041⇒わた『し』の言いたい事
♪チャララララ〜♪
「…ん?誰だ?こんな時間に電話する奴は…なんだ…ナツキちゃんか…」
薄暗い病室の中、ナオキくんは青白く発光している携帯のサブディスプレイに目をやった。
「…もしもし…ナツキちゃん?どうしたの?」
何度も電話をし、やっとナオキくんが出てくれた。
「…直樹くんに聞きたい事があるの。明日時間あるかな?」
「ああ明日?いいよ。何時に?…わかった。うん、じゃあね」
ピッ。
携帯を閉じると、床に倒れている明かりを見つめる。
「う。」
「…!なんだあかり…まだ意識あった?
なあ…あかり…俺の事誰にも話すなよ?なあ!」
ナオキくんはそう言うと足を振り上げ、すばやくあかりの腹へ目掛けた。
ドゴッ
「誰にも言うなよ?」
ドゴッ
「いうなよ…」
ドゴッ
ドゴッ
ザアァァァァァァーッ
翌日。
わたしはナオキくんに会う前にあかりがいる病院へ行った。
「…え?意識不明?そんなに悪かったんですか?」
「…いえ。それが…ゆうべ病室に誰かが入ってあかりを…うぅぅ…」
「どういう事ですか?」
「つまり…あかりさんの口封じの為に誰かが意識なくなるまで殴ったと考えられる。」
わたし達の背後から刑事さんが姿を現した。
「刑事さん…」
「お母さん…ナツキさんにも聞きたい事があるので少しいいですか?」
「…はい。」
あかりのお母さんは泣きながら病室へ戻って行った。
わたしと刑事さんはふたりきりになった。
わたしはすぐに口を開いた。
「言っときますけどわたしじゃないですよ!」
「わかってる…あの傷は女じゃ出来ない。男じゃないと無理だ。
彼女はお腹も強く殴られ流産もした。」
「赤ちゃん…いなくなったんですか?」
「残念ながらね…君はお腹の子の父親が誰かわかるかね?」
「ええ…でも…そんな人じゃ…」
「大友尚道の息子…ナオキだな?あの有名な博士の息子。」
「それが何の関係があるんですか?」
「要注意人物だよ。そのナオキという男は…」
「何故ですか?」
「……さあ。刑事のカンかな?」
刑事さんはそう言ってニヤリと笑った。
あかりが誰かに殴られた…?
可能性としてはナオキくんは確かに有り得る。
…だけどなんで…?
なんであかりをそんな目に遭わす必要が…。
わたしはナオキくんと会う為の公園に向かって歩き出した。
昨日からずっと降り続けていた雨は止んだが、空はまだ曇り空のままだった。
まだ夕方前なのに薄暗く寒い感じがした。
わたしが奈津子さんの話を持ち出す事でわたしはナオキくんに何かされるだろうか?
もしかしたら殺される?
でもそれは仕方ないかも知れない。
ナオキくんがわたしのせいで奈津子さんが死んだと思えば、怨まれるのは当然だ。
だからわたしは会うのだ。
ナオキくんから真実を聞きたい。
待ち合わせの公園にナオキくんは既にいた。
「ナツキちゃん…」
彼はいつもと変わらない優しい笑顔でわたしを迎えた。
「…ごめんね。呼び出したりして…。」
「俺はナツキちゃんに呼ばれて嬉しいよ。」
「ナオキくんに聞きたい事があって…この写真見て欲しいの…」
「うん…。…!」
写真を見たナオキくんの顔は明らかに動揺してた。
「どこで見つけたの?この写真…」
「奈津子さんのアパート。」
「………。」
ナオキくんは同様のせいか、黙り込んでいた。
「…この人…私が突き落とした人。
つまり、あの女の人よね?あなたはその人と付き合ってたの?」
ナオキくんはわたしの顔みるなり、床に膝をついて土下座をした。
「ごめん!ナツキちゃん!」
「…ナ・ナオキくん?」
「実は…俺は彼女に脅されてるんだ!」
「彼女って?」
「もちろん奈津子の亡霊だよ!彼女の復讐に俺は付きあわされてんだ!」
「…奈津子さんの亡霊は本当にいるの?」
「ああ!俺は彼女に逆らう事は出来ない…
逆らうと俺は殺される…殺されるんだっ!うぅぅぅ〜…」
泣き出すナオキくん。
わたしが黙って見ていると、足を掴んできた。
「助けてくれ!ナツキちゃん!」
「ナオキくんがわたしに近づいたのって…
ナオキくんの意思じゃなくて奈津子さんがそうさせたの?」
「違うと言ったら嘘になる…でも俺は確かに君の事は好きだ…」
「−嘘よ!あなたはわたしに復讐したいのよ!
わたしが奈津子さんを殺したと思ってる!でも違うじゃない!彼女は自殺したのよ!」
「違う!俺は見たんだ!君が殺した!」
「彼女の家から遺書が発見されたのよ!もし奈津子さんがそこにいるなら説明しなさいよ!」
「彼女は確かに自殺する気はあった!
だが、考えが変わってあの日はただ駅にいただけなんだ!」
ナオキくんの目からは大粒の涙がこぼれた。
だが、今のわたしには本物には見えない。
正確には…見えなくなっている。
「ねえ…なんであの日駅にいたのに…奈津子さんに声掛けなかったの…?」
「いた事に気付いた時には君が…」
「あなたでしょ?奈津子さんを殺したのは!」
その言葉にナオキくんは立ち上がった。
「ナツキちゃん…何を言い出すんだ?」
「だって!あの時の奈津子さんのお腹にはあなたの子がいたのよ!
あなたは認知してなかったじゃない!」
「…………。」
「邪魔だったんでしょ?奈津子さんとお腹の子が!」
「だとしても、俺がどうやって奈津子を?」
「自殺するように催眠かけたんじゃない?」
「……ナツキちゃん……自分がした事を俺のせいに?」
「だってあの駅に何故あなたはいたの?
ナオキくんはとなりの街に住んでるんでしょ?
あなたは奈津子さんが死ぬのを見届ける為に隠れてたんじゃないの…?」