何を聞いてたんだ」
ああ、成る程、ぶっちゃけ何も聞いてませんでした。でも大丈夫です、お弁当箱はちゃんと見ていました! 百聞は一見に如かずって言いますからね! だから早くお弁当の中身を見せて欲しいものです。
「顧問の飯塚先生。前々から腰が悪かったろ? 昔野球やってた時に爆弾抱えちまったらしくてさ。んで、手芸部でも授業でも座りっぱなしだったのが逆に腰に悪影響与えて、この間爆発しちまったらしいんだ」
へぇ、お弁当の中身が爆発ですか。それは元気な弁当ですね。あ、新しい匂い。もしかしてご飯はピラフかな?
部室へ向かいながら、紅夜先輩は続けます。
「俺のクラスの授業中に腰が逝っちまったらしいんだけどよ、そん時に飯塚先生が上げた悲鳴がやばいのなんのって。さすが野球部の生活量。教室中に響き渡って、鼓膜が破れるかと思った」
ほうほう、鼓膜が破れる程の威力がある爆弾の入った弁当、と。なかなか過激ですな。辛いのかな? ピラフが鷹の爪入りなのかな?
そんなことより早くご飯が食べたい。
ん? でも、このご飯を食べたら鼓膜が破れる?
「そういえば……」
ふと、紅夜先輩が首を傾げました。
「お前、なんで弁当持ってきてないの?」
「…………」
ほお、この空気で、わたしが言外に『そのお弁当欲しいなー』オーラを放っていたあの空気で、今まで気付いていなかったと?
「先輩……わたし達が以心伝心だと思ってたのは、わたしだけだったんですね……」
「仲良くなっても解るもんじゃねぇだろ、お前が弁当を持ってない理由なんて」
先輩なら、解ってくれると、信じてっ……!
まぁいいや。紅夜先輩のお弁当が爆発するなら、他の先輩から貰いましょう。そうしましょう。
部室に着いて、先輩が鍵を開けます。
「やっぱ誰も来てないし……」
「無人ですねー」
あれ? ってことは、わたし、お昼、おあずけ?
「おい柊、どうした急に泣き出して!」
「うう、すみません、ぶっちゃけます。先輩、わたし本当は、お弁当忘れてきちゃって……だから、紅夜先輩からお弁当を騙し取ろうと思ってたんです」
「それはぶっちゃけ過ぎだなぁ」
「でも紅夜先輩が、『俺の弁当は爆発する!』とかって言い出したから」
「俺がいつそんな痛い発言を?」
「だからわたし、他の先輩にたかろうと考えてて……」
「もうちっと言葉を選ぼうぜ。他の先輩を頼る、とかって言おうぜ。物は言い様っていうだろ?」
「紅夜先輩があまりにも使えないから他の先輩方を利用しようと思いまして……」
「すげぇなお前、最初の言い方より酷い言い草があるとは思わなかった」
げんなりとため息を吐く紅夜先輩。でも、ため息を吐きたいのはこっちです。
わたしは溢れ出る涙を両手で防ぎながら、天井を仰ぎます。
「神は、わたしのそんな悪行を見逃してくれなかったんだぁぁぁあああ!」
「落ち着け柊! どうした? お前、そんな痛い発言をするようなやつじゃなかったはずだ!」
「痛い発言!? 『俺の弁当は爆発する』と言った紅夜先輩に、そんな事を言われる覚えはありません!」
「俺もそんな事を言った覚えはねぇぞ!?」
紅夜先輩に、どうどうと宥められ、ついでに背中も摩られます。紅夜先輩じゃなかったらセクハラで訴える。
わたしが急に黙ったからか、部室は妙な沈黙が支配していました。
「ったく」
ふと、紅夜先輩が舌打ちします。
うう、やばい、さすがの紅夜先輩も怒ってる……?
でも、背中を摩る手はまだ優しいままで。
「ミーティング、放課後に変更だってよ。日向のやつ、勝手な事言いやがって」
どうやら、怒っているのはわたしにではなく、急遽予定変更をした部長へのようでした。
「そういうわけだ。とりあえず、飯、食うか」
「え、でも、お弁当持って無いです……」
「たかるんだろ? だったら俺の食えよ」
「え、でも爆発……」
「しねぇよ」
そうですか、しないんですか。じゃあ、どうしてわたしは先輩のお弁当を爆弾だと思い込んでいたんでしたっけ?
まぁいいや。今は不問にしましょう。
神様。ありがとうございます。
お弁当を忘れた不幸の代償。良いことひとつ。
先輩と部室で、二人っきりです。
閲覧ありがとうございます。根谷司です。
この短編は、公募用に現在執筆中の作品、理不尽ゲームのオマージュ、といいますか、ただのキャラ練習場です。本編のほうは紅夜目線ですが、星羅のキャラをしっかりさせるために、彼女の一人称で軽く書かせて頂きました。ようは練習用であり練習用なのです。
そんな練習用でも、読んでくださった方に楽しんでいただけたらいいなとはちゃんと思っております。きっと、自己満足には、ならないっ!
短編で長ったらしいあとがき書いたらただの変人ですよね。そんなわけで、ここいらで失礼致します。
ではっ!




