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俺たちの初夜は驚くほどぐだぐだだったが、俺にとっては幸せだった。
結局そのまま寝落ちしてしまい、目を覚ましたときには隣でスヤスヤ眠る一ノ瀬さんがいた。自分の隣で安心して寝てくれている。その事実に感極まった。
一ノ瀬さんが安心して過ごせること、できるなら幸せになってくれること。それがファンであり今は恐れ多くも恋人という立場をもらった俺の、ずっと変わることのない願いだからだ。
こっそり髪を撫でる。初めて会ったときボサボサだった髪は今、コンディショナーがしっかり塗りこめられているようだ。もしかして俺とこういう風になるからわざわざ、だったりして。自惚れだろうか。
「たかやくん......?」
一ノ瀬さんが目を覚ました。慌てて手を退けようとするが、むしろ頭を擦り付けてくる。
な、なんだこの可愛い生き物!
保護とかしなくて大丈夫だろうか!?
一ノ瀬さんはまだ寝ぼけている様子で、目の焦点が定まっていない。確か低血圧で朝は弱いんだっけ。配信で前に言っていた。だからこんな風に甘えてくれるのか。
「もうちょっと寝る......」
「はい。いっぱい寝てください」
昨日変な時間に寝落ちしたので実はまだ朝早い。俺のバイトも午後からなのでまだまだゆっくりできる。一ノ瀬さんがもぞもぞと俺の腕の中に入ってきて心の中で叫んだ。あくまで心の中で。一ノ瀬さんの睡眠を邪魔するわけにはいかないから。
ああ、どうか一ノ瀬さんが安心してよく眠れる日々が続きますように。そんな若干ポエミーなことを考えながら一ノ瀬さんの寝顔を眺める。俺はもう眠くないが、一ノ瀬さんのことなら何時間でも眺めていられるから退屈しない。
一ノ瀬さんは何度か起きては寝る、というか起きようとして寝落ちするというのを短いスパンで繰り返してから、ひどくダルそうに体を起こした。そしてすぐに俺の存在を思い出し、恥ずかしそうに寝癖を撫でつける。
「おはよ」
「おはようございます」
「気づいたら寝てたな」
「ですね。体、痛くないですか?」
「筋肉痛だ」
その言葉に思わず笑いが漏れる。実は俺もちょっと筋肉痛だ。どうやらそういうことには普段と違う筋肉を使うらしい。
「でもお前が優しくしてくれたから、そんなにだよ」
言ってから恥ずかしくなったのか顔をそむけてしまう。
「何か食べますか? 買ってきますよ」
「ああ、そういや昨日夕飯も食わずに寝たのか。珍しく朝から腹が減ってるなと思ったんだよ」
一ノ瀬さんはあくびをかみ殺してから服を拾って着た。昨日の夜は暴力的なまでの色気を放っていた一ノ瀬さんの体は、カーテンの隙間から入る朝陽を浴びてどこか神聖な雰囲気を放っていた。
「一緒にコンビニ行こう」
「はい」




