008⇒隙間からの『め』
「あ・あの〜」
あかりが一生懸命にナオキくんに声を掛けていた。
わたしと琴美は少し離れた所から、それを見ていた。
「ちゃんと話せてるかなー?あかり。あー見えても純なトコあるからねぇ」
「…そうだね」
何だかこっちまで緊張していた。
だってあかりのあんな緊張した顔見るのも久しぶりだったから。
「あっ!二人がこっちに来る…」
「え!?嘘!やだ…」
慌てる私達をよそに二人はゆっくりと歩いて来た…。
そして、
「ヤッホー♪二人とも〜。しょーかいするね、こちらはナオキくん。
となり町の高校に通ってるんだって…」
「あ、初めまして琴美です…」
「初めましてナオキです」
ナオキくんは琴美に挨拶すると次にわたしを見た。
「……初めまして…ナツキです。」
わたしは思わず嘘をついてしまった…。
「………初めまして…よろしくね…」
ナオキくんはわたしに気遣ってか合わせてくれた。
「ねーねー、ナオキくんは何でここにいるのー?」
あかりは、はりきってナオキくんに質問していた。
「…うん、実は昔この辺に住んでた事があって…」
「あ・そうなんだ。」
「ナオキさんの趣味は?」
次は琴美が聞く。
「え?俺、パラパラ好き。」
「あはー!あたしもだよ!気が合うじゃん」
あかりが手を合わせながら声を張上げた。
「パラパラねぇ…」
「ねー、琴美あんたもこの際だからパラパラしなさいよ」
「え?いいよ。私、アレはちょっと…」
「やってみたらわかるって!ハマるはず…」
………。
…なんだか、この三人の会話に入れなかった…。
わたしはふと窓から見える青空を眺めていた…。
……え?
…一瞬だが、指が見えた。
わたしが窓を見た瞬間、隠れるように指は消えたのだ…。
「………。」
やっぱり…まだいるんだ…。
彼女は私を苦しませる為にいつも近くにいるんだ…。
そう思うと何だか落ち着かなくなり、この場にいる事が出来なくなった…。
「…ナツキちゃん」
ふと、ナオキくんの声がした…。
「……はい?」
「…大丈夫だよ。落ち着いて…」
「………?」
…そうか、直樹くんにも見えてるんだっけ。わたしだけじゃないんだ…。
そう思うと何だか安心した。
「ありがと。」
「え?何?」
あかりが質問してきた。琴美も不思議がってた…。
「あー。ナツキちゃん…俺を怖がってるから…」
ナオキくんはまた気遣ってくれた…。
「ナツキって人見しりだっけ?」
「そうなの?」
「…いや、違うけど」
二人は不思議がってたけどあまり気にしてなかった。
…そして、あっという間に夕方になり、みんなで帰る事になった…。
だけど…
「ごめん。わたしは…寄るトコあるから…」
「ナツキ?」
「ごめんね。後はみんなで楽しんで…」
そう言って三人から急いで遠ざかった。
正直、みんなでワイワイできる気分じゃなないし…
うっとしいとも思ったわたしはバス停に向かった。
もしかするとあの女がいるとも思ったが、きっとあの駅よりは安全だろう。
…ブゥーン…
バスが来た。
少し不安もあったがバスに乗る。
中は結構込んでたので私は後ろの席に座った。
……ブゥーン…
バスはゆっくりと学校から離れて行き家の方面へ向かっていた。
しばらく経つと、ほどよい揺れが眠気を誘い始めた。
このまま眠るとさぞかし気持ちいいだろう。
だが、それは無理だという事に気付いたのだ。
……あの女の人の鋭い視線が私を突き刺してるのだ…。
私は周りを見渡したが、ただ人々が座ってるだけ。
……はっ…!
前には座席がある。
「………!」
さっきまで女性の頭がみえた。
でも、今は見えない。
前にいた女性は眠ってしまい、首が斜めになった為に頭が隠れたのだろうか?
いや、違う…。前にいた女性こそがあの女の人なのだ。
だって…前の座席と座席の隙間から目が見えるから。
ずっとわたしを睨んでる…。
「………!!」
ブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ〜ン
「………。」
バスは発車停車を繰り返してるが、誰も前の座席に座る事も無く、
あの隙間からの『目』は瞬きすらしない。
そしてわたしの目的地である場所で停車すると
すぐに席を立ち、去ろうした。
「………。」
カタタッ
すると、前にいる女性は向きを変え、
俯いたまま座っている体勢に変えていた。
勿論、顔は髪で全く見えない。
わたしはすぐにバスを降りた。
「………。」
降りるとすぐに窓を見たが、座っていたはずの場所にはいない。
「……!?」
もう一度よく見ようとしたが、バスはそのまま動き出し去って行った。
「………まさか!」
わたしはすぐに周りを見渡した。
だが、何処にもいない。
気持ち悪くなったわたしはすぐに家に入った。
バタン。