異世界-気楽
「どうしましょうか?巻き込まれて三人も来ています」
「勇者は一人、それが昔からの決まりです。二人には、悪いですが世界の説明をして自分たちで生きてもらうしかありません」
「分かりました。では、誰にするか決めなくてはいけません」
床に大きく書かれた魔法陣の上で寝ている三人を見ながら、美しい女性と、杖を持った老人が話している。
「勇者は男性の方が良いでしょう。なのでこの女性は捨てなくてはいけません」
三人のうちただ一人の女性、玲奈を見ながら言う。
「残った二人ですが、顔が良いのでこちらにしましょう。ジェムス、二人を起こして説明をして上げなさい」
ジェムスと呼ばれた老人が、恭しく頭を下げる。そして寝ている二人に杖を向けた。
「エアロ」
老人が二人に向けて杖をふる。寝ている二人が宙に浮かび、部屋を出て行くジェムスの後についていく。
この世界の名前は「アウノメア」。
そしてこの国の名前は「ラグノス」と言うらしい。
アウノメアには3つの国があり、ラグノスはその中でも魔法がさかんな国だそうだ。
現在は三国で友好条約を結んでおり、戦争は全く起きていない。そんなことよりも、世界中にいる魔物と戦うほうが重要だそうだ。
通貨は三国で共通しており、銅貨、銀貨、金貨に分けられる。銅貨50枚で銀貨一枚となり、銀貨50枚で金貨1枚となる。
普通の生活をするのなら、一日銅貨6枚もあれば十分らしい。ラグノスの平民たちの月収はだいたい一人あたり銀貨4枚と銅貨数十枚というのだから、家族を養ってぎりぎりという所だろう。
お金の管理は誰もが生まれた時に得る「神々の窓」という魔法でできるらしい。
これを使えばお金を異空間に置けるので、スリなんかには出会わない。
神々の窓は職業やだいたいの強さ、貰った称号も確認できるそうだ。
そんなことを延々と3時間。生きるためなのでしっかりと学んだ連音と玲奈は、現在王都を歩いていた。
ちなみに俺達二人以外、異世界からの訪問者は現在「いない」そうだ。
「スタンプ押されたときは驚いたな。なんか電流が流れたって感じだった」
俺たちは神々の窓をスタンプのようなものを押されることで使えるようになった。
「私もそうだったよ。ステータス...神々の窓って地球よりもすごい技術だよね」
うれしそうに話す玲奈。
異世界に来たのだからもっと不安そうな顔をしててもいいと思うのだが、街の外に出ない限りほぼ安心だというのだから緊張する必要もない。
用心するべきは荒くれ者ぐらいだそうだ。
「神々の窓ってのもめんどいしステータスでいいだろ。今日どうするかのほうが重要だ」
「お金はあるし、まずは宿をとらなきゃね」
嬉しかったのはお金をもらえたことだ。二人合わせて金貨10枚。
宿で一泊するには二人で銅貨10もあればいいというし、そこから食費を銅貨5枚分ほど引いても一日銅貨15枚だ。
金貨10枚。銅貨で言うなら2万5000枚。一日15枚なら4年以上は寝て暮らせる。
「まずは宿を取って、冒険者ギルドに行こうか」
「さっそくか。そんなに冒険者がいいのか?」
「冒険者という職業がある」そう聞いた玲奈はすぐさまこの職に就くことを決めたそうだ。
地球では美人で頭の良い、玲奈はその噂に泥を塗らぬようがんばっていた。
頭が良い、顔が良いから幸せだという単純な理論を本気にしているものが多いが、それは逆に嫉妬などの色々な目線を受け続けるということである。
だからこそ玲奈は、あまり生きることが楽しくないと俺に言っていた。もちろん、他の人にはそんな所は一切見せてない。
「旅したかったんだよ。死んでもいいから、私の知らない場所、私を知らない場所に行きたかった」
「そっか。でもまずは強くならないと。魔法を使えないか調べて、できないようだったら剣を覚えないといけないし」
楽して暮らせるのは4年。その間に生きるすべを得なくてはいけない。
なにせジェムス曰く「異世界から来たものは少なくとも500年以上生きる」とのこと。
しかも容姿も20歳ほどになったら変わらなくなるというのだから驚きだ。
「できたら魔法使ってみたいな。空を飛んでみたい」
夢は魔法少女か...そんなんで魔物にやられたらこっちが困る。
「弱い魔物でも一般人じゃ倒せないっていってるし焦るなよ」
「分かってる。私が死んだら連音も死んじゃいそうだし慎重にするよ」
その通り。玲奈は財布も預かり、知識も持っている。
俺だけなら発狂しててもおかしくない状況なのに、玲奈と一緒なら大丈夫だろうと思えてくる。
なぜ俺達「二人」がこの世界に来たのかは分からないが、平凡な日常よりはこっちのほうが楽しそうだ。
俺も玲奈も親はいないし、あまり心配もかけないだろう。
玲奈に惚れている優斗には悪いが、他の人と結婚でもしてお幸せになってほしい。
優斗のいる地球にはもう戻れないのだから。