日常-異常
登場人物
神代連音(Reon Kamisiro)
小鳥遊玲奈(Rena Takanasi)
白崎優斗(Yuuto Sirasaki)
いつもと変わらない、何の変哲もない朝だった。
二度寝をしたくても学校のためすることができず、いっそさぼろうかと思いながら朝の仕事を消化する。
洗顔をし、朝食を食べて片付けをする。
ピンポーン
片付けた後は慌ただしくノートを鞄につめ、身だしなみをチェックして靴を履く。
ピンポーン
ほんとに変わらない。見ているのかと思うほど同じタイミングでなる。
昨日も、その前もそうだった。何年続いているだろうか?
ドアを開け、いつものように立っている幼馴染を見る。
「おはよう。今日もギリギリだね」
「...お前は今日もぴったしだな。朝食の後、身だしなみのチェックの後のチャイム。見てるかと思うぞ」
実際、同じタイミングで鳴らされたらそう思っても仕方ないだろう。
でも彼女なら、小鳥遊玲奈ならできても不思議だとは思わない。なぜそう思うかは自分自身分からないが...
「連音だからかな。他の人ならこうもできそうにないね」
「...俺が規則正しい生活を送っていると言いたいんだな」
「ふふ。本気で言ってる?」
笑いながら玲奈は歩いて行く。俺はその隣に並んで学校へ向かう。
「冗談。俺が規則正しかったらこの国の高校生のほとんどが当てはまるな」
俺が規則正しい生活を送ったことなんて記憶に無い。いつも朝だって少しずつずれてるのだ。
「少しぐらい努力したら?もう少ししっかりしないと苦労するよ」
「まるで社会人だな。お前がしっかりしすぎてるから、幼馴染の俺が調整してるんだよ」
玲奈はしっかりしている。成績も良く、地元では有名な美人で、友人関係も良い。
「天は二物を与えず」と言うもののの、彼女の欠点なんてほとんどない。良い二物を貰っている。俺は反対の意味で二物をもらっているし。
俺を説明するなら大抵の人が戸惑うだろう。成績は中の上、スポーツも同じ、顔もほかのほとんどが中の上なのだ。
唯一の幸せポイントと言えば隣の幼馴染。こんな可愛い娘と登下校できる男なんて滅多にいないはずだ。
残念ながら、恋愛にまでは行きそうにないのだが...
考えても意味がないことが何度も何度も頭に浮かぶ。
幸せである時間の反面、苦悩の時間でもあるのも事実。
この考えもまた、いつもどおりだ。
「おっはよーう!玲奈、神代!」
「無駄に朝から元気だな。優斗」
「おはよう。優斗君」
教室に入って軽く挨拶をしていると、学校でトップに入るイケメン。白崎優斗があいさつをしてくる。
ちなみにこいつは玲奈に一目惚れをしたそうだ。
玲奈は自分が美人だと認識している。逆に優斗は認識していない。
そのためか、優斗は玲奈と同じような二物を貰っている者なのに、なかなか告白できないのだ。
「なあ神代!今日の放課後暇だったらさ、一緒に川に行かないか?」
「泳ぎ?釣り?」
「もち、釣りだよ!良かったら玲奈さんもどう?」
片思い歴3ヶ月。夏になってようやく玲奈を遊ぶに誘うことが増えた。前は俺から玲奈に誘って欲しいと言っていた。
「私は連音が行くなら別に大丈夫だよ」
む...俺も行かないとだめなのか。
どうせなら気を利かせて二人で行かせたかったのだ。もちろん、面倒臭かったというのが本音だ。
「別に暇だし大丈夫だぞ。今日は短縮だったか?」
「お前はそれでも高校生か!休みと短縮を忘れてどうする!」
別に必要ないだろ、そんな知識。とは言えない。
「そうだな。失格か...なら釣りを中止して反省しよっと」
反省、反省。
「ま、待て!別に中止してまで反省しなくても良い。神代も玲奈さんも放課後ここで待っててくれな」
それじゃ、そう言って優斗は教室へ戻る。ここは1組であいつは6組、わざわざ毎日来るなんて殊勝なやつだ。
代わり映えのない退屈な授業。変わったのは天気とやっている内容ぐらいだ。
授業が終り、溜まったストレスを開放するため、いや爆発させるために生徒が一斉に動き出す。
クラブに入っていない俺と玲奈は、同じように無所属の優斗を待つ。
待つこと数分で優斗がやってきた。いつもながら、玲奈が居るとき「だけ」は早いやつだ。俺だけの時は平気で遅れてくるくせに。
「ほいじゃ、行きましょうか!」
「先どこ行くんだ?竿は誰のを使う」
「俺んちのでいいよ。神代の家は遠いからな」
俺の家は学校まで徒歩で30分ほどかかる。
優斗の家は数分で着くので距離が断然違う。
「分かった。玲奈はなんかどっか寄って行きたい所あるか?」
「大丈夫だよ。今日は予定なし!」
笑って言う彼女に俺はうなずき、優斗はだらしなく笑い、3人で歩き出す。
これもまたいつものことだが、二人と歩くと少し劣等感に苛まれる。
美人とイケメン。なんと素晴らしい組み合わせだ。
周りの生徒も二人を見れば「付き合ってるのかな?」「お似合いだよね!」なんて黄色い悲鳴を上げるのだ。
そんな時俺は金魚の糞のような扱いで、もしかしたら一緒にいると考えられてないかもしれない。
軽く雑談をしながら、優斗の家に向かい、竿を3本借りて川へと向かう。
玲奈はほとんど見てるだけなのだが、優斗は自分で教えたいらしく、釣りに行く度に3本持っていくのだ。
玲奈自身、「いらない」と公言してるのにも関わらず。
「今日は何が釣れるかな?」
「前回は3匹ぐらいしか釣れなかったな。今日はどっちが多く釣れるか、勝負しないか?」
「お、神代にしてはめずらしい。自分から言ってくるなんて」
「俺が言わなくても、するつもりだったろ?」
「そうだけどな。玲奈さんはどっちが勝つと思う?」
少し考え、玲奈は答える。いつものように...
「連音にかけるよ。頑張ってね!」
「玲奈さんはいつも神代だよな...贔屓すぎる!」
「だって私以外に連音を押す人なんていないよ?」
なんて幼馴染だ...失礼すぎるだろ。
「ま、そうだね」
こいつもあんまりだ!せめてフォローぐらいしてくれてもいいじゃないか。
「お前ら本人の前で抜け抜けと...絶対見返しっ!!」
まだ始めて数分だというのに魚がかかった。
今までにない力で川へ引っ張られる。魚って恐ろしい。
だが意地でも負けるわけにはいかない。釣って見返さなくてはならないのだ。
「神代!手伝おうか?」
うむ。俺一人じゃ無理そうだ。
「頼む。後ろから支えてくれ」
まかせろ。そう言って優斗は俺の背中を支える。
二人がかりでも引っ張られる。こんな魚が川にいるのか。
二人で引くこと数十秒。とうとう最悪の事態に陥る。
プチッ
そんな音が聞こえることならまだいい方だっただろう。
俺達は糸が切れることもなく、踏ん張ることもできずに川に引きずり込まれた。
「危ない!」
玲奈が俺達二人を引っ張ろうとするが、どんなに優等生でも力は平凡。
男二人と魚を引っ張ることなどできるはずもなく3人一緒に川へと落ちる。
着水まであと3秒、2秒、1秒...
反射で目を瞑ってしまう前に、俺は川が光ったように見えた。
まるで後光がさしたとでも言うような、朝日が出てくる時のような感じだった。
そして俺達は、光る川へと為す術もなく落ちた。
誤字脱字などが有りましたらご指摘ください。
処女作です。
作者は高校生なため更新は不定期です。