045⇒近づく『悪』魔
「せんせーい!!」
「………。」
「先生ってば!」
「あ・ごめんなさい。ボッーとしてたわ」
「しっかりしてよ!先生なんだから…」
「どうせ、オトコにでもフラれたんじゃないのー?」
「はははは…」
「…………。」
「ははは…。 ?先生?どうしたの?なんか…先生らしくない」
「……もうすぐ結婚する予定なの。」
「え!?マジィ!おめでとう先生!」
「おめでとー!!」
「そう…嬉しいはずなのよ。」
「…何かあったんですかぁー?あー!マリッジブルーだ!」
「…わからない。でも少し不安があってこのままでいいのかなって…」
「そりゃあ、結婚って一生の問題っていうから誰だって不安にはなりますよ。よくある事です。」
「…結婚… ううん、結婚に不安じゃない。私自身に不安なのよ」
「そんな難しく考えなくても…」
「あなた達…みんなそれぞれ悩み事ってあるじゃない?
でも人間って結局、最後には死ぬわけでしょ?
死ぬ為に色々悩んで苦しむようなもんじゃない…。」
「そんな事言われたら身もフタもないじゃん!どう生きるかって事が問題なんじゃないですか?」
「どう生きたからって何なのよ?例え幸せになったって死ぬのよ?
余計、この世に未練残すだけだわ!結婚も同じ!
したからって結局は次の欲が出て満足なんてしないものよ…」
「教師が言うセリフじゃないと思います!」
「教師の前に人間よ!それくらいわかってよ!みんな考えた事ある?今死ぬのと後で死ぬのと何が違うかって…」
「先生…大丈夫ですか?」
「大丈夫だわよ!あなたこそ大丈夫?」
「…そんな事言われたって私達…生まれたのは自分の意志じゃないもの…」
わ
「…そう…生まれる事は自分で決めたわけじゃない。
じゃあ…死ぬ時も自分の意志じゃなく流れにまかせろとでも…?そんなの嫌よ!」
「それって…」
「ねぇ…最近、先生ね。幽霊みたいなものが見えるの。彼女はただ見えるだけなんだけど、怖いってよりはただ哀しくて…ね。寂しいの。」
「やめて!幽霊話は!」
「わかった!先生幽霊にとりつかれちゃったんだ!」
「…そうなのかな?でも彼女…何もしないの。ただ見えるだけなの。見えるだけなんだけど…死にたくなるの。」
「だから!とりつかれてんだよ!」
「その幽霊を見ると、何だか馬鹿らしくなってね。生きるのが。いろいろ考えさせられたのよ。その結果が『生きる事は無意味』だってこと。」
「意味わかりません!」
「……うふふ。な〜んてね!冗談よ!暇だからからかったのよーあはは」
「もう…先生のジョークってきつ過ぎ…」
「…はい!あ・プリント忘れたわ、ちょっと取って来るから待ってて…」
ガララ
ピシャン
「しかし…さっきの先生…恐かった。」
「うん!不気味だった…。」
「でも先生の言う事一理あるよね?」
シャッ…
「………!」
「ねえ…今…窓から黒い影が見えなかった?」
「……うん。…上からでしょ?」
「…人だったよね?」
「…う・うん」
「せ…せんせい…に似てた…」
「ひっ… ま…さか…3階だよ…ここ。」
「うぅ…うぅ…だって目が合ったもん…」
「嘘でしょ…?」
「いやあぁぁぁ〜!」
「また…ですか?」
「ああ、今度は中学教師が突然、授業中屋上から飛び降りたらしい。」
「これで8人目ですか?」
「ああ…ナオキの目撃情報もひとつもないなんて」
「ナツキさん…ナオキはやっぱりこの近くにいると思いますか?」
「…はい。偶然にしちゃ自殺者の人数多いですよね。
やっぱりこれは彼のしわざだと思います。」
「…そうか…。」
「わたし…そろそろ寝ます。部屋に行きますね」
「あ・おやすみなさい。我々はここで待機させて頂きます。」
「お疲れ様です。」
バタン
「ふぅ。」
わたしはそのままベッドに倒れ込む。
…………。
カタッ
…ん?なにか音が聞こえたのでわたしは顔を上げた。
「………。」
え?
部屋の窓が開いていた。
そこから風が入り、カーテンがヒラヒラ揺れていた。
え!?なんで窓が?
「駄目だよ。ちゃんと鍵閉めなきゃ…」
「…−!」
声がする後ろをわたしは振り向く。
「ナオキ…くん?」
「ふ〜ん。俺の顔を見てもあんまり驚かないね!まあ、記憶もあいまいだもんなぁ」
「何しに来たの?」
「君を殺しにだよ。」
「なんですぐにわたしを殺さなかったの?」
「だって君がいれば刑事は君に気を取られて俺は動きやすいもん。
でも、もういいかな〜って思って…」
「………。」
わたしはただ黙っていた。そして何処かに逃げる隙がないか探す。
「ねぇ記憶戻りたい?戻してあげようか?君は俺の事好きなんだぜ」
「いらない!アンタみたいな残酷な人間の事なんか」
だが、ナオキくんは手を『パンッ』と叩く。
その瞬間、今まで見える事なかった記憶の闇に光が入って来た。
「やめてっ!!」
わたしは思わず頭を掴み、座り込んだ。
「…はあ… …はあ…」
わたしはゆっくり目を開け、ナオキくんを見る。
「…ナツキちゃん」
ナオキくんはいつもの優しい声でわたしを呼ぶ。
「…ナオキくん…」
その声に反応したわたしは立ち上がりゆっくりと彼に近づく。
彼は優しい顔でわたしを迎えようと、手を広げた。
「ナオキくんっ!」
わたしは彼の腕の中に………
だが、わたしは思いっきり彼を突き飛ばしドアを開け、部屋から飛び出した。
ドタッ ドタッダッダッダッ
急いで階段を降り、刑事さんのいる一階へ逃げ出した。
「刑事さんっ!」
「………。」
何故か一階に刑事さんの姿がない。
「刑事さんっ!どこにいるんですかぁー!」
わたしは探し回るが姿はやはりない。
一気にわたしに不安が襲い掛かった。
上から降りて来る足音が聞こえる。
わたしはすぐに玄関に走り出した。
「はあ はあ」
「待てっ!」
ナオキくんの声が後ろから聞こえる。
わたしは振り向かず、そのまま走り玄関のドアを開け外に飛び出した。
「はあっ はあっ」
何処へ向かって走ってるのか自分でもわからなかった。
ただひたすら、ナオキくんから逃げようと、家から離れようと。
誰か…!
誰かわたしを助けて…!
誰か彼を止めて…!
誰か…!
誰か…!