026⇒血『痕』
「琴美…!!馬鹿なマネはやめるんだっ…!」
「…だって…仕方ないじゃないですか…もう…生きる気力がないんですから」
「確かに…君にはツライ思いをさせた。でも…それは今だけだっ。
いつか君にふさわしい人が現れて…」
「もう子供は帰って来ないんですよ!」
琴美は震えながらナイフを両手で握り締めていた。
「わかった!わかったから!琴美!お前は何が望みなんだ?」
「………子供…」
「いい加減にしてくれないかっ!!」
村山先生は大声で怒鳴った!琴美はびっくりして目を瞑る。
「子供!子供って…!もう戻らないんだから諦めろよ!
大体、俺と君との間には子供なんて出来てはいけないんだっ!
それは君も承知のはずだろっ!?」
「…………。」
「…もうウンザリなんだ…!君は…気付いてたか?
俺は本当は君の事なんとも思ってないんだ…!!」
「………え?」
声が裏がる琴美。確認しようと目が訴えてる。
「…先生…それって…」
わたしは聞いてはいけない言葉を聞いた気がした。
「俺は君が可愛かった。でもそれは生徒としてだ。
それ以上の感情はない!だが…君は俺に恋をしてた…それにすぐ気付いたよ」
体を震わせながら琴美は口を開いた。
「…じゃあ私の事は本当に好きじゃなかったんだ?」
「…好きだよ…生徒としてな。これでわかっただろ?こんな俺の為に君は死ぬ気か?」
その瞬間、わたしはある記憶の断片が見えた。
「 …オレトワカレテクレ… 」
顔のよく見えない男の人にそう言われてる。
その声と村山先生の声がダブる。
「じゃあ…なんで…なんで私なんかと恋人みたいに…会ってたりしてたの?
私の身体を求めたの?」
肩を小刻みに震わせ琴美が問う。
「決まってるだろ?ヤリたかったからさ。気のあるフリしてたんだよ。」
「やめて!!」
叫んだのは琴美じゃなくわたしだった。
そして二人はびっくりしてわたしを見た。
「ナツキ…」
「ナツキくん…!」
わたしは村山先生に向かって歩きながら怒鳴った。
「なに勝手な事言ってるのよ!
だったら最初からやさしくしないでよ…!余計辛くなるだけじゃない!」
「…ナツキくん…君には関係ない話だろ。悪いが口出ししないでくれないか?」
「黙ってられない!だって先生は何もしてないじゃない!
精神的にも肉体的にも傷ついたのは琴美だもの!
それなのにただヤリたかったからヤリましたなんて!」
「…ナツキ!お願いだから黙って」
「…だって…そんなの…納得できないじゃない!」
わたしは混乱していた。
今、目の前で起きてる事がまるで自分の事のように感じてる。
それは“奈津子の記憶”だからだろうか…?
わたしの中で何かがはじけたまま収まらなくなった。
「…とにかく…琴美にはすまないと思ってる…許してくれ…」
村山先生は深く頭を下げた。
「許すも何も…私はただ生きる気力がないって先生に伝えたかったの…
先生に私が死ぬ所を見て欲しかったの…。ただそれだけ…」
わたしは琴美の肩を掴み、
「琴美!こんな奴の為に死ぬなんて…馬鹿らしいよ!」
だが、琴美はわたしの腕を振り払い、
「ナツキは黙ってて!もう帰ってよ!」
そう叫んだ。
そして村山先生が口を開く
「迷惑な話だ…!死ぬのは君の勝手だが俺を巻き込まないでくれっ!
俺は帰る…!だからガキは嫌いなんだっ!」
その言葉を聞いたわたしは更に頭に来て村山先生の頬を思いっきりビンタした。
バシッ!
「そのガキとセックスして喜んでたのはアンタでしょう!」
「もう!いやあぁぁぁぁぁぁぁぁ〜っ!!!」
琴美は叫びながらナイフを振りかざした!
「……あ……」
その瞬間にわたしの視界に飛び込んで来たのは真っ白な世界だった。
そして赤い血のようなものが飛び散った……。
今度は一気に暗くなる。
…………。
……うぅ…
…うぅぅぅっ…
「はっ!!」
わたしは真っ黒な世界から一気に現実の世界に戻されたように目を開いた。
「……はぁ…はぁ…」
体をゆっくり起こすとそこは自分の部屋だった。
「…はぁ…はぁ…え?」
わたしはよく状況がわからない。
だって最後の記憶はあの公園の湖付近だったはず。
「わたし…いつ戻って来たんだろう…。全然記憶がないや。」
時計を見ると、朝の6時半だった。
「…え?ちょっと待って…。意味わかんない…。
昨日確か、あの公園で琴美と村山先生がいて…」
頭が混乱してる為シャワーでも浴びようと風呂場へ向かった。
「えっと確か…三人で言い合いになって…………なにコレ?」
ふと、自分の手に赤い何かがついてるのに気が付いた。
「コレってもしかして……」
そして、急いで洗面所に駆け付けた。
ダッダッダッダッ…
「…はっ…うそ…」
わたしは自分の姿を鏡で見て愕然とした。
わたしの顔、首、腕、そして服全体が全て赤色に染まってた。
「何よコレ…なんなのよぉ〜っ!」
声を上げると、服を脱ぎ風呂場へ駆けた。
そしてお湯も出ない内に体全体を濡らした。
ざぁぁぁぁぁーっ
「…気持ち悪いっ…」
まるで風呂場の壁にあるカビを落とす様に自分の体を洗った。
少し痛かったが、それでも全然落ちてないような気がして何度も洗った。
何度も何度も…。
ざあぁぁぁぁぁーっ
しばらくして、少し落ち着いたのでお湯を止め服を着た。
そして鏡を見たら、いつものわたしがそこにいたので少しホッとした。
「……なんなの…」
さっき脱ぎ捨てた服が目の前に無造作に転がっていて、赤い色が際立っている。
「コレって…明らかに血 だわ…。やっぱりあの時に何かあったのよ…。
でもなんで記憶がないんだろう…」
わたしはパニック状態だった。訳もわからず家中を歩き廻った。
そして色々な事が頭をかする。
琴美は生きてるだろうか?
村山先生はどうなったんだろうか?
そして、わたしの体に付いてた血痕
わたしが無傷だけに血痕は二人の内の誰かのものだ。
それにあの量からして重傷以上にしか考えられない。
「どうしよう…どうしたらいいんだろう…」
しばらく自分の部屋に入りウロウロしてたら携帯が目に入った。
「そうだ…」
わたしは何も考えずに電話をかけた。
プルルル…プルルル…
「…はい…もしも…」
ピッ…!!
しかし、すぐに電話を切った。
相手の声を聞いて我に返ったからだ。
「やだ…わたし…何で直樹くんに…」
そしてすぐに、また電話をかけた。
今度は琴美に。