暗闇と声
シュンが通うこの学校は、流風中学校である。
特別頭がいい学校という訳でもなく、スポーツが盛んという訳でもない。
至って普通の学校である。
シュンが所属する陸上部も、県大会止まりであり、やはり強いとは言えない。
しかし、今年は別である。
部長のシュンと副部長のケイスケは、さらに上の大会を狙える位置にいた。
季節は春、これからの頑張りが、結果に大きく左右する季節に入った。
シュンは、三階にある自分の教室に向かっていた。
途中、陸上部2年の「ユーマ」とすれ違った。
ユーマはシュンに気付き挨拶をした。
「先輩、おはよーです。」
「うん?あぁ、ユーマか、おはよーさん。」
「今日も朝練っすか!凄いっすね。」
「まぁ今年で最後だからな~、悔いを残さないために……って、お前も朝練しろよ!」
「いや~、俺もやりたいんすけど、朝は弱くて。それに、朝練は強制ではないはずっすよ。」
シュンは(確かに…)と心の中で思ったが、先輩として引くわけには行かず、
「だからお前は強くなれないんだ。」と捨て台詞を残し、自分の教室に逃げるように歩みを進めた。
ユーマは、シュンがいうほど、弱いわけではない。
部活は一生懸命やっているし、手を抜いている様子もない。
それに、去年は県大会の1500mで、決勝の舞台に立っている。
(もう少し本気になれば、入賞も見えてくるのだが…等の本人は、どう考えているのだろう?)と、
シュンはユーマの陸上への熱意が読めないでいた。
教室に入ると、陸上仲間から「お疲れ~。」と声をかけられた。
軽く手を挙げ、自分の席に着いた。
少し遅れて、ケイスケも教室に入ってきた。
何を隠そう俺とケイスケは、三年間同じクラスだった。
クラスが二つしかないにしても、何か因縁を感じざるを得ない。
ケイスケは教室に入ると、一直線にシュンの元に向かった。
「シュン!俺を置いて行くなんて酷くないか~。」と、いい終わると同時にチャイムがなった。
「えっ…、もうこんな時間かよ!」と焦るケイスケに、「これで先に来た理由がわかったろ。」と少し満足げに笑うシュン。
先生が入ってくると、ケイスケは急いで自分の席に着いた。
いつも通り授業が始まり、いつも通り終わる。毎日がその繰り返しだった。
いつも真面目に受けていたシュンだったが、今日は何か違った。
急に眠気に誘われたのだ。
(ケイスケと久しぶりに朝走ったから、張り切り過ぎたんだろう)と、眠気の理由を考えていた。
そんなことを考えていても、眠気には勝てず、そのまま意識は闇に覆われた。
シュンは、暗闇に立っていた。
「なんだここは?!どこなんだ…?」と、状況が飲み込めずにいた。
誰の声も、何の音もしない。
何か言葉を発しようとした瞬間、微かに声が聞こえた。
その声に耳を傾ける。
しかし、小さすぎて聞き取ることができない。
何度聞こうとしても、答えは同じだった。
そして、声は完全に聞こえなくなった。
(誰の声だったんだろう。)と、思った瞬間、地震が襲ってきた。
「地震だっ!!」と、叫んだときにはもう、意識は闇に覆われていた。