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第8章「薔薇の密室とフェレットの目」

前書き『第8章「薔薇の密室とフェレットの目」』


この物語は、少年科学者オリバー・ジョーンズが“gifted学園”で過ごす日々の中で出会う謎と、亡き母の記憶、そして仲間たちとの絆を描いたものです。


第8章では、学園の静寂を破る小さな事件――それがやがて、オリバーの過去と深く繋がっていたという事実が明らかになります。

登場するのは、盗難事件を追うフェレット型ペットロボ・フェイ太郎、冷静沈着な少年オリバー、そして彼に協力する王族の青年マハラジャ。

彼らの機転と絆が、一つの闇を暴いていきます。


この章では“知性”と“本能”、そして“正義”の形が交錯します。


無邪気なフェレットの動きすら伏線となり、やがて母の遺志を継ぐオリバーの決意へと繋がっていく――

まさに、“少年たちの物語が動き出す”転機となる1章です。





挿絵(By みてみん)







第8章「薔薇の密室とフェレットの目」


空調の効いた酒場の一角に、マハラジャの部下がいた。ハエ型ドローンが撮影した動画を俺は、見せて貰ったんだ。

スーツ姿で、一切無駄のない動き。その人の目線の先に現れたのが――バクスターだった。


「gifted学園の薔薇が欲しい」と言い出したそうだ。

赤く見えるが、光を当てると青く輝く“蒼炎の薔薇”。貴族の間で珍重されてるあの品種。


盗む気らしい。しかも、買い手までついてるって話だった。

録音はマハラジャの部下が持ち帰り、すぐに俺の端末へ転送された。


「……またバクスターか。あいつ、学ばないな」


俺は溜息まじりに呟きながら、フェイ太郎を膝に乗せた。


「フェイ太郎。温室の監視、頼んだぞ。“掘っちゃダメ”ルールは厳守な」


「本能には逆らえないんだけどね……」と文句を言いつつ、奴は監視モードに切り替えた。

小型センサーモジュールが起動する音が、静かに響く。



数日後、夜中の温室で事件が起きた。……これは後からフェイ太郎に見せて貰った話だ。


バクスターが“蒼炎の薔薇”を盗もうとした瞬間、何かの気配に気づいたらしい。

暗闇の中、動いたのは――フェイ太郎。


「ネズミか」と油断したバクスターの背後で、フェイ太郎が小さく鳴いて合図した。

天井からドローンが複数起動し、バクスターに攻撃した。バクスターはその場で気絶したらしい。


その映像も、しっかり録画されていた。



それからの展開は早かった。


FBIが動き出し、バクスターは盗品の不法取引の容疑で逮捕。

しかも押収された保管庫からは、母・ヘラの遺品と一致する装飾品が見つかった。

血痕付きだった。DNA照合の結果は――母のもの。


……言葉にならなかった。


さらに仲間たちが芋づる式に逮捕され、学園の地下にまで続く武器庫まで発見された。

ニュースでは「国際規模の武器密売グループの摘発」として報道されたけど、

俺にとっては、母の魂にようやく光が当たった瞬間だった。



その夜、マハラジャに通信を繋いだ。


「……ありがとう。助かったよ」


「気にすんな。これで貸し借りなしだな?」


「そういうことにしておこう」


端末の向こうで、あいつが笑ってる気配がした。


「なあ、オリバー。お前、うちの部署に来ないか? お前の能力があれば、うちは百人力だ」


「……うーん。俺、誰かに縛られるの、苦手なんだ」


「知ってるよ。けど気が向いたら、いつでも相談に乗るぜ、ジョーンズ」


「その時は、また派手にいこうぜ」


俺も、思わず笑ってた。



事件が片付いて、gifted学園は一時的に平穏を取り戻した。


……が、フェイ太郎はというと――


またケイティの鉢植えを掘っていた。


「この悪魔ーっ!!」


中庭にケイティの怒号が響く。

事情を知らない誰かが「ヒーローなのに……」って呟いたらしい。

だが、あいつは平然と答えた。


「だって本能だもん……」


……まぁ、あいつらしい。



こうして、ひとつの事件は終わった。

でも、俺たちの戦いはまだ始まったばかりだ。


フェレット、薔薇、監督官、そして――母の遺志。

それら全部を背負って、俺はまだこの学園にいる。


“gifted”ってのが、“選ばれし者”を意味するのなら――

きっと俺たちは、もう逃げられないのだろう。


だとしても、俺は最後までやりきる。


オリバージョーンズの冒険は、まだ――序章にすぎない。


第8章・了

後書き『第8章「薔薇の密室とフェレットの目」』


この章は、ある意味で「小さな推理劇」でもあり、「オリバーの心の回復物語」でもありました。


事件としては、gifted学園に咲く“蒼炎の薔薇”の盗難未遂。

けれど本質は、“なぜバクスターは何度も失敗を繰り返すのか”

そして、“なぜオリバーは母の痕跡にそこまで執着するのか”という部分にあるのです。


また、ケイティとフェイ太郎のやり取りは、章の最後に“人間味”と“ユーモア”を添えてくれました。

感情と本能の狭間で生きるロボット。

オリバーと共に、彼もまた「gifted」として、自分の役割を全うしています。


読者の皆さんにとって、この章が

「どこか現代的で、でもどこか懐かしい」

そんな読後感を与えられたなら幸いです。


物語は、まだ続きます――

オリバージョーンズの冒険は、ようやく本格的に幕を開けたばかりなのです。


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