009⇒違『和』感2
「ただいま」
「…おかえり。今、ご飯にする?」
母が奥から歩きながら言う。
「…うん。」
「どうした?元気ないね…」
「ううん。そんな事ないよ。着替えてくるね…」
ギシギシ…
バタン。
私は階段を上がり、自分の部屋に入る。
シーンと静まり返った自分の部屋。
はっきりいって気持ち悪い。
………不気味だった。
いつ、現れるかわからない…。
さっきも見てるだけだった…。
彼女は決して何かをしようとはしない。
ただそこにいるだけ…
逆にそれが余計気味悪い…。
わたしは着替えようとしてクローゼットを開けようとした−…
ガッ…!
「きゃっ!」
腕をつかまれた。
その白い手はクローゼットの中からニョキっと出ている。
中は暗くて見えないが、彼女の長い髪が少しだけ見え、顔は決して見えない。
…ひぃっく…
うぅ…うぅぅ〜
彼女のすすり泣く声だけが部屋に響いた…。
「お願い…もう…許して…わたしが悪かった…。何でもする…何でもするから…」
わたしは夢中でその見えない相手に言った…。
すると、その白い手が急に力強く引っ張った…。
「きゃっ…!」
「…いいのよ。あなたはただ生きてりゃ…」
「…えっ?」
そう言って女の人は腕を離しクローゼットの中へ消えて行った…。
「………。」
わたしはペタンと尻餅をついた。
突然、母がドアを開けた…。
「ねぇ、ナツキ」
わたしはすぐに立ち上がる。
「…え?なに?」
「あかりちゃんから電話よ…」
「…あかりから?」
わたしは母に怪しまれないよう平常を装いながら下におり電話に出た。
「もしもし、あかり?どうしたの?」
「あ、ごめん。急に…あたし…ヤバイかも…」
わたしはその時あかりが何を言いたいのかすぐにわかった…。
「直樹くんの事?」
「…うん」
「…あかり好みだもんね…」
「はあ…正直マイッてる…見た目だけならともかく、趣味まで合うし…」
「いいんじゃないの?」
「そう思ってくれる?」
「うん。」
「ありがと。ただそれだけが言いたかったんだよね」
「あはは。そうなんだ…うん、わかった。じゃっ明日ね…」
電話を終えると母が言った。
「終わった?ご飯出来たよ。」
「うん。」
わたしはモクモクと、ご飯を食べていた…。
すると母が、
「あんた最近、情緒不安定なんじゃない?」
母の突然の言葉、わたしは乱暴に食べ物を飲み込む。
「なに…?突然…」
「おかしいよね?最近…お母さん心配よ…」
「……?…大丈夫よ…」
私はひたすら食べる。
「なんか…失恋とか…」
「ちっ…違うわよ…」
「ホントに?」
「やだなー!違う違う!」
「最近、お母さんねぇあちこち痛いの…」
「年だからねぇ〜」
「……それが違うのよ…」
ポタッ ポタッ
突然、母の鼻から血が垂れてきた。
「母さん!血が出てる!」
「…気にしないで。いつもの事よ…」
「いつもって……」
わたしは母にティッシュを渡した…。
ポタッ ポタタッ
鼻血は更に増え、普通じゃなかった…。
「母さん…?」
「私は……」
「……?」
ポタポタと鼻血はご飯の上に落ち、真っ赤に染まってた…。
「…母さん?」
「…わっ…わたしは…」
「……母さん?」
「わたしはナツコ!」
「…え?」
「ナツコよっ!」
突然、母は立ち上がりそのままテーブルの上に倒れ込んだ…!
ガシャアァーン!
「きやぁぁぁぁーっ」
…はっ!…
私はそこで目が覚めた…。
夢だったのだ…。
…はあ…はあ…
「…夢?…はあっ…はっ…」
喉渇いてたわたしは台所に向かう…。
そこには母がいた…。
「おはよ。」
「あ、おはよう」
「最近、早起きだね?眠れないのかい?」
「…う…うん…ちょっと…」
「成長期なんだからちゃんと睡眠はとらないとねぇ〜」
「わかってるわよ…」
わたしは母の顔をみながら返事した。
よく見ると、母の顔は何故かアザが増えていた…。