戦い-恐怖
ダンジョンと言うぐらいだから洞窟のようなイメージを持っていたが、やはり異世界だからだろうか、入り口が渦のようになっていて異世界への入り口のようだ。ここが異世界だということも忘れてはいない。
ダンジョンの前にある説明所で聞いた話をまとめると、ダンジョンは1PTの6名まで一緒に入ることができ、同じダンジョンでも他のPTと会うことはないそうだ。他のPTと会うためには入場の際にその旨を伝えればいいらしい。専用のダンジョンへ行けるアイテムがあるそうだ。メリットとしてはピンチの時に助けてもらえる可能性があること。デメリットはモンスターを押し付けられたり、実力なども知られてしまうことだそうだ。
1Fなら装備をある程度固めて戦闘スキルをしっかりと使えば死ぬことはないらしい。
ダンジョン内には光源がない場所が多いとのことなので、光源を自分で確保し無くてはならないそうだ。ほとんどの人は光玉を持つらしい。
他にも色々と言われたが、薬を準備した方がいいなどのことだったので割愛する。
いざとなったら玲奈が注意してくれるはずだ。
「ダンジョンについて分かったし装備買いに行こっか」
めちゃくちゃ楽しそうな顔をしている。遠足前の子供でもこんな笑顔にはなかなかなれそうにない。
女性が服を買いに行って楽しむのはわかるが、武器などの装備を買いに行って楽しむところは想像できない。最も、装備を買いに行くことすら初めてだ。
「武器屋の場所は覚えてる?」
「もちろん!迷うなんてありえないね」
結構複雑な場所にあると聞いたが、どれほどの確認をすればここまで自身が持てるのだろうか。
そんな間違うことのない道案内に付いて行くと、言ったとおり間違うこと無く見つけることが出来た。
中に入ると剣や杖、棍棒まで置いてある。武器だけでなく防具も置いてあるようで、色々なものが分類分けされ、ところ狭しと陳列されている。
「こんにちは。装備について教えてくれませんか?」
ニコっと笑いながら尋ねる玲奈相手に、どんな男が断ることができようか。
そして尋ねられた店員も、その笑顔の被害者?になったのであった。
「お嬢ちゃんは新人か?どんな職についてるか教えてくれるかい?」
少し怖そうな顔をしているが口調は優しい。見かけと違うので一気に好感度が上がる。
「私は剣士と魔法師でこっちが魔法師と薬師です」
薬師にも武器があるのだろうか?聞くならせめて薬屋だろう。
「薬師用の武器はないな。欲しいなら薬屋で道具を売ってたと思うぞ」
当然だ。売ってもらっても困る。
「お嬢ちゃんは魔法剣士が目標でいいかな?」
「はい。結構少ないみたいですね」
「そうだな。戦闘中に動きながら唱えるのはなかなか難しいと聞く。お嬢ちゃん一回この剣を持ってもらえるのか?」
そう言って渡されたのは周りの剣より一回り細い剣だった。レイピアというやつだろうか?
レイピアを受け取り軽く振り始める玲奈。意外に様になっているように見えるのは俺が初心者だからってわけでは無さそうだ。薦めた親父さんも頷いている。剣士の職の高さと才能のおかげでなんとなく振り方が分かるのだろう。
「これは少し軽いですね。もう少し重いほうが扱いやすそうです」
感想も初心者とは思えない。聞いたのは初めてだったがそこは目を瞑ろう。
「軽いのか。剣士の筋力補正が高いようだな。まずは振りやすい剣を探したほうがよさそうだ」
そう言って親父さんはいくつかの剣を玲奈に渡し、玲奈がそれを振って確かめている。
何種類か振った後、結局最初に振ったレイピアが扱いやすいとわかり、もう一回り重い剣を探し始めた。
「お嬢ちゃんはどのくらい予算があるんだい?」
少し迷う素振りを見せる財務大臣こと玲奈。防具も買わなくてはいけないため武器だけにそうそうお金をかけられないのだ。まずは相場を聞かなくては...
「親父さん、武器や防具の相場ってどのくらいか教えてくれないか?」
「お嬢ちゃんが今持ってるのは中級者が持つような剣だ。だいたい銀貨数枚で買える。金に余裕があるなら中級者用の装備を買っていたほうがいいぞ。もっと上にいけば魔法剣なんかを使う人もいるな」
魔法剣...男の夢!ロマン!そして明らかに俺向けだ!
「魔法剣について教えてくれないか?効果とか作り方とか」
「効果は物によって様々だが、共通するのは錆びないことと切れ味が変わらないことだ。もちろん剣だけじゃなく装備にならなんでもつけられる。作り方は伝わってないし、今作れる奴はいないはずだ」
自作魔法の類かな。今日帰ったらやってみよう。
「ありがと。玲奈、予算決まったか?」
「二人で銀貨25枚以内。できるかぎり中級者の装備を買って大切に使いましょう」
その答えを聞いた親父さんは、少し待ってろと行って店の奥に向かっていく。
しばらくして戻ってきた親父さんの手には色々な装備が収まっている。
どうやら俺達に合いそうな装備を持ってきてくれたらしい。
「お嬢ちゃんは意外に力があるようだし、この装備でいいと思う。軽装備とは言わないがある程度軽くて防御面でも安心だ。できるかぎり相手の急所に攻撃するようなスタイルになると思う。素材は王都ダンジョン170F以降に生息する《リブロス》っていうモンスターの皮だ。剣はレイピアとはちょっと違うが細目の剣で素材は白輝石っていう滅多に出ない鉱石を使っているから値段は少し高いが、そこらの剣よりは切れ味も耐久性も高い。」
試してみてから決めます。そう言って店の奥を借りて着替えに行った玲奈。剣はこれでいいといっていたからもう少しで決まりそうだ。
「お前さんは魔法師だったよな。今店にある最高の杖を持ってきたからこれ以上のものはだせない。不満なら他に行くしかないな。杖の素材は剣と同じ白輝石だ。マントは耐熱・耐寒と耐毒性能がついている。素材が絹とお嬢ちゃんと同じ《リブロス》の皮が使われている」
どうやら魔法師の装備は杖とマントが主流でそこに好みで頭などの装備をつけていくようだ。
あまり重いと動けないという欠点をできるかぎり減らすってことか。
マントなのでその場で羽織るだけである。着た途端周りの空気が変わった気がする。耐熱と耐寒でどうやら自分の快適な温度に保ってくれるらしい。
「これはいいな。杖はこの店で最高だと言うんだし心配無さそうだ。これ二つでいくら?」
「お前さんは二つだけだがマントが高めでな。銀貨9枚と銅貨15枚でどうだ?」
「分かった。後は玲奈しだいか。ちなみにあの装備はいくらなんだ?」
「お嬢ちゃんのは一式だからな。合計銀貨12枚と銅貨10枚だが、お前さんと合わせて買うのならまけて銀貨21枚でいい」
お、結構まけてくれたな。
そんなことを考えていたら着替え終わった玲奈が戻ってきた。
全身白に包んだ出で立ちで、剣も白に近いためか、どこぞのファンタジー小説の主人公だ。
俺のマントも同じ素材を使っているはずだが、こっちは黒なのでどっちかが染められているのだろう。ストレートで綺麗な黒髪と合っていてとても似合っている。
「動きやすくて楽だわ。おじさん、これいくらか教えてくれる?」
「二人合わせて21枚だ。残った銀貨4枚は回復アイテムなんかを買うために使ったほうがいいと思うぞ」
俺にそれでいいのか?っと聞いて、俺が頷くとさっそく支払いを行った。
ササッとアイテムを整えてダンジョンに行きたいようだ。
「ありがとな!また来てくれよ。装備の手入れもしてるからな」
ここの常連になりそうな俺達に結構まけてくれたのかもしれない。お返し代わりに来るのは礼儀というやつだろう。
意外におもしろい人だったし。
ポーションや毒消し、光玉(カンテラの代わりに使う魔法の光源)などを購入し、ダンジョンの入口へと向かう。
カンテラが油の買い替えだけで済むのにたいし、光玉はどうやら魔法消費アイテムのようなので少し値が張った。それでも片手をカンテラで塞ぐよりはいいだろうという財務大臣の判断だ。
入り口についた時点でちょうど昼の鐘がなり夜の鐘がなるまであと6時間となった。
だいたい5時間ほど狩ってみようとのことなので腕時計を買って時間を守れるようにする。腕時計があったのに驚いたのはしかたないだろう。
お金を払い入り口に触れると引っ張られる感覚がして、気づいたら見知らぬ場所にいた。早速光玉を使い視界を確保し、ゆっくりと前進する。
1分ほどで魔物を一匹発見し、様子見ということで俺がファイヤーボールを放つ。
意外にも速い火の玉が、レメス(ステータスを見るとレメスとあった)に直撃し、可愛らしい兎のようなレメスは黒焦げとなって、少し経つと光となって消えた。
残ったのはレメスの皮というアイテムで、どうやら一撃で殺してしまったらしい。
ためしに次にあったレメスに玲奈がファイヤーボールを撃つと、これまたあっさりと死んだ。残ったのはさっきと違いレメスの肉だった。
その後はレメスの屠ることに専念して、剣で一撃で殺したり、魔法でも攻撃であれば一撃であることが分かった。
才能の差なのか、あきらかに俺の攻撃の方が威力があった。
数時間狩ってレメスの他にもフルルという素早い猿のような魔物、定番といえるスライムのようなゼリーという名の魔物を発見した。どいつも一撃死なのだから実力を測れない。
さらに数時間狩って夜の鐘まで後1時間に迫ったので、ダンジョンの入り口に戻り、街へと帰還をはたした。
拾ったアイテムはどんなものでもギルドが買い取ってくれるようなので合計7種類全140個のアイテムを全部売った。
1Fのアイテムはさすがに安いのか合計銅貨12枚にしかならなかった。
入場料で5枚払ってるので収入は7枚である。
使った光玉が銅貨3枚だったのでそれも引けば4枚にしかならない。他のアイテムは使ってないので鞄に入ったままだ。
一日の生活費すら稼げないので、もっと上に行くことが決定し明日から本格的な探索になる。
宿で夕食を食べ、昨日はさっさと寝てしまったが、試したいことがあったので少しやり方を考える。
やりたいことはもちろん魔法装備を作ることだ。
人相手のエンチャントはスキルもあって使うことが確認できた。
空間魔法と風魔法で速さを上げたり、火の魔法で攻撃力を上げたりと、便利すぎて感動ものだった。攻撃力を上げると俺ですら素手で一撃死させることができたのだ。
今回はその技術を応用するに加えて固定化魔法をかけ無くてはならない。
だいたいの手順はダンジョン内で考えていたのであとはできるか実行するだけだ。
俺がマント置いて何かをしようとしているのをみて、玲奈も興味を持ったようだ。
「何をしてるの?」
「魔法装備を作ってみたいたと思ってな。今から試してみる」
早速マントに支援魔法の要領のまま、水魔法で付加をかけてみたのだが、掛かったのは一瞬ですぐもとのマントに戻った。
これは予想ができていたので今度は空間魔法を併用して込めた魔力をマントに固定させてみた。
今度は一瞬で消えることもなくしっかりと魔法が残った。どうやら成功のようである。
あまりにも簡単にできたので喜びもほとんど感じないのが虚しい。
隣の玲奈はめちゃくちゃ面白そうにしているが。
「連音!私の装備にも色んなの掛けてよ!」
言われなくてもするつもりだ。
1時間ほどかけてようやく全装備に攻撃力上昇、防御力上昇、素早さの上昇、自動回復、暗視効果、各属性抵抗などをつけ、鎧にはさらに軽量化の魔法もかけた。
効果は明日確かめないといけないが、なにせ神の魔法師である俺の自作魔法だ。結構な効果が期待できるはずだ。
昨日以上に高まっている気持ちを抑え、明日のために就寝に就く。
ダンジョンの各フロアにはボスが1体湧き、それを倒せば上に上がる権利が得られるとのことなので倒しがいもありそうだ。
作者がまだまだ空想の世界から抜けられないため、主人公たちの能力がチートになってますが後から強敵もでますのでご安心ください。