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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

こんな夢を見た

フロントガラス

作者: pinkmint
掲載日:2026/03/22

キキキバンガシャーン。

そんなすさまじい音とともに自分は夢の中で覚醒した。


気が付くと自分はランドセルを背負っており、小学校からの下校途中で、振り向くと、つい今さっき渡った交差点の角の家に、乗用車が突っ込んでいる。

前部はブロック塀にのめりこんだ形で、車の助手席にもたれかかっているような子供の黒髪が見える。多分女の子で、おかっぱだ。窓にはひびが入り、女の子は頭から流血している。

運転席の人は見えなかったが、車からは誰も出てこない。

車に突っ込まれた家のおばさんがあわただしく出てきて、両手を口に当てて何か叫んでいる。

車と反対側の壁にはひしゃげた子ども用の自転車が倒れかかっていたが、なぜか乗っていたはずの子供の姿は見えない。もしかして、激しく跳ね飛ばされたとき車の下に滑り込んでしまったのだろうか。


わたしは車の前に回り、飛散したフロントガラスのかけらを急いで拾い集めた。

どういう訳か幼いころからキラキラ光るものが好きで、中でも「割れたフロントガラス」という多面体の光の宝石は、手に入れるチャンスがめったにない分、お宝だったのだ。

周囲の家から人々が出てくると、わたしはあわててポケットにガラスのかけらを突っ込み、家に走って帰った。

事故がどうのこうのより、収穫だ!という喜びが勝っていた。

またキラキラと輝くものが手に入った。


ここで時間が少し飛ぶ。

自分は自室の机に向かい、漫画か何かを読んでいる。時計を見ると、午後10時。勉強机の引き出しには、今まで集めた車のフロントガラスやビー玉やシーグラス、おはじきが入っている。

引き出しを開け、今日の収穫を手に、そのキラキラした断面をうっとりと眺める。

さてもう寝ようかと思ったとき、ふと背中にいやな気配を感じた。


背中を押してくるような、言ってみれば、真っ暗な視線のようなもの。


振り向いてはいけない気がして、でも確かめずにはいられなくて、そっと視線を斜め後ろに向ける。

首は動かさずに、ただ、視線だけをぎりぎりまで。


その視界の端に、おかっぱの少女の顔の端が見えた。


助手席のあの子だ!


そう思ったとたん、少女は額から血を流しながら、顔を傾け、黒目がちの鋭い目でこちらを睨んだ。

どくん、と心臓が飛び上がるが、ここで気取られてはならない、という気持ちが先に立つ。

けれどここにいたらきっと捕まる。ただでは済まない。

部屋を出なければ。


何気なく、何気なく立ち上がり、後ろは見ずにカニ歩きして、そっとドアを開けて廊下に出る。

廊下の灯をつける。

ゆっくりゆっくり階段を下りながら、掌の中に一つ、あのフロントガラスを握りしめているのに気付く。固く握りしめたこぶしの中で、その角が皮膚に食い込み、わずかに流血しているのを感じる。


こんなものを拾ってしまったから、ついてきたのか。

後ろは見られないけれど、階段をすっすっと降りてくる、女の子のはだしの足の気配を感じる。


ここでどういうわけか、自分は洗面所に入った。

洗面所のシンクの上には大きな鏡がある。

鏡。

今一番、見たくないもののはずだ。ところがわたしはそこの前に立たずにはいられなかった。まるで命令されたかのように。

あくまで下を向いて、シンクの栓を閉じ、水をジャーッと出して、フロントガラスのかけらをそこにぽとんと落とす。

いつもの儀式。拾い集めたフロントガラスは必ず水で洗うこと。

それを、していなかった気がする。

掌には血がにじんでいた。


これから自分はとんでもないものを見る。

その予感をしっかり受け止めながら、わたしは思い切って鏡に向かって顔を上げた。


どんなおそれもあたりはしなかった。そこには、背景以外、「何も」映っていなかったのだ。女の子も。そして、自分も。


自分も?


手で頬に触ってみた。柔らかな感触が確かにある。自分はここにいる。

でも、鏡の中にはだれもいない。

なのに、感じるのだ。あの少女の、邪眼のような視線を。

あの子は、死んだのだろうか?

わたしは、……なぜ映らない?


外へ。外へ出なければ。

なぜかその思いにせかされて、わたしは廊下を進み、玄関へ向かった。

玄関のあかりをつけると、玄関マットの上でこちらを向いて、


あの少女が立っている。


白いブラウスは血にまみれ、その下は赤いスカート。額から幾つも血の筋を垂らし、吊り上がった黒い目でこちらをにらんでいる。


恐怖のあまり声も出ない。


少女はこちらに向けて両手を握りこぶしにして突き出し、指を広げた。血に濡れたフロントガラスがバラバラ―ッと音を立てて床に落ちる。

口もきけずにいるわたしをゆっくりと指さして、少女は言った。


「もう死んでるよ」


そのとたん、脳裏にひらめくある記憶。

自転車にまたがっていたのは自分だった。十字路を突っ切ったとたん、飛び込んできた車、運転席の男性の絶叫するような顔。

激しい衝撃。


わたしはあのとき、死んだのだ。


少女はわたしの手を握る。そして顔を突き出す。白目の部分のない黒い目をむいて、口を横に広げる。

広げた口から血が滴る。濁った声を、喉から絞り出す。


「わだーしーの、おどうさん、は、どおーごおおおーーー」


「いやああああ! はなして、はなして、ゆーるーしーてーええええ!!」



自分の叫び声で目が覚めた。



それにしても、と、今になって思う。

あの十字路では昔、それはしょっちゅう、衝突事故が起きていた。

車とバイク。車と車。車と、人。

ドカーンと音がするたびに物見高いうち一家五人(両親と三人姉妹)は夕食中でも茶碗を置いてそれッと見に行っていた。

だからあんなに趣味のフロントガラスがたまったのだ。


高校に入ったあたりから、事故は一回も起きてはいない。

特に見通しの悪い通りではない。

何か事故を呼ぶ悪い霊でもいたのだろうか。


例えば車両事故を心待ちにして、車が衝突すると喜々として散乱したガラスを集めに行くような、


そんな罰当たりな子どもの霊が。

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― 新着の感想 ―
イヤアアアこーわーいーーー!厭でしょうそんな、事故現場のなんて痛そうというか実際痛い事になっている、自分でやっている、何が怖ろしいってワケワカラナイである場合が多いけれど己がそうなってるのが……でもな…
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