040⇒稲『光』に見えた顔
部屋の中は意外とキレイで見た目よりは広く感じた。
「ふ〜ん…キレイな部屋ですね…彼女でもいるんですか?」
「いないよ…元から俺がキレイ好きでね…君が俺の彼女になる?」
「なに言ってるんですか! …ふ〜ん…」
部屋に入ったら何かわかる気がしたんだけど
何をどうしたらいいのかわからないのでわたしは部屋を歩き廻った。
「…ねぇ。」
わたしを呼ぶ声がしたので、振り向くと男の人がわたしの目と鼻の先にいた。
「きゃっ」
その反応を見て彼はニヤニヤしていた。
「俺が越して来た時、何枚かの写真が残されてたよ」
そういって5枚ほどの写真をわたしに渡した。
「…うそ…」
わたしは目を疑った。
その写真には奈津子さんとナオキくんが写っている。
仲良く肩を並べ、幸せそうに微笑んでいる。
そう…それはまるで恋人どうしのように。
わたしは声も出ず、ただ呆然としていたら
心配してか男の人は声を掛ける。
「おい、大丈夫か?顔色悪いぜ。」
「…ひとつ聞いていいですか?
この写真に写っている女性…この部屋に出てきませんか?」
「それって幽霊のことか?ははは…こんな美人の幽霊だったら俺は感激だなあ」
そう言って男は頭をボリボリ掻いていた。
「この写真頂いて行きます。どうもありがとうございました。」
「おいおい、もう帰る気?お茶でも飲んで行きなよ。今、コーヒー入れるからさ。」
「ごめんなさい…ホントに急いでるんです。それじゃ…」
「あ・ねぇ−」
…バタン…
わたしはそのアパートをあとにした。
わたしは以前、奈津子さんの実家に行った時のお姉さんの言った事を思い出した。
「奈津子は弟みたいな年下が好きなんです…」
…そうか…だとしたら…奈津子さんが21歳でナオキくんが17歳。
二人が付き合う可能性は十分に有り得る。
もし…ナオキくんがあの現場を見ていたとしたら?
復讐の為にわたしに近づいた…?
じゃあ…奈津子さんの幽霊は…?
全部幻覚だとでも…?
まさか…それは有り得ない。
これは本人に確認をとるしかない。
わたしは携帯を手に取りナオキくんへダイヤルした。
だが、ナオキくんは電話に出なかった。
わたしはとりあえず、あかりのいる病院へ向かった。
「あかり!」
「ナツキ!来てくれてありがとう!」
あかりはわたしの顔を見るなり泣きそうに見えた。
「それより大丈夫なの?」
「うん。怪我の方は全然大丈夫。 それよりナオキの事よ。」
「…まさか…あかりが怪我したのって…」
「ナツキ!お願いナオキを助けてあげて!彼はきっと何か苦しんでるのよ!
自分でもどうしていいかかわらないのよ!」
「…あの事件の日…ナオキくんらしき人物がいたのよね?」
「うん。あれはまちがいないと思う。」
「これ見て」
わたしは鞄からあのアバートに残っていた5枚の写真をあかりに見せた。
あかりはその写真に集中する。
「ナオキの隣にいる人は誰なの?」
「その人なのよ…駅で亡くなった人は。
彼女は当時ナオキくんが付き合っていた女性よ。」
「え!?それって…あの幽霊?顔が見えないからよくわかんない。」
「ナオキくんはわたしが彼女を突き落としたと思ってるかも。」
「だから復讐しようとしてるの?」
「わからない…どっちにしろ狙われているのはわたしだわ」
わたしはあかりに全ての事を話した。
琴美の事も全部。
あかりは何となく納得しつつ、
疑問いっぱいの顔をしていた。
水を一杯飲むと今度はあかりが質問してきた。
「ひとつ疑問があるの。彼女は自殺したんでしょ?遺書だって見つかったのに
どうしてナツキは奈津子さんの幽霊にもナオキくんにも狙われなきゃいけないの?」
「それはわからない。彼女が被害妄想と言えば話は終わるけど…それも…彼女が本物の幽霊ならね」
「…とにかくあたしも退院したら協力するから…ナオキの為にも」
「ごめんねあかり。今まで黙ってて。」
「何言ってんの…あたし達親友でしょ?」
「…うん。」
あかりはまだ検査の途中なのでわたしは病院から出た。
再度、ナオキくんに電話したのだが出てくれなかった。
一体、何が真実なのだろう…?
幽霊なんてずっといないと思っていた。
それが突然、目の前に現れて…わたしはいとも簡単に信じた。
それはわたしの彼女に対する罪悪感が後押ししてはいるが、
一番はわたし以外の人間が奈津子さんを目撃してたからだ。
チカンおじさんやナオキくん。
だから わたしは奈津子さんの幽霊を信じる。
いや、信じるしかない…。
だが…もしこれが何らかの力で幻覚だとしたら…?
ザアァァァァァァーッ
いつの間にかまた大雨が降り出していた。
わたしは窓から滝のように激しく流れる雨を眺めてた。
たしか奈津子さんが現れた日もこんな大雨だったっけ?
テレビではこの時期にはめずらしい大雨だと天気予報士が言う。
髪の長い女の人はその隣でうんうん頷いてはボケをかましてた。
わたしはこの2人の空気に少し笑ってしまった…。
その時−…
あの雨の日の事が脳裏に過ぎった。
わたしはベッドで寝ていた…。
雨の音だけが部屋中に響いている。
ふと窓を見上げるといつの間にか開いていた。
閉めようにもわたしは身体が動かない。
…そう…何かが部屋にいたのだ…何かが…
その何かがゆっくり近づいて来る…。
そしてそれはわたしのすぐ横にいるのだ…
髪の長い女性がわたしをずっと見ている。
だが暗さのせいで顔がよく見えない。
ピシャッ
一瞬まぶしい光が部屋中を包む。
その一瞬で見えたのが奈津子さんの顔…
…顔…?
いや…違う…
写真と違う…
あれは…
ナオキくんの顔だ!
わたしはガバッと立ち上がり奈津子さんの写真を見た。
だが、あの稲光とと共に見えた顔は明らかに違っていた。
「あの日わたしの部屋に来たのは……ナオキくんだ!
わざと女の人の恰好をして…わたしの部屋に…」
ザアアァァァァァーッ
「…あかり。」
「−はっ!?ナオキ?なんでこんな時間にここに…?」
「しっ!…なあ…俺の事好きか?」
「……好きよ…でも今のナオキは好きじゃない…」
「…そうか…俺も今のお前好きじゃない。」
「え?」
ドスッ!!
ドゴッ!!
「もう…お前はいらない…」