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Summer visit  作者: スカフィ
19/50

018⇒自『首』

−数日後−


今、わたしは県立図書館にいる。

あの日ホームで飛び降りがあった記事を調べる為だ。

まだ2ヶ月足らず前の事だから記事はすぐに見つかった…。


“若い女性が飛び込み!妊娠を苦に自殺か!?”


…と書かれてる…。


えっと…名前は…ないのかな〜……あ。


“山田奈津子”


奈津子!?『な』がつくんだ…。


やっぱりあのお姉さんが言ってた事はホントなんだ…。

しかし、妊娠を苦に…とは書いてあるから、お腹には子供がいた…。

ホントに生むつもりだったのか…死ぬつもりだったのか…

まあ、幽霊となって出てるんだから生むつもりだったのだろう…

わたしは名前から何とか住所を割り出し、彼女の家へ行く事にした…。


ここだ…。


翌日、わたしは早くも彼女の家へ来た。


…といっても彼女はもともとはアパートに一人暮しだった…。

そのアパートはとっくに他の人が住んでいたので実家の方に訪ねる事にした…。



「どなた?」


「あの…わたし亡くなった奈津子さんの友達なんですけど…線香あげてもよろしいですか?」


ドアから出で来たのは若い女性だった…。

多分、お姉さんにあたる人だろう。

わたしは友達だと嘘をつく事で家に入れてもらい、話を聞く事にした…。


「奈津子とはどういう関係で…」


「実は…うちの姉と会社の同僚でして、わたしは妹のように可愛がられてもらいました。」


「…そうなの…。たしかあの子は自分より下の子が好きでした…。楽だからかしら?

前に弟が欲しいって言ってましたヨ。ふふふ…」


お姉さんは遠くを見ながら話していた。


「…それであの…妊娠してたってホントですか…?」


「…みたいね。正直、妹は高校卒業してからすぐに家を出て、

ほとんど会った事ないからわからないの…。

父親も誰だかわからないし…。

線香ひとつもあげに来ないところを見ると妹は遊ばれたんじゃないかな。

自宅で遺書らしきものも発見されたわ…

子供が出来た事で問題になったんでしょうねぇ…

でも、あの子に子供なんか育てられるのかしら…」


独り言のように言っては首を傾げていた。

わたしは変な人だな〜とは思っていたが続けた。


「じゃあ…ホントに自殺なんですか?」


「ええ…」


わたしは仏壇にある写真を見て気になった。


「…あの〜。写真が二つあるんですけど…」

「右が奈津子で、左が母よ…。母もね、自殺だったの…」

「え!?」


「奈津子は実はノイローゼ気味でちょっとした事でも被害妄想に走るの…。

だから母は毎日奈津子に苦労してた…。ある日 奈津子はこう言ったの…


『アンタが死ねば、私は救われる』


ってね。よほどショックを受けたのか、母は首を吊って死んだわ…」

「………。」


わたしは言葉を失った…。


「…まさか…二人そろって自殺するなんてねぇ…」


お姉さんは目の前にあったお茶をすすりながら言った…。


わたしは、初めて写真でだけど、奈津子の顔をキチンと見た。

美人ではないが、芯の強そうな顔をしてた

。もし彼女が、子供を産むつもりであればきっとりっぱに育てただあろう。

わたしは複雑な気持ちで奈津子さんの実家を後にした。



…彼女はわたしより五つ上の22歳。

ある小さな会社に19歳で入社し、地道ながらがんばって来た…。

そしてそこで誰かと出会い身ごもった…。

だけど認知されず自殺した…。



…そう、あの日彼女は死ぬつもりだった…遺書はあったから…。

だけどわからない…彼女は何故わたしの前に現れるのか…。

わたしの母、チカンおじさんを巻き込んで来た…。

アレは明らかに怨みから来てる。


…わたしが押したから?


……彼女を?…


…じゃあ…彼女はわたしが警察に全てを話し、罪を認めれば許してくれるのだろうか……。


……そう…それが当たり前…わたしは自分が悪いと認めてない…

アレは偶然だと、事故だと…ずっと逃げてきた。


…ふと、気付くとわたしは警察署の前に立っていた……。


……ドックン…


…わたしは勇気を出して警察署の入口まで来た…


……ドックン…


……入口に立ってる警察の人と目が合う。

わたしはすぐにそらし、奥の方をみる。

そしてゆっくりと足を踏み入れたその時−!


「待てっ!こらっ!」


奥の方から男の人が走って来た…。

男の後ろには数人の警察の人が追い掛けていた…。

そして男はわたしにぶつかって来た…。


ドンッ!

「きゃっ…!」


わたしと男はその場に倒れ込んだ。


「オマエが警察に自首してもおじさんは許さないよ…」


………と、わたしの耳もとでその人は言った…。


え…!?


「こらっ!ここまで来て逃げるなっ!」


警察は男を捕まえ、奥に引っ張りこんだ…。


「くくく…」


…男はわたしをずっと見つめながら笑っていた…。


「大丈夫ですか?」

「え?」

「…あの?」

「…あ…大丈夫です!失礼します!」


わたしは振り返る事無く警察署を後にした。


「…ハア……ハア…」


逃げられない!

そう思った。


たとえ奈津子さんが許しても、あのチカンおじさんが許してくれないのだ…。


「はあ…は…ふふ…ふふふ」


わたしは急におかしくなって笑った。

だって笑うしかない。

もうどうする事もできないもの。

わたしが『死ぬ』以外に許せるものがないから…。


「ふははははは…」


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