エピローグ
奈津子はただ涙を流していた。
そしてナオキくんの身体を引っ張り出した。
ズリッ…ズルルッズズズズズズ…
「…う…う…ああ」
ナオキくんは引っ張られながらわたしを見た。目からは涙を流し、わたしに助けを求めてるように手を差し延べた。
ズズズ…ズズズ…
「……!」
だが、わたしは動く事も出来ず、ただ引っ張られて行く彼をみつめているだけだった。
そしてどこかへ消えて行く…。
「………。」
「………。」
わたしと刑事さんは何も言わずボッーとしていた。
これは夢なのか?
現実なのか?
それとも暗示なのか?
遠くから救急車とパトカーのサイレンが聞こえて来た。
数日後−
わたしは怪我をしていた為、市内の病院に入院していた。
コン コン
ガチャッ
「あ・刑事さん…」
ドアの向こうからニコリと笑った刑事さんが顔を出した。
「よっ!だいぶ顔色良くなったねぇー。」
「おかげさまで…あと安静にしとけば大丈夫だって!」
ピースサインをするわたし。
「俺も本当は動いちゃいけないんだけどな。ジッとしてられないたちで。 ははは…」
あの後、事件はワイドショーなどに取り上げられ、わたしも刑事さんもマスコミの餌になった。
この事件が『催眠術』によるものだと発言しても、肝心のナオキくん本人が見つからない為、事件としては話題になったが、はっきりした証拠がない為、結局は迷宮入りになった。
「とにかく…良かったよ…君も何とか無事に生き延びて…」
「刑事さんと考えた作戦が効いたんですよ。」
「作戦って…君に奈津子が乗り移ったフリをした事かい?」
「ええ!結局はナオキくんが一枚上手ですぐにバレましたけど、時間稼ぎになったし…」
「2人で もし、奈津子が生きていたらこんな性格だろうなー?って分析した甲斐があったね〜!」
「ええ!奈津子さんはあかりに似ているんです。表向きは明るいんですけど根は暗いというか…心はいつもマイナス指向なところが…」
「しかしあれは…最後にやって来たのは…本物かい?」
「………わかりません。でもわたし達が助かったって事は…助けてくれたとしか考えられません。」
「ああそうだな。しかし…いるものなんだな…幽霊って。」
「わたしもずっといないと思ってました。でも、暗示のせいで幽霊がいると信じ込み、暗示とわかると結局はいないんだ。でも最後には…」
「本物が出たってか?はははは…」
「びっくりですよぉ」
刑事さんは少しの間のあと口を開いた。
「ひとつだけ気になるんだが…」
「なんですか…?」
「君や友達の前に現れてきた『奈津子』を見た者は君以外みんな死んでしまったよね?」
「ええ、ナオキなりの演出みたいですが…」
「では、本物を見た我々は…?」
「…え?」
「本物がいるとすると我々や亡くなった人達に現れたもの全てが偽者だと言い切れるだろうか…?」
「それって…本物を見た人も死んだかもしれないって事ですか?」
「…ああ。ただナオキは奈津子を見える様にしたけど、それによって作られた不安や恐怖が彼らを死へ導いただけで、直接死因を作ったワケではないだろ?もしかすると直接の死因は本物では?」
真面目な顔で刑事さんはわたしを見つめた。わたしはすぐに笑いながら、
「それは考えにくいですよ。現にわたしと刑事さんは本物に助けられたワケですし…」
「…そうか…そうだな。じゃあ、アレは見間違いか…」
「…え?」
「おっと。時間だ。一応、仕事復帰しててね。じゃあ行くね…」
「あ・あの!」
「ん?」
「もし…もしですよ?最後のあれも暗示だとしたら…?」
「 え!? 」
「ナオキくんは確かに奈津子さんに殺され、どこかに連れ去られました。 だから彼の遺体はまだ発見されてません。」
「…ああ。」
「もし、それが『計画』だとしたら?最後の最後に奈津子さんが現れた。でもそれも嘘で…逃げる為の暗示だとしたら…?」
「まだ彼は生きてると?」
「かもしれない。」
「いや、多分あれは現実で…奈津子さんはナオキくんを救ってあげたんだと俺は思ってるよ。」
そういって刑事さんはニコッと笑った。
そしてわたしもつられて笑う。
「そうですよね!心配しすぎですよね!あはは…」
「キリがないよ!じゃあ、行くね!」
「がんばって下さい」
「おう!」
バタン。
「…………。」
わたしは窓を見る。
気がつけば桜は散り、もう夏は目の前だった。
「もう…夏か。なんだかあっという間に冬は過ぎちゃってたんだなぁ」
わたしは大きく深呼吸した。
シュッ!
「…え!?」
今一瞬、黒い影が見えた。
「……!」
ガタガタガタガタガタ
わたしの身体は一気に震えだした。
「う・嘘よ…」
わたしは窓からゆっくりと下を見てみる。
「ひっ……!」
そこには刑事さんが倒れていた。
屋上から飛び降りたのだ。
「きゃあぁぁぁぁ!」
わたしは窓から離れ、頭を押さえた。
なっ…なぜ?
「いやあぁぁぁぁぁ!」
ナゼ?
ナゼって?
「ぅぅうう!」
わたしの目から一気に涙が溢れた。
答えは一つしかない。
あれも『暗示』だったのだ…!
彼はまだ生きている!
わたしは体中の力が抜け座り込む。
そして横を見ると…奈津子が立っていた。
病室の角からこっちを見つめている。
「………。」
相変わらず顔は見えない。
「……くく…」
「…くく…あは…」
「あははははははは…」
わたしは笑った。
涙が次々と溢れ、それでも笑った。
そして、わたしは奈津子に向かって言った。
「アンタの思い通りになんかならないわ…!」
そして、わたしは勢いよく窓から身を投げた。
落ちる瞬間、思った事があった。
今そこにいた彼女は…
ナオキくんによる幻覚だろうか?
それとも…刑事さんの言うように本物の幽霊の奈津子さんだろうか?
確認せずに窓から飛び込んだわたしは少し後悔した。
少しだけ…ね?
倒れている刑事さんの姿があっという間に大きくなった瞬間、暗闇に包まれた。
ドサッ
…………。
〜END〜
《summer visit》
ふぃ〜。無事に終わりました。一応、続編あるんですが、次の機会にしたいと思います。二ヶ月間読んで下さった方、評価や感想下さった方、色々勉強になりましたし、刺激にもなりました。ありがとうございます。また次の機会にお会いしましょう。