023⇒二人の『世』界
わたしは今、授業を受けている。
あの琴美の不倫の相手、村山先生の授業。
彼は何くわぬ顔をして琴美の前で、“教師”の顔してる。
しかも、生徒のお腹に子供がいるのに…。
わたしは琴美を見た。
彼女もまた、いつも通り“生徒”を演じてる。
ホント普段と何ら変わらない。
だから今までわたしも気づかなかったんだが、
こんな大変な状況なのに凄いと思ってしまった。
「私…いやだ。堕ろしたくない。」
休み時間、屋上で琴美が最初に発した言葉だった。
「じゃあ、どうするのよ!産むの!?」
「…わからない。でも堕ろすのだけはいやっ!!」
「何言ってるのよ!先生は琴美と一緒になる気なんてないんだよ!
産むとしても一人で育てられないよ!」
わたしがそう言うと琴美はわたしを睨み
「ナツキには私の気持ちわかって欲しかった!
あかりは絶対、賛成しないのわかってたからナツキにだけ相談したのに…」
「−そりゃあ、琴美の事が心配だから反対してるんだよ!あかりだって同じだよ!」
「でも、私は産みたいのっ!先生が認知しなくてもいい!」
「例え、この子を産んだとしても周りに迷惑かけるだけだよ!先生の奥さんや子供だって…」
「そんなの関係ない!」
大声で叫ぶとわたしに背中を向ける。
「関係あるよ!不幸になるだけだよ!琴美も子供も!」
「どうしてそんな事言うの!?好きな人の子供産んで何が悪いのよ!」
「じゃあ、どうして先生と寝たのよ!奥さんや子供がいるの知ってたのに!」
「…どうして?って?だって好きになっちゃったんだもん!
好きになったら相手に奥さんがいようが、子供がいようが関係ないもの…。」
「でも、わかるでしょ?踏み込んじゃいけないって」
「そんなイイ子になれないよ。本気で好きになったらキレイ事なんていらないよ」
「……琴美…」
琴美はわたしに向きを変え
「…ナツキならわかってくれると思ったけど…
ナツキはまだ本気で人を好きになった事ないんだね……じゃあ…無理だよ。」
琴美はそのまま歩き出した。
「琴美!」
「ごめん、ナツキ。やっぱ一人で考える。あかりにはまだ言わないで」
「………。」
寂しそうな顔をして屋上を去る琴美。
わたしはただ黙って見てるしか出来なかった。
…たしかに、わたしはまだ“恋”をした事がない。
人を好きになるってそんなに凄い事なのだろうか。
琴美にはっきり言われた事がショックだった。
「じゃあナツキ、あたしは先に帰るね。」
「うん。今日もデート?」
「うん!ナオキと会うよ!あっ!急がなきゃ!明日ねー」
「あっ!ねぇ…!」
わたしの呼び止める声を無視してあかりはそのまま小走りで行ってしまった。
今朝、直樹くんと駅で会った事を話すつもりだったのに…。
「デートかぁ…」
わたしは考えた。
“もしデートをするなら誰がいいのか?”
−と。
わたしの知ってる周りの男の人から芸能人まで…
「…………。」
「う〜ん…。」
「…あっ!」
一人だけ浮かんだ人がいた。
でも、それは少し笑える話。
だって…
“直樹くん”
だったから。
仮にも人の恋人なんだから、それはありえない話。
わたしは少し笑い、いつもの駅へ向かった。
そしてふと、
“あかりと直樹くんは今日はどこでデートするんだろう。”
…なんて考えていた。