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「このあと、予定ある?」
何回目かのデート......というと気恥しいが、そういうものを終えた帰路、一ノ瀬さんが言った。
「いえ。特にないです」
「じゃ、うち来ない?」
何もない場所で転びそうになった。
が、一ノ瀬さんの前でそんな失態を犯すことはどうにか回避してバランスを立て直す。ニヤニヤしている一ノ瀬さんを恨めしさを込めた目で見た。
「意外と初心なんだな。イケメンなのに」
「イ、ケメンですか?」
顔が熱い。我ながら単純というか、チョロすぎてびっくりする。もちろん一ノ瀬さんに対してだけだけれど。
「うん。恋人とか居たことないの?」
「初恋が一ノ瀬さんなんですから、居たことあるわけないじゃないですか!」
「そういうところが初心なんだよ。好きな人がいても、上手く行かなそうだったら他行く人がほとんどじゃん」
確かに中高の同級生にはそういう人が多かったかもしれない。大学では誰が誰を好きとか、誰と誰が付き合っているとかそういうのをそもそも把握していないが。
「ほとんどでは、ないでしょう......。それに、一途と言ってほしいですね」
「うん。貴也くんは一途だね。俺、一途な子好き」
「......っ!」
また揶揄って! そんなチャラ男みたい(偏見)なセリフ、柄じゃないだろうに。
「で、話戻るけど家来る? 機材とか見せてあげるよ」
今度はファンを家に連れ込むネット活動者みたいなことを言いだした。いや、こちらはあながち間違いでもないのか......。
「......あの、一ノ瀬さん」
「ん?」
「緊張してます?」
「そんなこといちいち指摘せんでいい!」
柄じゃないことを言いだした原因はそれかとうんうんと頷くと軽く脚を蹴られた。それを躱してクスクス笑う。カップルのじゃれ合いのようで照れくさい。
「前に配信で言ってた、誰とも付き合ったことないって本当なんですか?」
「そうだよ。悪いか? お前だってそうだろ」
「悪いなんて一言も言ってないじゃないですか! むしろ居たらショックですよ!」
今度は一ノ瀬さんがクスクスと笑った。
「カズのイメージじゃないってか?」
「いや、それは別にいいですけど。誰だって好きな人の元恋人のことなんて考えたくないでしょ」
一ノ瀬さんはポカーンとでも書かれそうな顔をしてから噴き出した。
「お前やっぱ初心だなー」
「え、な、なんですかそれ!」
電車に乗ってすぐに一ノ瀬さんの家に着いた。セキュリティのしっかりしたマンションだ。
「あー、ドキドキしてきた。最後に作曲配信してから引っ越しました?」
「いや」
「なら配信部屋とかも見れちゃうってことですか!? ......あ、もちろん一ノ瀬さんが見せてくれるなら」
「いいよ。見せてあげる」
少し間を置いてから耳もとで「特別に、ね」と囁かれた。照れたのか面白くなってしまったのか笑いが混ざっているが、俺の腰を抜かすには十分だった。
「立てなくなったんですけど......」
「ごめん......」
おそらく俺は一ノ瀬さんが思うより一ノ瀬さんが好きなので、扱いには気を付けてほしい。




