魔王さまと泉
遅くてすみません。
「リア―!!」
ルイトは朝から怒り気味だ。
それはなぜかと言うと...。
「嫌だ」
「いい加減にしろよ」
「嫌なものは嫌なのだ」
「っ...!!」
俺はリアを押さえつけてお風呂に入れようとした。
だがリアは温かいお湯が苦手らしく俺の手からするりと抜けていく。
逃げては捕まえの繰り返し。
リアが暴れるせいで部屋がめちゃくちゃだ。
いい加減に俺も限界だった。
「わかったから大人しくしろ」
リアは逃げるのを止め俺をじっと見る。
「は~、もういいから行ってこい」
リアは俺が言い終わる前に外に出た。
「ちゃんとバレないようにするんだぞ」
「わかっておる」
リアはそそくさと森へ向かった。
森には泉が湧いていてリアはそこで水浴びをする。
まぁリアにはバレるなと言ったが人間なんて滅多に森に入らないので心配ない。
「さ~てと!!俺はこの嵐の過ぎ去った様な部屋を片付けるかな」
ルイトは若干疲れ気味に言った。
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温かいお湯はどうも苦手だ。
それでなくても汚れなんて無いに等しい。
普段、我は魔力の膜で体を覆ってる。
どんな細菌でも我を汚すことはない。
なのにルイトは毎日、毎日我を風呂に入れようとする。
毎回飽きぬものだと思う。
風呂は嫌いだけれど泉で清めることは好きだ。
あそこの泉はとても魔力に溢れ浸かっていると気分がいいのだ。
リアは足ばやく泉を目指した。
服のまま泉の中に入る。
泉には大小の波紋が広がった。
頭まで浸かり目を閉じる。
気持ちがいい。
けどなんだか今日はぴりぴりとする。
泉の中いいる水精がよってくる。
《クス、クス》
水精は主に女だ。
《魔王さま、魔王さま》
《尊い方、我らの王》
水精達が囁きながら我の体を泉の底へ運ぶ。
《きて、きて》
なんだか今日の水精達は言葉が多い。
《おねがい、おねがい》
《おねがい、おねがい》
《きて、おねがい》
【なんだ...?】
《きて》
水精達は我を泉の下まで連れて行く。
《とって、とって》
下まで行くと一人の水精はしきりに岩を指差した。
【何をとるのだ?】
《とって、さわって》
《さわって、さわって》
【触る?】
リアはその水精の指差す岩に近づく。
!!
【そういうことか!!】
リアは岩に刻まれた文字に触れる。
一瞬、ピリッとした電気が走り岩は砕けた。
《我らの王、王》
《ありがとう、ありがとう》
《魔王さま》
《ありがとう、ありがとう》
水精達はリアの周りをクルクル回り、砕けた岩に近づいていった。
《ありがとうございます》
澄み切った声が聞こえた。
【水霊王か?】
岩の影から女とも男ともいえぬ者が出てきた。
水精の王であり四大霊王の中の水を司っている。
《あの忌々しい岩に閉じ込められてしまいました》
【いったいどうしたのだ?】
《いきなり人間がきて...》
《水霊王様、水霊王様》
《みた、みた》
《人間、人間》
《水霊王様、人間怖い》
《怖い、怖い》
《怖い、怖い》
《怖い、怖い》
水精達は水霊王がされた事を見ていたようだ。
そのせいでパニックになっている。
《怖い、人間》
《人間、怖い》
《人間怖い、だから殺す》
《人間殺す、殺す》
《殺す、殺す》
《静まりなさい》
水霊王が水精をなだめる。
《人間、人間》
《人間、嫌い》
水精達は黙った。
【水霊王、岩にあの紋章が刻まれていた】
《...!!》
水霊王はリアを見て眉をひそめる。
《では、私はあれに...?》
【命があっただけでよかったな】
《そうですね》
水霊王は目を伏せる。
【では我はもう行こうと思うが大丈夫か?】
《はい、お手間をお掛けしました》
【楽しくなってきた】
リアは笑いながら泉の上に向かった。
《水霊様、水霊様》
《魔王さま、行っちゃった?》
《大丈夫?、大丈夫?》
《魔王さまなら大丈夫ですよ》
《人間、怖い》
《そうです、人間は怖い》
《怖い、怖い》
《怖い、怖い》
《でも人間で一番怖い方がいるんですよ》
《誰?、誰?》
《それは勇者ですよ》