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Summer visit  作者: スカフィ
32/50

031⇒琴美の行『動』2

わたしと琴美は学校の屋上にいた。



元々今日の気温は低く、屋上は更に北風が強くなり寒くなっていた。


わたしと琴美はいつもの場所に立ち、屋上から見える町の明かりを見ていた。


「…それで話しって?」


「うん。」


「明日、自首する気にはなった?」


「さっきね…村山先生の自宅に行って来たの…」


「…?なにしに?」


「二人を殺しに。」


「…!?まさか…!?」


わたしは唾を飲み込んだ。

琴美はわたしを見て笑う。


「…ふふ…大丈夫よ。さすがに殺しは無理だったわ。」


「何言ってんのよ!何で更に人を殺す必要があるの?何でそこに行く必要があるの!」


琴美は屋上から見える暗い運動場を見つめながら口を開く。


「…私ね…自分の子供堕ろして以来…何もする気力がなかったの…

はっきり言えば死ぬつもりだった…。

そしたらある夜寝てたら突然目が覚めたの。何故か目の前に女の人がいて。

髪の毛で顔が隠れて顔はわからないけど…」


「…まさか…」


「私はあまりの恐怖で声が出なかったわ…体も動かなかった。

すると突然 その人が言ったのよ。『あなたの気持ちわかるわ…』って…」


「…気持ち…?」


「うん…『あたしも好きな人の子供の事で悩んだ』って…。」


「ねえ…その人…“奈津子”っていう名前だった?」


「…うん。言ってたわ。ナツキの前にも現れたの…?」


「………。」


わたしは言葉が出なかった。


まさか琴美の前にまで現れてるなんて。


「彼女が言ったのよ『先生を殺せ!仇を伐て』って…」


「…………。」


「その言葉を聞いて気づいたの。

今まで何もやる気なかったのに…その言葉には体が反応した。

つまり、私は復讐を望んでたって!!」


琴美の背中が小さく震えていた。


「…琴美…」


「でも、いざ殺してみると何故か後悔した。自分で何て事したんだろうって思った。

だから…あの二人も殺して先生と一緒に三人で天国で暮らして欲しいと。

でも出来なかった。そうすると先生が怒りそうな気がして。」


「………。」


琴美は流していた涙を拭いたかと思えば、いきなり目の前のフェンスを登り始めた。


「ちょっ…琴美…何してるの?やめてよ!」


わたしは琴美の背中を抱き、登るのを阻止した。


「離して!お願い!」


琴美はわたしを力強く蹴飛ばした。



ガッ…!


「きゃっ…」


わたし上手くバランスを取り倒れる事は無くすぐに琴美を止めようとしたが、

既にフェンスの向こう側に立っていた。


わたしはただ名前を呼ぶ事しか出来ない。


「…琴美!」


「ねえ、ナツキ…人を好きになるって大変な事よ。

ましてや恋人や奥さんのいる相手なんて…。」


「………。」


ひゅうううう…と風が吹く。





「好きなんでしょ?」


「……え!?」


「ナオキさんの事。」


「………!」


「好きになるのって理屈じゃないから仕方ない。でもその後の行動は自分の責任でもあるの。

私が先生と寝たのも私がしっかりしてなかったから悪いの。そうすれば子供だって…」


琴美は自分を責めるように言った。


以前のわたしなら理解に苦しむが、今なら分かる気がする。


琴美の気持ちが。


好きになってはいけない人への『想い』。



「…でも…止まらないじゃない?わかっててもしてしまう事って…」


「そうすれば誰かが必ず傷つく。わかるでしょ?」


「……うん」


「私は正直、直樹さんとの付き合いは認められない。こんな思いするのは私で十分。

ナツキにとって初恋かも知れないけど片思いで終わらせて欲しいの。

これが私からの最後のお願い…」


「…最後?」


「うん。私…先生に嫌われてるかも知れないけど…やっぱり傍にいたい。」


「わたしには諦めろって言っておいて自分は先生の傍にいる気?駄目よ!生きて!生きて償ってよ!」


「ううん無理よ。だって約束だもの。奈津子さんとの…」



「…約束?」




わたしがそう言った瞬間、琴美の背後から突然手が現れ、

琴美の首を掴み身体ごと引っ張った。



「琴美!」




わたしは琴美に手を差し伸べた。



「琴美!」



わたしに手を差し伸べ返す事なく倒れるように消えて行く。




「………!」




ひゅうぅぅぅ…





冷たい風がわたしの頬に当たり、痛く感じる。



「…琴美?」




わたしは姿のない琴美を呼び掛けた。



「………。」



しかし、返事は返って来ない。



わたしは勇気を出してフェンスを越え、下を眺めた。


「…琴美…」


小さい琴美の姿が目に入る。


「……う…。」


わたしはフェンスを越え、急いで下に降りた。


その途中わたしは何度も願った。


琴美の無事を…。


せめて命だけは…と。



「はっ…はっ…」


カンカンカン…


「…はっ…はっ…」 


階段を降りると玄関が目に入る。


玄関はガラスで出来ているのでその向こう側に琴美の横たわってる姿が見えた。


わたしはおそるおそるゆっくりと近づいた。



「はっ…」


「はっ…」


「…琴美…」


今、目の前に琴美がいる…。


上から落ちてきた衝動で至る所が関節のように曲がりくねっていた。


…目は遠くを見たまま開いてた。


「…はっ…はっ…こ…とみ?」


わたしは震えながらも琴美を呼び掛けた。


「琴美!琴美!」


だが、琴美は何も反応を示さなかった。


ただひたすらそこに転がってるだけだった。


わたしはその場で膝をつき放心状態になった。


「………。」


そして涙が次から次へと溢れ止まらなかった。


「…うっ。」



「うぅぅぅ…」



わたしは泣きながら琴美との事を思い出した。


あかりとわたしの中立だった琴美。


何かあった時にいつもわたしを支えてくれたのは琴美の存在だった。


そんな琴美が奈津子さんの事で繋がってるなんて…。


「…だから言ったでしょ?」



突然、聞こえて来た声。わたしはゆっくりと顔を上げた。


だが、目の前には琴美しかいない。


「………?」


「あんたのせいだって…」


いきなり琴美がムクリと起き上がった。



「…−!」

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