046⇒絶体絶『命』
「はあっ…はあっ…」
わたしは必死に走った。
町はただの暗闇でわたしの走る足音や呼吸しか聞こえない。
どこに…どこに逃げればいいのだろう…?
「はあっ…はあっ…」
わたしは走りながら後ろを振り返った。
追って来るはずのナオキくんの姿はいつの間にか消えていた。
「……?どこ!?」
わたしは足を止め周りを見渡す。
だが、ナオキくんの気配すら感じられない。
「…はあ…はあ…はあ…はあ…」
わたしはゆっくりと歩きながら警戒していた。
…そうだ!とにかく警察だ…近くに交番があったはず。
わたしは足をまた早め、交番のある場所へ向かった。
「ナツキさん!」
後ろから呼ぶ声がする。
「…?」
振り返ると刑事さんが不思議そうにこっちを見ていた。
「どうしたんですか?何かあったんですか?」
「…う…。」
わたしは刑事さんの顔を見るなり涙が溢れ、いつのまにか刑事さんの胸に飛び付いていた。
「ナ・ナツキさん?」
「うぅぅぅぅ〜っ…彼が!ナオキくんが…!」
「あいつが来たんですかっ!?すいません!家を空けてしまって…ちょいと外の見回りに…」
刑事さんはわたしをギュッと抱きしめ済まなそうに詫びを言った。
「いいんですっ…ただちょっと恐かったので…」
わたしは久しぶりに触れた人の温もりにすごく安心した。
「…もう大丈夫です。俺がついてますから…だから安心し…ぐっ………」
一瞬、刑事さんの腕にすごい力が入る。抱きしめられてるわたしも苦しくなる。
「…−え!?」
わたしは刑事さんの顔を見た。
刑事さんは口を少し開けると、腕の力が少しずつ弱くなっていく。
「そんな所で見せつけるなよな…」
背後から声が聞こえた。
「きゃっ…」
わたしは思わず刑事さんから離れると、刑事さんはそのまま地面に倒れた。
そしてナオキくんの姿が現れた。
「…あ…ああ…」
その手にはナイフを持っていて血が付いてた。
「刑事さんっ!」
わたしが刑事さんに近づこうとした瞬間、ナオキくんはナイフを突き出し−…
「この刑事を死なせたくなかったら俺の言う通りにす−」
ナオキくんが言い終わらないうちに刑事さんはナオキくんの腕を掴みナイフを奪おうとした。
「ナツキさん!逃げるんだっ…!」
「…え!?…」
「いいから逃げろっ!早くっ!」
背中から血を流しながら刑事さんは必死にナオキくんを押さえ込んでいた。わたしはどうしていいのかわからず、とりあえず走った。
交番へ逃げようと考えたのだ。
「はあっ…はあっはあっ…はあっ」
…そうだ!あの角を曲がれば確か…交番があったはず!
わたしは嬉しさと恐怖の交じった表情を浮かべ走り続ける。
「あの角をまがれば…あの角を…はっ…はっ」
わたしは呪文のように唱えながらその角を曲がった。
「きゃっ…」
その角を曲がったそこには−…
「………!」
奈津子が立っていた。
「奈津子…さん?」
わたしはゆっくりと名前を言う。髪で顔を隠してただ突っ立っている奈津子。
「………。」
わたしはたた茫然と見つめていた。ゆっくりと顔を上げた瞬間、奈津子さんは目と口を大きく開け、すごいスピードでわたしに近づいて来た。
「ひっ…!」
今までに見た事のない奈津子の顔だった。
…………。
何が起きたのだろう?
今、目の前にいたはずの奈津子の姿はない…。
「ナツキちゃん…」
ナオキくんの声にわたしは振り返る。
そしてわたしは気付く。
今いる場所は…
角を曲がると交番のあるあの場所ではないことに…。
「あれ?いつの間に…」
「君はわざとこの場所を選んだのかい?」
「…−!?」
その一言でわたしは気付く。
ここは…あの駅だ…!!
奈津子さんを突き落とした現場だ!
今となっては全部ナオキくんのワナだったけど。
何故わたしはここに…?
「くくく…これはいいシナリオじゃないか…奈津子を殺した現場で君はそれを苦に自殺する…くくく…」
ナオキくんは笑いながらわたしに話し掛ける。
「許せない…!わたし…あなたを許せないから…」
「だからなんだ?オマエに俺が殺せるのか?無理だよ…」
「殺してやりたいわっ!!」
わたしは思い切り叫んだ。
だが、ナオキくんは冷静に口を開く。
「君は頭がいいから気付いてるはずだ。人の死ぬ苦しみを見て来ただろ?」
「だからなに?あなたも苦しむっての?そんなの当然じゃない!これは罰よ!」
「くくく…君に何が出来る?俺が君に暗示をかければ君は何でもいう事聞くんだぜ…」
「……くっ…」
わたしは何も言い返せなかった。現にさっきまで暗示のせいでナオキくんの事を忘れていたから…。
わたしはどうにかしてこの駅から出ようとそればかり考えていた。
「とにかく…俺はやらなくてはいけない事がある。君が死んだ後この町を出て…もっとたくさんの人に暗示を掛ける。俺の力がどれだけかを皆に解らせるのだ…」
「馬鹿げてる!そんな事できるなら最初から他の人がやってるわ!いずれあなたのやってる事に反感を持ってる人があなたを封印するわよっ!」
「そんな事はさせない。邪魔者は全て消すんだ…。」
そう言った瞬間、直樹くんは指を『パチン』と鳴らした。
わたしに暗示をかけたのだ。
「 ! 」
すると何故かわたしは、周りをキョロキョロ見渡し。ゴミ箱の方へと歩き出した。
そしてその中からガラス瓶を取り出し地面に落とす。
ガシャッ!
ガラス瓶は見事に粉々に砕け、鋭くナイフの様に砕けたかけらを選びそれを拾い上げる。
「くくく…そう… それで君は自らの首を切り裂き自殺するのだ。 くくく…」
わたしはゆっくりとガラスを首に近づける…。
「ほらっ!早くやるんだ!ほらぁ!」