勇者-再会
新章突入。今回は2人の視点に分けてみました。
<優斗編>
ここに来てもう一ヶ月が過ぎた。
最初の頃はアウノメアの歴史や文字などを教わった。
2週間前、魔水晶で職業適性検査をしたら、騎士と魔法師、その他5種類の職を得られた。
それに加えラグノス王国国王直々に勇者として任命され、現在8種類の職を得ている。
なぜここに自分が来たのか、なぜ俺だけだったのかはまだ教えてもらっていない。
誰に聞いても「わかりません」としか言わないし、一緒に川に落ちた玲奈や神代も来ていないという。
後者の質問に対して数名が何か隠してる雰囲気があったが、何を隠しているのかまでは分からない。
今は従者として選ばれた5名と、ただダンジョンを攻略する日々を過ごしている。
「地球には帰れない」「現在生きている異世界人は俺だけ」「心置きなく話せる人がいない」。 そんな中で発狂せずに生きている俺だが、そろそろ限界が近い。
もしあの日釣りに行かなければ、もしあの日神代を手伝わなければ、もしあの日川に落ちなければ...そんなIFの想像がずっと頭のなかに住み着いている。
俺はあと何百年、このつまらない世界で生きていくのだろうか?
「ふふ。未来よりも今を生きないといけないのにな」
一人そんなことをつぶやく俺は、やはりどこか狂い始めてるはずだ。
たった16歳の勇者。まだ何をするのかも分からない。それでも今は、生きるために行動しよう。
そのためにもまずは、大切な自由時間を使って王都をまわってみよう。
<連音編>
ダンジョン攻略が中止となったので(玲奈がショッピングへむかった)、現在一人で王都を探索している。
一人になるとまた違った見方ができ、同じ場所でも飽きることがない。
地球ではどのくらい時間が経っているだろうか?もしわかっても、戻ることのない俺には意味のないことだ。
今でもたまにある想像をすることがある。ただ一人異世界トリップを免れた優斗のことだ。
あの日俺達は3人とも川に落ちたのに、俺と玲奈だけ来るってのがおかしい。
しかしジェムスさんが言うには「落ちてきたのは二人だけ」。わざわざ嘘をつく必要が考えられない。
「ん、本屋か...?」
今まであまり来ることのなかった王都の中央部を歩いていると、本のたくさん置いてある店を発見したのだ。
この世界に本は少ないようでほとんど見ることが無かったが、ようやくみつけた本の山。買わずに戻るのはどうかしている。
この国の歴史などは軽く教えてもらったが、少し腑に落ちないことがあったので調べる必要があると思っていたのだ。
なぜ異世界から落ちた場所が城なのか、今いないという異世界人への対応の良さを思い出す。 思い立ったが吉日、早速調べてみよう。
<優斗編>
どっからどう見ても中世ヨーロッパ。そんな王都の街並みを見る度に、異世界にいるのだということを思い知らされる。
まだ民衆に勇者だという公表はしていないので、何も気にせず王都を歩ける。
地球では見られない獣人族の方や、犬のような姿なのに動きがまるっきり猫という変な生き物を見るのは意外におもしろい。
お気に入りとなりつつあるお菓子を買食いし、最も安らぐことのできる場所へと向かう。
石造りの王宮とは違う木造建築のその場所は、今まで見た中で最も地球に似ている場所である。思い出すのは古本屋。家の近くにあるお気に入りの本屋よ似ているのだ。
まだ数回しか行ってないのだが、黒髪が目立つのかすでに店員からは覚えられていいる。
何を買って帰ろうかと店の中を歩いて行く。
パソコン検索などできるはずもなく、ただ簡単に分類された本の中からおもしろい本を探すのもおもしろい。
店の奥へと進み、ふと見た先に懐かしいものがあるのに気づいた。
日本では毎日見てきた黒髪だ。今は自分以外の人で見ることが殆ど無い。
その黒髪をもつ人に興味がわき、声を掛けてみようと近寄った。
どうやら相手は読み終える間近だったらしく、歩き出したと同時に本を戻しこちらを振り向いた。
...
...
...
時間がゆっくり流れている。振り向いた黒髪の少年の顔を見て、俺は固まっしてしまった。
<連音編>
店に入り数時間が経過している。読み終えた本はすでに3冊ほどだ。
魔法の専門書や、国の歴史が書かれた本を探し出し疑問の答えを探す。
本を読むと簡単に、いくつかの事実がわかってしまった。
「...まさか召喚されたとはね」
国の歴史が書かれていた本に、何度か異世界から召喚された勇者が登場した。
呼ばれた勇者は全員なんらかの功績を残しており、その中でも「タロウ」という男性が最も多くの功績を残していた。
タロウ...明らかに日本人だろう。俺達のご先祖様がこの世界に召喚されていたのだ。
そしてさらに読み解いていくと、召喚されたものの中には、召喚された人に巻き込まれて戻ることができないという人もいたらしい。その数名が騒ぎを起こし、事件があったとも書かれている。
もし仮に俺と玲奈がそうなのだとしたら、召喚されたのは優斗で間違いない。
事件があったのだしそれを回避するために、俺達をさっさと捨てたということにもつながる。
たしかにたった一人だけが勇者として偉くなるなんて、一緒に来たものは「巻き込んだくせに!」と思うはずだ。
今日まで優斗からの接触がないということは、まだ優斗もこのことを教えてもらっていない。たぶん知ることもほとんどできないはずだ。
ようやく色々な疑問から開放された俺は、このことを玲奈に伝えるため家へ帰ろうとした。
本を棚に戻し、入り口に行くため振り返る。
...
...
...
短いとも、長いとも言える時間が流れる。
見慣れている顔、さっきまで絶対に見るはずのできなかった顔...
「ゆう...と?」
「連音、だよな?」
わかっているのに、それなのに何度も確かめ合う。
「狙ったのかと言いたいようなそうじゃないような。久しぶり!」
少し前に確信していただけに、俺のほうが早く現実へと復帰した。
それでも優斗とは「ぁぅ」とか「なんで」とかつぶやいている。
「なんだよ。幽霊をみたかのようんあ!?」
いきなり優斗が胸へと飛び込んできた。
可愛い女の子ならわかるが、さすがに男なんて気持ち悪いだけだ。
それがたとえ感動の再会のシーンでも!
「連音!お前は来てないって思ってたのに!?」
「いや、俺もお前が来てるって思ったのはついさっきだけどね。まさかこんな場所で会えるとは思わなかった」
「どうして城にいなかったんだ?お前も召喚されたんのか?」
「いやー...俺達は捨てられたんだよ。勇者は一人ってわけ」
嬉しいのは分かったから早く離せ!嫌でも現実を見なくちゃいけないだろうが。
すでに数名の客や店員がこちらを見物している。
「よく分からんが良かったよ。このままじゃ俺、壊れそうだったし」
うん...俺も周りの視線で壊れそうだ。
「分かったから離せ!お前はいつの間にそんな趣味を持ったんだ」
無理やり抱擁を引き剥がす。断じて俺は変な趣味など持ってない!
「お前時間あるか?なんなら説明するぞ」
時間はまだあるようなので、何の説明もせず家へと向かう。
家や玲奈、それに加え自慢のライトを見て驚いてもらおう。




