始まり-発見
「いらっしゃい!新しいお客さんだね」
40代ぐらいだろうか。まだまだ元気のある声だ。声をかけてきたのだし「雛の宿亭」の店主だろうか。
「ここ始めてなんですど、一泊いくらですか?」
やはり交渉は玲奈が担当だ。いつ俺の出番が来るだろうか?できるならそう近くない未来がいいな。
「二人部屋から部屋があって一泊銅貨10枚。飯を食べたいのならその時に払ってくれればいい。10日分前払いなら95枚になって、30日分なら270枚で大丈夫だよ」
結構値引きするんだな...。安定して収入を出すのが大事なようだ。
「では一部屋10日お願いします」
二部屋にしなかったのは節約のため。変なことをしなければ大丈夫と財務大臣から直々のお言葉だ。
「あいよ。銅貨95枚だね」
そう言って腕輪のようなものを持ってくる女将さん。腕輪といっても、直径20cmほどはある。
これに腕を通せば「値段分のお金を支払いますか?」と頭に響き、それに同意すれば支払われる仕組みだそうだ。これも必要魔力が低く、どんな人でも使うことができるらしい。神々の窓の効果のひとつだ。
「私は雛の宿亭店主のロレシアだ。お客さんたちはなんて言うんだい?」
「私がレイで、あっちの男がレオンです。よろしくお願いします」
「レイにレオンね。こちらこそよろしくね」
どうやた人の良さそうな店主だ。
もし良い宿であれば長い間お世話になるので第一印象は大事だろう。
「よろしく。ロレシアさん、どのへんに冒険者ギルドがあるか教えてくれませんか?」
「ギルドなら店を出て左に行けば見えてくるよ。大きいし目立つから詳しく言わなくても大丈夫だね。レオンさんたちは王都は始めてかい?」
「レオンでいいですよ。実はさっきついたばっかりなんです」
「そうだったのかい。冒険者になるには王都に来ないとだめだからね。大変だったんじゃないかい?」
実は異世界から来たんです。なんて言えるわけもなく...
「私たちはあまり苦労しませんでしたね。ほとんど何もすることもなく着くことができました」
ナイス!だがどこから来たか聞かれたらまずいぞ。
「それは良かったね。本当なら護衛がいないと旅は危ないからね。気をつけないよ」
フラグをたてたのに聞いてこない。やはり異世界だ!
「ありがとうございます。ギルドと街も見てみたいので行ってきますね」
「いってらっしゃい。夕飯は夜の鐘がなったら出せるから、あまり遅く帰らないでくれよ。帰ってきた時に飯がないんじゃ世話ないからね」
「分かりました。気をつけます」
夕飯か...まだこの世界に来て何も食べてないな。楽しみのような、怖いようなって感じだ。
「先にギルドでいい?まずは登録して、情報収集はそのあとにしない?」
「異議なし。ギルドだったら情報も入りそうだしな」
ゲームなら「ギルド=情報の溜まり場」だ。この世界でもそうであってほしい。
ロレシアさんが言ったとおり、数分あるくと目立つ建物が見えてきた。
あの建物に入るのは少し遠慮したいな...
「剣と魔物?かな」
「だろうな。あんな大きい看板を置かなくてもよさそうだが...」
入り口の隣に剣や魔物を真似た彫刻が置いてある。お世辞にも上手とは言えないが、外に置くのならあの程度が普通なのだろう。
少し入ることにためらいながらもドアを開けて入ると、以外にきれいな部屋だった。
ギルドなら酒によった冒険者が少しはいそうものだが、どうやらこの世界には少ないらしい。
今も9名ほどいるが、飲んでいるのは二人だけだ。
「こんにちわ。冒険者ギルドに御用ですか?」
可愛らしい受付の女性が声をかけてくる。どうやら動きで新人だと分かったようだ。
少しおどおどてしていたから、わかり易かっただろう。
「私達冒険者になりたいんですけど、できますか?」
「もちろんです。こちらの紙に必要事項を書いていただければリングを作成しますよ」
そう言って受付の女性は紙とペンを差し出してくる。
会話は寝てる間に翻訳魔法をかけたので大丈夫だと言っていた。
だが文字を読むのはできない...なんてことはない。そこもしっかり魔法を使ってもらったのだ。どこぞのファンタジー小説よりも親切な世界だ。
名前:レナ・タカナシ
年齢:16
性別:女
名前:レオン・カミシロ
年齢:16
性別:男
たった3項目かよ!なんて思ったら、これから職業判断がされるらしい。
「レナ様に、レオン様ですね。魔水晶を持ってきますのでしばしお待ちください」
紙を持って後ろの部屋に下がる女性。どんな職業になるのか楽しみだ。
待つこと数分で大きな水晶を持って戻ってきた。
「魔水晶に手を置いてみてください。まずはレナ様からどうぞ」
少し緊張した面持ちで、ゆっくりと手を伸ばしている。
玲奈の職業も気になるが、どんな風に判断されるのかも楽しみだ。
魔水晶に手のひらが接触する。
その瞬間魔水晶から光が飛び出し、空中で漂っている。
光はすぐさま形を変えた。ナイフから剣、そこから更に大きな剣。一旦もとの光に戻り、今度は木の棒へ、そして杖へ、さらに形の整った綺麗な杖へと変化する。
そこで光は消え、魔水晶も光ることをやめた。
「...」
受付の人は何も言わない。何かまずいことがあったのだろうか。
玲奈が恐る恐る尋ねる。
「...何かおかしな点がありましたか?」
その質問に受付の人はハッとした。どうやら驚いて放心状態だったようだ。
「い、いえ!驚いていたのです。レナ様にオススメな職業は二つです。これは一般の方よりもとても少ないのですが、剣と杖が3段階変わったところがすごいのです。普通の方の場合最初の段階で変化が終了し、まれに2段階まで変わる方もいらっしゃいます。しかしレナ様は3段階。これは剣士としても、魔法師としても一流になる可能性があると言うことです。どちらも極めることが出来れば、魔法剣士として活躍することができます」
「魔法剣士...強いですか?」
「現在魔法剣士は600名ほど確認されていますが、一番上の方でも剣と杖の2段階まで。その方はA級冒険者ですので、レナ様が才能を発揮すればもっと上にいけるかもしれません」
「そう...ですか。ありがとうございます」
「頑張ってください。では、レオン様もどうぞ」
さすが玲奈だ。こんな所にも才能があったとは...俺はどんくらいの職があるのかな。
魔水晶に触れると意外に温かいことに気づいた。
そう思った頃には光が飛び出し、木の棒の形になっていた。
どうやら魔法を使うことはできるようである。
木の棒が変わり、杖になる。さらに玲奈と同じようにきれいな杖となった。
まじかよ!俺も有名な魔法使いにはなれそうだ。
だがそこで終わることはなく、濁った銀色からきれないな銀色へ、そこからさらに金色へ、止まること無く今度は虹色に輝く杖になった。まるで鉄から銀へ、銀から金へ、金から宝石のような材質に変化したことを表すように。
そして次に葉っぱのようなものを型取り、5段階まで変わった後、俺も2職しか得ずに光は消えていった。
「...」
「...」
俺も何といえば良いのかがわからない。受付の人はさっきよりも口を開けて驚いている。
女性として大丈夫なのだろうか?
関係ないことを考えつつ、彼女が戻ってくるのをまつ。
「...っは!」
ようやくお目覚めのようだ。気になっているのだから早めに行ってほしい。
「レオン様は一体何者ですか...7段階なんて未だ確認されていませんよ?今までの最高が4段階でしたのに、さらに3段階も上にあがるなんて。それに加え薬師の適正もあるようです。冒険者には怪我がつきものですので、自分で納得の行く薬を作れるのは相当な価値になりますよ」
「俺は一般人ですよ?ところで、職業はどうやってなるのでしょうか?」
「...まずはこのリングをつけて神々の窓を御覧ください。神々の窓に先ほどの適正職業が書かれているいるはずです」
「玲奈。先にお前のを見てみよう」
わかったといって、ステータスを開く。
名前:レナ・タカナシ
所持金:24905
-職業-
剣士(Lv1)
スキル:垂直斬り/水平斬り/剣風/突き/ガード
魔法師(Lv1)
スキル:「火・水・風・土」/ボール系/ウォール系/ストーム系/支援系
-称号-
天才剣士:力の上昇。剣の威力増加。剣士職の経験値アップ
天才魔法師:知識の上昇。魔法の威力増加。魔法職の経験値アップ
「天才って...それよりもスキルってなんですか?」
受付は俺の質問にスラスラと答えてくれる。
「スキルとは職業のレベル、熟練度を上げれば精霊の加護により使えるようになるものです。剣士の場合、どんなに使っても体力の続く限り使えますが、魔法師の場合は体力に加え、魔力の残量も必要となります」
「スキル以外でももちろん攻撃出来ますよね?」
「もちろんです。剣士の場合なら自分の型を見つけても良いかもしれませんね。魔法師の場合なら自作魔法でも使うことはできます」
自作魔法か...おもしろそうだな。
自分のも見てみなくては!
名前:レオン・カミシロ
所持金:0
-職業-
魔法師(Lv1)
スキル:「火・水・風・土・光・闇・雷・空間」/ボール系/ウォール系/ストーム系/支援系/メテオ系/回復系
薬師(Lv1)
スキル:調合/薬鑑定/素材鑑定/素材発見
-称号-
神の魔法師:知識の上昇。魔法の威力増加。魔法職の経験値アップ
加護を受けし薬師:調合の効率の上昇。薬の判別が可能。素材の判別が可能。
「そういえば、職業レベルってなんですか?」
「職業レベルは『どのくらいの実力があるか』の目安となります。職業やクエストによってはこれが足りないとできないものも多数あります」
「色々とありがとうございます。ちなみにこのことって他に漏らしたりします?」
「それはありえません。ギルドは情報の公開もしていますが、冒険者個人の情報は公開しないことが原則ですので、ご安心ください」
「分かりました。またクエストを受けるとき、よろしくお願いします」
「それではレナ様、レオン様、よい冒険者の旅立ちを」
あまりにもびっくりな一日だ。異世界に来たと思ったら今度は天才魔法剣士だと。俺にいたっては神の魔法師だ。
それに魔法師に隠れてなかなか凄さが見えないが、薬師も5段階までなっていた。素材すらあれば薬を作ることができそうだ。
もちろん、今まで作ったことはないが、「できる」という感覚があるのだ。これがスキルの効果というやつだろう。
「今日は疲れたね...私は宿に戻るけど、レオンはもうちょっと街見ててもいいよ」
「いや、俺も戻るよ。さっき鐘もなったし飯を食べたい」
スキルの確認は明日にして、今を生きるために食事をしなくては行けない。
暇の宿亭に戻ると、美味しそうな匂いが漂っていた。
俺達以外にも数名の客が食事をしている。どれもこれも美味しそうだ。
「おかえり!何か食べるかい?」
「オススメってありますか?」
「今日はシチューが美味しいよ。一人分で銅貨3枚だよ」
「私はシチューでいいですよ。レオンはどうするの?」
あそこの客が食ってるのもシチューか。どうやら人気のようだな。
「ん、俺もシチューでお願い」
オススメの名に恥じない、暖かくクリーミーな味だった。
中に入っていたお肉がとても柔らかく、今までで一番美味しいシチューだ。
「今日はギルドに行ってきたんだろう?何の職をもらえのか教えてくれないかい?」
職を教えるぐらいなら大丈夫だと、受付の人は言っていた。
「私が剣士と魔法師です」
「俺は魔法師と薬師かな」
俺達の答えにロレシアさんはびっくりしている。
なんかまずいこといってしまっただろうか?
「魔法師かい。良い職を得られたね」
「魔法師って少ないんですか?」
段階が低い人は結構いるのかと思っていたが、そうではないようだ。
「魔法師になれるのは100人に一人か二人だよ。PTに一人入れば相当違うって聞くよ」
そんなのが天才と神としているのだ。結構俺達は強いのかもしれない。
「そうだったんですか。明日試しに魔法を使ってみたいんですが、いい場所ってありますか?」
まずは練習第一。そのためにも弱い魔物に挑戦して確認しておきたいのだ。
「この辺ならダンジョンに行けばいいと思うよ。ギルドのもう少し先にダンジョンの入口があってね、その中には魔物がいるわけ。最初らへんは弱い魔物しか出ないから、新人冒険者にはもってこいの狩場だよ。入るのに銅貨5枚必要だから、しっかりと利益をだすなら数時間かかるよ」
「ダンジョンですか。明日の朝早速行ってみますよ」
「その前に装備買わないか?この服じゃさすがにきついだろ」
少し考え、必要経費と認めたのかロレシアさんに良いお店を聞いている。
シチューも食べ終わったので、二人で部屋に向かい疲れた体でベットに入る。
異世界一日目、平凡な日常が終わってしまったが、それ以上に俺達は抑えきれない高揚感に包まれていた。