044⇒事故『死』
「どういう事だっ!?ナツキさんっ!」
刑事さんは血相を変え、わたしに掴み寄った。
「…わからない。ただその声だけが…頭の奥から聞こえたんです。」
「とりあえずο×町一帯を調べてみよう!」
場所は変わって、ナオキの父親がいる事務所。
「先生、どこか行かれるんですか?」
「いや、警察から連絡あってな、わしの息子が何やら事件を起こしたらしい」
「事件って?」
「催眠術を使ってな、人を苦しめてるらしい…。あのバカが!」
「ナオキさんがですか?なんでまた…」
「知らん、昔からあいつは何を考えてるかわからん!」
「じゃあ、わたしが運転します。」
「そうか…頼む。」
バタン。
ブゥゥゥゥゥゥゥ〜ン
「ナツキさん、準備できましたか?」
「…はい。あの…でも…」
「なにか?」
「わたし…思い出すのが恐いんです。本当に思い出さなきゃいけませんか?」
わたしは刑事さんを見つめながら言うと刑事さんは優しく微笑んだ。
「……あなたには思い出してもらわないとい困るんです。
もしあの事件があの男によるのなら…なおさらです。」
「そうですよね。人の命がかかってますものね」
「はい。申し訳ないが協力して下さい。」
「はい。」
「じゃあ…大友先生のいる研究所に向かいますか。車に乗って下さい。」
ブウゥゥゥゥゥゥ〜ン
「全く!昔からそうじゃった。あいつが考えてる事はおかしい!
わしは人の為にこの力を使っておるのに…」
「その通りです。先生はいつだって人助けの為にがんばってらっしゃいます。
それは助手のわたくしがよく知っております。」
「『催眠』は使う人によってはかなり危険なものだ。
ましてや自分の思いどおりに動く人間をみた時の『快感』を知った奴には…」
「それがナオキさんですか?」
「ああ。わしはひそかに気付いていた。ナオキの考えに…だが、わしの息子だ。
この力はできるだけ直樹には受け継いで欲しかった。
だから目を塞いでた部分もある…それがこんな…」
「………。」
「こんな外道な事に使うなんて…わしが止めてやる!」
「もう遅いですよ」
「なにが?」
「あそこから車がこっちに向かってます。」
「なに!?早くよけないか…!」
「無理です。わたくしの体は動きません。
すでに暗示をかけられてます。」
「なにっ!?今、解いてやるっ!」
キィィィィィィィィッグゥワシャン!
ブウゥゥゥゥゥゥ〜ン
「警部…あそこで衝突事故が…」
「見てみよう。ナツキさんは車で待っててもらえますか?」
「あ…はい。」
家からナオキくんの父親がいる研究所へ向かう途中、
大きな事故が起きたらしい。
窓から見える現場は車と車が凄いスピードで正面衝突したとしか思えないほど
車体の前部はヘコみ、
乗ってる人はまちがいなく死んでるだろう…。
しばらくして刑事さんが顔色変えて戻って来た…。
「ナツキさん…大変な事になった!実は…大友先生が…ナオキの父親が死んだ!」
「え!?それって…偶然ですか?」
「いや、おそらく…奴の仕業だろう。」
「そんな…だって自分の父親ですよ!」
「そういう奴だ。」
「…………!」
わたしは現場に視線を移した。
車体から少し煙が出てる。
あれ……!?
わたしは目を擦ってよく見てみる。
誰かがこっちを見てる。
「刑事さん、あそこにいる人…ずっとこっち見てます。」
「え!?誰がです?」
「あそこ…あれ!?」
また見るとそこには誰もいなかった。
「あれ?だってさっきいたんですよ!あそこに髪の長い女の人が立ってたんです。」
わたしはその女の人に見覚えがあった。
誰だったんだろう?
結局あの後、わたしは家に戻って来た。
ナオキくんの父親が亡くなったので事件はまた振り出し戻ったってワケだ。
しかし、本当にナオキくんは自分の父親を殺したんだろうか?
そして、わたしは先程の事故現場で見た髪の長い女性の事が頭から離れなかった。
どこかで見た事がある。
けど思い出せない。
わたしは目の前にあったコーヒーを口にした。
刑事さんはわたしの表情を察してか一枚の写真を差し出して来た。
「思い出せないですか?多分、この女性でしょう。」
わたしはその写真を見るや否や叫んだ。
「そうです!この人です!誰なんですか?」
「山田奈津子と言ってナオキの恋人でした。もう死んでますけど」
「じゃあ…幽霊?」
「いや、違います。『催眠』によって見えるだけで、そこには存在しません。」
「…何のために?」
「いや、それが全く…そこがポイントなんでしょうね」
刑事さんは苦笑していた。
わたしだけが見えた?何故?
どうして?
だが、何かがひっかかる。
過去の記憶を曖昧にしたわたしに彼はまだ『奈津子』という幽霊を見せる必要があるのだろうか?
わたしはただ不安いっぱいになっていた。
そしてナオキくんの父親が亡くなった今、
わたしは記憶を戻せる事が出来るのだろうか?