戦略-仕事
「優斗!少しだけ足止めしてくれ」
後ろから指示を出しながら攻撃魔法を発動させる。
優斗は少しきつそうな顔をしているが、今あいつを押さえられるのは優斗しかいない。
現在戦っているのはキングコピスオン。王都ダンジョン50Fのボスだ。
サソリのようなこのボスは毒効果のある攻撃を俊敏な動きで攻撃をよけつつ放ってくる。
毒自体は魔法でほとんど防げるのだが、このコピスオンはそれだけでなく力も強い。
玲奈は軽量装備で盾ももっていないため攻撃を防ぐことができず、俺やユメリア、小さいままのライトは言うまでもない。
そのため攻撃のほとんどを優斗が盾で防ぎ、時々俺が魔法で防いでいるのだ。
「グラビティ」
少しでも攻撃回数を減らすため相手の重さを数十倍にする。
動きが一気に遅くなったコピスオンに玲奈と優斗、ライトは一斉攻撃を開始する。
「「バーストショット」」
「ガウ!(バーストショット?)」
三方向からの攻撃に反応することができずどちらも直撃する。
「ッチ。まだ倒れないのか」
コスピオンがバックステップで下がろうとした二人を毒付きの攻撃で吹き飛ばす。
ライトは既に逃げているというのがさすがだ。
「ック」
玲奈はどうやら毒を受けることがなかったようだが、優斗は食らってしまったようだ。
「ヒール!」
すぐさま二人へ回復魔法が使われる。俺の隣にいるユメリアのおかげでほとんど一瞬で怪我は治る。もちろん状態異常もお手のものだ。
「ありがと!」
優斗のお礼に顔を赤らめるユメリア。ああ...戦い中にデレないでくれ。
その後数十分間戦いを繰り広げ玲奈の放ったバーストショットでコピスオンは光となって四散した。
「ふう...連携もいい感じだったな」
嬉しそうに優斗が言っている。
ユメリアや玲奈、もちろん俺もその言葉に頷く。
この4名と一匹でPTを組んで既に2週間が経過している。
最初は人数の増えたせいで動きづらかったりしたが、今ではしっかりと連携も取れるようになっている。
俺が後ろから魔法で攻撃しつつ、指示を与える。玲奈とライトが相手を撹乱し優斗が攻撃を受け止める。もし誰かが傷ついたのならユメリアが一瞬で回復させてくれる。
ドロップ品を回収し魔法陣へと入る。今日はここでお開きとなって家へと帰る予定だ。
「腹減ったな...今日の飯当番誰だっけ?」
現在の家の食事は当番制でみんなが受け持つようにしている。
料理の美味しさを表すなら優斗<俺=ユメリア<玲奈といったところだ。
「私とユメリア。ユメリア、何か食べたいのある?」
作るものは当番の二人が決めることになっている。
ユメリアか玲奈が一人でも入ればほとんど野菜づくしのメニューとなる...
運良く俺と優斗が組めば肉尽くしの男メニューだ。
「チーコのサラダと魚の塩焼きでどうですか?」
ユメリアの言葉に玲奈がうなずきその日のメニューが決まった。
かれこれ一週間家で肉は出ていない...
「二人は先お風呂入ってて。ご飯作っとくから」
分かったーと言いつつお風呂場へと向かう俺たち。
無駄に広く作ってしまったせいで二人同時に入れるのが悲しい。何が嬉しくて男同士で風呂へ入るんだ。
入ってすぐまずは魔法石に魔力を補充しお湯をためる。わざわざ毎日補充しなくても良いのだが「念のため」と言って玲奈がさせるのである。
薬師の知識を最大限利用し、いろいろな文献から得た知識を使って作成したシャンプーもどきとリンスーもどきで頭を洗い、石鹸で体を洗う。
男二人のそんな風呂場にライトがやってきた。
ライトは一旦戻して再召喚すればきれいになるのだが、なぜかお風呂場へ来て一緒に浴びるのを日課にしている。
「ライトーお前も洗うか?」
俺の言葉に嬉しそうにするライト。まあこれだけ嬉しそうならやりがいがあるものだ。
それから10分間俺はライトの体を綺麗にあらい、まだたまりきっていない浴槽にウォーターボールを打ち込んで水を満たし火の魔法で温めて適温にする。
家にも色々な魔法がかけられているが、お風呂場はもっと多くの魔法がかけられており、とても大きい部屋なのに暖かかったり火を使っても燃えないという最高の設備になっている。
「...しみるなー」
幸せそうに言っている優斗には悪いが男風呂におじさん臭い台詞などいらん...
お風呂は合計30分ほど入り随分と堪能した後、浴槽の水を張り替えて(ユメリア命令)1Fへと降りて行った。
「おお、美味しそうだな」
俺の言葉に誇らしげ顔をする二人。どうやら自信作のようである。
「今日はいつもより美味しいよ。私たちはお風呂入ってくるから鍋見ててね」
コトコトと言っている鍋の番をまかされ二人が風呂からあがるのを待つ。
いつのまにか増えていた一品であるスープの匂いが食欲を誘う。
食欲と睡魔を我慢すること1時間。ようやく二人が戻ってきた。
玲奈の濡れた黒髪やユメリアの金髪は見るだけでも恥ずかしい...
「そろそろギルドを作らない?」
食事中、突然玲奈がそう切り出した。
「ギルドか...おもしろそうだしいいと思うよ」
俺の賛成票。優斗もユメリアもギルドという言葉に顔を輝かせている。
満場一致で決まったギルド作成だが、意外な所で問題が生じた。いや...前も同じような理由で流れたのだが。
「ギルド名はやっぱparallelWorldHero!略してPWH」
堂々と言い出しただけに自信満々だ。
イケメンなのに...かわいそうなネームセンス。しかもPWHをどうやってプーチと読む?
「私は気ままな冒険者が良いと思います」
声は別のでもいいですよ、みたいな感じなのに顔は自信満々だ。
王女さま...どこのブログですか?この世界にインターネットなんてあったのか...!?
「...」
愚痴は言っても何も出せないのが俺だ。言って叩かれるのなら黙秘しかない。
「私はファインがいいかな。異世界をもじって快晴。英語にしてFine」
こちらは本当に案を出しただけのようである。だがこの中で一番まともな名前でもある。
「んじゃ...俺玲奈に一票」
こちらを向く3人。
優斗とユメリアは「ありえない(ません)!」と言うような顔で。
玲奈はただたんに「ありがとう」というような顔で。
その後も前者二人は色々と案を出していたが結局良い物は出ずファインに決定した。




