第6章「gifted(選ばれし者)の授業」
前書き:
gifted学園。
その名の通り、選ばれし者のための学び舎。
けれど、そこにあるのは“天才たちの青春”なんかじゃない。
――これは、戦いの準備だ。
俺が育った聖トスゴーンとは違う。
ここは、知性と技術と、そして“過去”がぶつかり合う戦場だった。
第6章では、ついにオリバーが本格的に学園のカリキュラムへと足を踏み入れます。
だがその教室には、彼の“仇”がいた。
仲間とのやりとりの裏で、密かに燃え続ける復讐心。
――母を殺した男は、教師として、すぐ目の前にいた。
ほんのささやかな笑顔や、フェレットの悪行があっても、
その奥底には、確かに沈殿している怒りと使命。
この章は、オリバーの戦いの“本当の始まり”なのです。
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第6章「gifted(選ばれし者)の授業」
gifted学園の教室棟に足を踏み入れた瞬間、ああ、やっぱり軍事施設みたいだなって思った。無機質なのに妙に洗練されてて、壁一面がディスプレイ、机も全部ネットに繋がってる。俺がいた“聖トスゴーン”のアーカイブとはまるで別世界。あれは遺跡、こっちは“未来”って感じだ。
教室に入るなり、全員の視線が俺に刺さってきた。……知ってる。フィールド戦初戦のデータが学内ネットに流れて、ちょっとした話題になってる。“無名の怪物”とか、誰だよそのセンス。まあ、バイクで飛び回ったのが印象的だったんだろうな。
「おはよう、オリバー」
隣の席からラファエラが微笑んだ。クリーム色の髪をまとめた彼女の笑顔は、張り詰めた空気をやんわりほぐしてくれる。……相変わらず、強いのに優しいやつだ。
その後ろでは、ケイティが眉間にしわ寄せてこっちを睨んでる。
「お前が強いのは認めるけどな……また勝手にバイクで海岸走ったら、怒られるの俺だからな?」
「わかったよ」と俺は肩をすくめた。「でも、海風って頭を冴えさせるんだ。俺だけか?」
ケイティが何か言い返そうとした時、エミールが静かに声を落とした。
「先生が来る」
扉が開いた。長身の男が入ってきた。金属製の義手をそのまま晒して、左目にはデータスコープ……こいつか。
gifted学園の“戦術と記録”担当教官。寮監督官――バクスター。
……俺の母を殺した、遺跡泥棒の一味。
静かに、心の奥底が冷えるのを感じた。表情は崩さない。けれど、目だけは細めて、しっかりと“敵”を捉えていた。
「諸君、ようこそgifted学園へ。我々は、“選ばれし者”を、単なる知識の担い手ではなく――未来の覇者として育てる」
バクスターの声が教室に響くたび、胸の奥に、ずっしりと怒りが積もっていく。あいつは知らない。母・ヘラが殺されたことも、父・ゼウスがどう苦しんだかも――
校外にいるハチコウが、ネット越しに唸り声をあげていた。AIとはいえ、あいつは俺の感情を同調で感じ取ってる。あいつには、隠し事はできない。
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昼休み、中庭。
「この悪魔っ!!」
まただ……フェイ太郎がケイティの“ミケランジェロ三号”を掘り起こしたらしい。
「お前、根っこ丸見えじゃねぇか!!どんな本能だそれ!」
「だってフェレットの本能だもん」とフェイ太郎がぴょん、と跳ねながら返す。あいつ、何で堂々としてんだ。
「今度“掘っていい鉢”ってラベル貼っとくから……」ラファエラが笑いながらなだめてる。なんだこの和やか地獄。
ケイティには、“盆栽専用ルーム”っていう禁断の部屋がある。家族すら立ち入らないらしい。ドアには札がかかってた。
「立入禁止:フェレット及び関係者全員(特にフェイ太郎)」
その伝説の部屋には、一鉢150万の盆栽があるらしい。フェイ太郎も一度だけ鼻先を入れかけて、ケイティに「契約違反だ」って囁かれたらしい。こわ。
でも、あいつはそれでも掘りたいらしくて、中庭の防犯カメラの前でしばらく黙って立ち尽くしてた。……何やってんだあいつ。
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俺は図書アーカイブにいた。
バクスターの過去――遺跡調査団時代の記録を洗っていた。ページをめくるたび、母の死の真相が冷たい文字になってにじんでくる。
そのとき、後ろから静かな声が聞こえた。
「君は……復讐を考えているのかい?」
マハラジャだった。白い制服の襟を正しながら、こっちを見ている。
「復讐は、君の行動を縛る。だが、真実は君の力になる。オリバー・ジョーンズ。君の戦いは、始まったばかりだ」
――わかってるよ。
俺はまだ、何も終わっちゃいない。
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こうして、俺のgifted学園での戦いは続いていく。
次のフィールド戦。次の敵。
そして、母の死と、過去の真実に決着をつけるその日まで。
第6章・了
後書き:
「お前が掘ろうとしたのは……150万の命なんだぞ」
フェレットと盆栽と、癒やしの昼休み。
その裏で進む、母の死の真相調査。
敵は身近にいて、感情はAIの犬にまで伝わる。
gifted学園での日常は、時に笑えて、時に苦しい。
それでも、オリバーは真実に向かって歩みを止めない。
マハラジャの言葉がすべてを物語っている。
「復讐は行動を縛る、真実は力になる」――
この章で描かれたのは、単なる学園生活ではありません。
“復讐”と“正義”の狭間で揺れる少年の、
第一歩としての、授業。
次章ではいよいよ、再び始まる“フィールド戦”。
その裏で動き出す、バクスターの陰謀。
戦いと友情と、もうひとつの真実が交差していきます。
――物語は、加速していく。