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Summer visit  作者: スカフィ
48/50

047⇒あなたの『手』、あなたの『心』

カタン!


ガラスが地面に落ちる。


「………?」


わたしはボッーと遠くを見たまま動かない。


「どうした?早くやれよ!」


「うふふふ」


「……ん!?」


「あははははは」


突然、笑い出すわたし。


「ナツキ?」


ナオキくんは不思議そうにわたしを見つめる。


「久しぶりね…ナオキ…あたしよ…」


「ひさしぶり?何を言ってる?」


「まだわからないの?」


わたしが静かに微笑むとナオキくんは察した様に驚いた表情をした。


「…ま・まさか…」


「…そう…奈津子よ。あなたは随分元気そうじゃない?あははは…」


「馬鹿な!なんで死んだお前がナツキに…お前…まさか…」


「…あなたが作り出したあたしは本当に存在するの…!

少なくともナツキにはあたしが見えていたはず!幽霊としてね…」


わたしがふふん♪と鼻をならすと、青ざめていたナオキくんも笑い返す。


「ナツキちゃん!俺を騙そうってのかい?ひっかからないよ」


「あなたも相変わらずねぇ…昔からうたぐり深いトコあったもんねぇ…無理もないか」


「…?まさか…本物…? いや…」


ナオキくんは少しずつ動揺し始めていた。


「あたしはナツキの身体を借りて出て来てるの!とにかく!もう馬鹿な事やめなさい!

あんたがいくら催眠が出来るからってあたしが来た以上みんなの目を覚ましてやるわ!」


「何を言ってる?幽霊なんてこの世に存在しないんだ!全部この俺が作り出したんだ!」


ナオキくんは首を横に振って目の前にいるわたしを…いや、奈津子を信じようとしない。


「とにかく自首して!死んだみんなにも謝って!あたしと…お腹の赤ちゃんにも謝って!」


「誰が謝るもんかっ!いいか!お前は俺の実験に参加出来ただけでも有り難いと思えっ!そうやって死んだ事を誇りに思うべきだっ!!」


「………!」


「だいたい君が俺に声なんて掛けなければ良かったんだろ?君の運命は君が決めたんだっ!

若い男の子が欲しかったんだろ?だから俺に声を掛けた…くくく…」


「そうよ。あたしは若い子が好きだった。あの日あなたを最初に見た時…あなたはすごく寂しそうな顔をしてた…」


ナオキくんはわたしを見て有り得ないって顔をした。


「…俺が?」


「あなたは…自分の前世が殺人鬼だって事に悩んでた。ううん、気付かないフリをしてた。」


「何を言ってる?俺は自分の力で人を操れる喜びを知って最高に幸せだった!」


「それは本当のあなたじゃない!本当のあなたはそういう自分に戸惑っていたはずよ。

だから…あたしが声を掛けた時あなたはあたしにすがったのよ!

心の何処かであたしに助けを求めていたのよ!」


「違う…!俺は君が最高の獲物になると思って付き合ったんだ!」


「それは後の話よ。確かにナオキの力は凄いわ…。あたしの意志とは別に体が動いたもの。

確かに『催眠』は存在する…。

でもその力に覚醒する事によって本来の『ナオキ』はいなくなってしまった。その時のあなたは前世が殺人鬼だったあなたが心を支配してしまったのよ…!」


「…………。」


「そしてあなたはあたしを殺す計画を立てた。

…あたし気付いていたよ…ナオキはいつかあたしを殺すんじゃないかって…」


「じゃあ…お前…」


「でもね!あたしはナオキの手で死にたかった!このナツキの手じゃなくて!あなたの手で!」


わたしの体を借りて現れた奈津子はわたしの体で涙を流す。


「はっ…!お前馬鹿じゃないの。なんで殺されるのわかってて逃げなかったんだ?」


「別にそれでもいいって思ってた。あなたが望むのなら…。

でも、あたしの『死』によってもあなたは何も気付かない!そしてあなたはナツキやあかりと会った。」


「……ああ…」


「そっくりよねー!あたしとあかりちゃん…だから、すぐに付き合ったんでしょ?

物事をはっきり言う所とか思い込みが激しい所とか。

あたしあなたの子を妊娠したと知ってとても喜んだ。

でも、あなたはまだ高校生だし、お父さんも有名人で世間体とか気にするだろうし、そして何よりもあなたはあたしを殺そうとしてた。

だから自殺しようと考えて遺書も書いた。わたしの手で赤ちゃんを殺そうと…。けど出来なかった。この子に罪はない。」


わたしは優しくお腹をなでた。


「…罪?…だが、その子が出来た事でお前の『死』へのカウントダウンが始まったんだぞ?」


「…そうね。それがあなたのやり方だったものね。あなたは寂しい人なのね。」


「…は?」


「…お母さん、あなたを生んですぐに亡くなったそうね。お父さんはあんな人だから家にはあまりいなかったみたいだし。

愛情に飢えて今のあなたは『形成』された。よくあるパターン。」


「何が言いたい?俺は前世によってー」


「寂しくて…苦しくて…でも誰にも言えなくて…結局、心は前世の心へと逃げて行った。」


「………。」


「…あかりはね、あなたの『心』に気付いてた。だからあなたから逃げなかった。あなたが助けを求めてる気がしたから。それはあたしも一緒。

メインにしてたナツキちゃんはあなたのお陰で地獄絵図のような人生に変わったわ。

あなたはそれを楽しんでいた。でもその反面あなたは昔の自分を思い出したはずよ。

寂しく苦しんでるナツキちゃんと自分を重ねて…」


「ははっ!馬鹿馬鹿しい!」


「だからあなたはすぐに殺さなかった!あかりやナツキをね!少しでも楽しい日々が続けばいいと願って!でも、あたしを殺した罪悪感があなたを暴走させる。もう後がない…引き返せない…と。」


わたしは強く言い放つとナオキくんはゆっくりとわたしを見て


「もし…君が本物の奈津子の幽霊なら、何故早く俺を止めなかった。俺に取り憑いてでも何とか出来たろ…?」


「あたしは自分で気付いて欲しかった!でも我慢できずに…こうして現れたの!」


「………うっ…」


「…?ナオキ?」


ナオキくんはいきなり姿勢を崩し、その場で泣き崩れた。


「…なんで…なんで早く現れてくれなかったんだ…!こんな事になる前に…!」


「ナオキ…!」


わたしはゆっくりとナオキくんに近づいた。


ズブッ。


「…う。」


「馬鹿だな〜。俺がそんな事で泣くと思ってんのー?ドラマじゃないんだからさ〜」


「ぅぅぅぅぅ…っ」


わたしのお腹にはさっき割ったガラス瓶のかけらが刺されていた。


「……はっぅ」


「奈津子の幽霊なんて存在しない。君はわざと奈津子が取り憑いたフリしてる。嘘なのはとっく

にバレてる。」


「……う。」


ナオキくんの言うように、わたしは奈津子さんに取り憑かれていなかった。


自分に暗示を掛け、奈津子を必死に演じてたのだ…。


「なぜ…わかったの?」


お腹から血がどんどん溢れて来ている…。


「俺は君にひとつだけ嘘をついた。奈津子は最初、俺に声を掛けたのではなく俺がナンパしたんだ…。だが、ヒヤリとしたよ。本当に奈津子が取り憑いたみたいだった…」


ニヤリとわらったナオキくんはわたしにキスをする。


「これで終わりだ。ジ・エンドだよ。」


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