魔王さまとカエル
「あ~、いい月だな」
ルイトは少し酔ったのか千鳥足で歩いていた。
もうあたりは暗く、夜の月が足元を照らす。
今日は満月なのでよく見える。
店を出て街道を歩いていく。
もう家の光は消えて人の寝息も聞こえないぐらい静かだった。
こんな静かな夜は好きだ。
「...ふふん♪」
ルイトは鼻歌を歌いながら家の角を曲がっていった。
「あっ!!」
ルイトの影を小さな足音が追う。
ドンッ!!
「っ!!」
小さな体は曲がった瞬間に思いっきり転んでしまった。
必死に起き上がろうとする。
「おい!!お前さっきから俺になんか用か?」
「え!!」
そう。
ルイトは最初から気が付いていた。
うまく隠れてたつもりだがルイトは腐っても長年用心棒をしていた。
重要人物の護衛も経験もあるため視野は広く気配の読みも人並み以上はある。
小さな者は黙り込んだ。
「......」
「昼間に...」
「あ?」
やっとしゃべり始めたその声は男とも女ともいえない。
その声には魔力が込められているのか周りの空気が澄み始めた。
「昼間にソナタに助けられて。礼を言おうと思うたのだ」
その言葉遣いは多少変わっている。
しかもよく見てみれば5歳くらいのガキだ。
月は雲で隠れてしまい薄暗くてよく見えないが肌は透き通るくらい白い。
髪は綺麗な銀髪だ。
...魔族だな。
魔族は体の一部に銀が入っている。
なんともわかりやすい。
そんなことを考えていると。
「聞いておるのか?」
「...」
「・・・・・・礼を言おうにもソナタはすぐに立ち去ってしまった。しかもその後も人間の多い場所に行ってしまったのでタイミングをつかめなくてな。必死で追いかけていたのだ」
あ~!!あの時のガキか・・・・。
「別に俺は助けたつもりはなかったんだけど・・・・・」
アイツが抱えていたのは知っていたがその後の事は考えていなかった。
もちろんこのガキを助けたつもりはない。
ただ俺の気分直しだった。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「と、とにかく我はソナタに助けてもらったのだ。礼を言おう」
「子供のくせに偉いな」
俺は思わずそいつの頭を撫でてやった。
「ランランから礼はちゃんと言いなさいと言われたのだ」
そいつは目をほそめて俺を見上げた。
「白黒の熊のような名前だな」
「ランランは色々と教えてくれるのだ」
「そうか」
ルイトはその子供の頭を撫で続けていた。
なめらかなその髪の感触は気持ちがいい。
職が見つかったらペットを飼おうかと思った。
「我の教育係なのだ」
「兄貴じゃないんだな」
「我は我しかおらぬ、生まれてずっと我は一人だ」
「・・・そうか、だがまぁもう用は済んだんだ。ささっと子供は家に帰りな」
ルイトはもう一撫でして離れた。
「あっ!!まて!!まだ我は命を救われた礼をするのだ!!」
ルイトの服をつかみながら言ってきた。
「離せ!!そもそも俺はお前を助けたつもりはなかったんだよ」
キツイ言い方だがこのままだど離してくれなさそうだった。
「っ!!」
その魔族の子供は下を向いてしまった。
しまいには体が小刻みに震えている。
あ~あ。
やっぱり子供はすぐ泣くから嫌なんだよ。
「....」
どうしようか。
このまま帰っちゃおうかな。
「ふふふ」
いきなりその子供は顔を上げた。
その時、雲が晴れて月が上げた顔を照らした。
ゾクッ!!
その顔は恐ろしい程に整っていて。
笑っていない赤い目と、真っ赤な唇が半月を描く。
子供でもさすがは魔族。
あたりはその子供の魔力で圧迫されている。
まるで蛇ににらまれたカエルの心境だ。
やっとのこと声を出す。
「な、なんだよ!?」
なんで俺はこんな小さな子供にびびってるんだよ。
「ふふふ、今日はここまでだ。迎えが来たらしい」
「・・・・・」
声が出ない。
小さな体が闇に溶けていく。
その体が見えなく瞬間。
「ルイト・リリケルド・ジョン・フォーランド。また会おう」
「え!!なんで俺の名前......熱っ!!」
いきなり手の甲が熱くなり、見ると複雑な模様が広がっている。
「なんなんだよあの子供は・・・・」
ルイトは呆然と立ちすくんでいた。
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すみません。