第2章 gifted学園、拐われたマハラジャ
gifted学園――天才たちが集まる場所で、いちばん信頼されて、いちばん疑われるのもまた、“天才”なんだってことを、入学初日に知ることになるとは思わなかった。
この章ではさ――
まず、植物オタクのケイティと、彼の天敵みたいなフェレットロボ・フェイ太郎が、朝っぱらからドタバタやってる。
それから、うちに同居してる金髪の美少年エミール。今は9歳の姿だけど、実は中身は相当ワケありで……ラファエラの香水を嗅いで“何か”を思い出しかけるんだ。
あとは、俺が絶対に忘れない顔――寮監督官バクスターとの再会。
あいつが“あの日”の現場にいたってこと、俺の目は忘れちゃいなかった。
そして一番衝撃だったのが、学園の前で起きた誘拐事件。
褐色の肌の少年、マハラジャ。
彼を救い出すために、俺は――俺のバイクで、ひとりで突っ込んだ。
……この出会いが偶然だったのか、それとも運命だったのかはわからない。
でも、間違いなくここから始まったんだ。
“あの五人”の、物語がさ。
第2章:「gifted学園、そして5人の出逢い」
朝のバード邸は、いつもどおり静かで、植物の匂いに満ちていた。
……と思ったら、やっぱりあいつの声が響き渡る。
「フェイ太郎ーーーー!!」
廊下の向こうで怒鳴り声。もう察しがつく。
「また“ミケランジェロ三号”の鉢を掘ったな!?この悪魔っ!」
黒くてちょこまか動くフェレット、フェイ太郎がケイティの足元をすり抜けてく。背中を丸めて「クックックッ」って鳴きながら跳ね回る様子は、完全に挑発モードだ。
「やる気だな……こいつ……」
隣で見てたハチコウが、ため息交じりに鼻を鳴らす。
「なにさー、植物だらけの家が悪いんでしょ?」って、フェイ太郎が言い返す。声にすらイラッとくるのがすごい。
「しょうがないじゃん、フェレットの本能だもん」とラファエラの声がソファから飛んでくる。
ラファエラは相変わらず天使みたいな顔でのんびりしてて、「掘っていい鉢でも用意しようかな……“ミケランジェロじゃない号”とか?」
いや、それはちょっと笑った。
「笑えない冗談やめてよぉ!」ってケイティが言ってたけど、たぶん心の中でちょっと笑ってたと思う。
――
その頃、俺は洗面所で制服のネクタイと格闘してた。全然うまく結べない。
隣では、金髪碧眼の美少年エミールがちょこんと座ってる。見た目は9歳だけど、中身は訳ありだ。昔は誰かを庇って死にかけたボディガードで、今はHONDA製の白人クローンボディに記憶だけ移植されてる。でも、その記憶も曖昧らしくて、まるで別人みたいにおとなしい。
「……なんか、懐かしい匂いがする」とエミールがつぶやいた。
「制服の?」
「違う。ラファエラの香水。……昔、どこかで嗅いだ気がする」
「ふーん……それって記憶、戻りかけてるってこと?」
エミールは何も言わずに制服の袖を触ってた。なんだろうな、時々あいつ、俺たちよりずっと歳上なんじゃないかって感じる。
――
その日、俺たちはgifted学園の門をくぐった。
世界中の天才が集まるって言われてる、選ばれし者のための学校。
で、早速出くわしたんだ――あいつに。
寮監督官。名前はバクスター。
その顔を見た瞬間、頭の奥がギリッと鳴った。
(……あの時の……間違いない)
母さんが――ヘラが襲われたあの日の記憶がよみがえる。
ハチコウが前に出て、ガルルル……って唸り声を上げた。
「ワン! ワン! ワン!」
バクスターの顔が冷たく歪む。
「ジョーンズ君、君の犬は制御できていないようだな?」
「すみません……」って答えたけど、俺の目はあいつから逸らさなかった。
(必ず、正体を暴く……母さんの仇として)
――その時だった。
何だか外が騒がしい。
窓の外、リムジンが校門近くに停まってて、何人かの男がひとりの少年を取り囲んでいた。
マハラジャ。派手な話題ばかりの王子様だ。
寮に気に入った部屋が無いからって、マハラジャ専用の邸宅を父親が3億円払って建てたって言う曰く付きの。て、今は関係ないか。
で、いきなりだった。男たちの一人が電極みたいなのをマハラジャに突きつけて――
バチッ、と火花が散った。
(……誘拐!?)
考える前に体が動いてた。
窓を開けて、2階から飛び降りる。
「オリバー!?」「うそ、2階から!?」
ハチコウが後を追ってくる。「またかよ!」って顔してたけど。
すぐに駐車場へ。そこには、俺の相棒――ハーレーダビッドソン。
脈拍認証キーをタッチ。ブォン、とエンジンが咆哮する。
ハチコウをサイドカーに乗せて、俺はハンドルを握った。
「待ってろ、マハラジャ!」
――
追いついた。リムジンのトランクで、マハラジャが押し込まれてる。
「ハチ!」
「ワンッ!!」
ハチコウが跳んでドアをかきむしる。ガシャッとロックが外れ――
俺は身体を乗り出して、マハラジャの腕を掴んだ。
「……大丈夫か?」
「……貴様、何者だ。神の使いか?」
「いや、ただの教師の弟子さ」
――
バード邸の裏庭に戻ったら、案の定フェイ太郎が騒いでた。
「なにこの王子様!?この鉢掘ってもいいかな?」
「ダーメッ!!!」って即答されたけどな。
――
その夜、夕飯を囲んで、マハラジャとちゃんと話した。
「俺は君に借りを作った」
「そうかもな」
「返すまで、君を“ウォーカー”として雇う。給料は弾むぞ、オリバー・ジョーンズ」
「……悪くない話だ。でも俺からも条件がある」
「なんだ?」
「協力してくれ。エミールの記憶を、取り戻すために」
マハラジャは笑って、「いいだろう。“神々の遊び”ってやつだな」なんて言った。
この日が、俺たち5人の冒険の始まりだった。
【第二章:あとがき】
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
gifted学園に舞台が移り、本格的にキャラクターたちが動き出しました。
今章では、
・フェイ太郎の“全力いたずら開幕”
・エミールの微かな記憶の目覚め
・オリバーの“母の仇”への怒り
・そしてマハラジャの誘拐と救出劇
など、ギャグと陰謀が交差するめまぐるしい展開をお届けしました。
マハラジャとオリバーの出会いは、今後の物語の要となる大きな分岐点です。
あの少年王が「ウォーカーとして雇う」と言ったあの瞬間から、
物語は“個人の天才”から“仲間の物語”へと、確かに踏み出しました。
次回、第3章ではいよいよ、gifted学園での課題授業やラファエラ、リリカたちとの関係が少しずつ深まっていきます。
彼らの才能と心が交差していく、その始まりをどうぞ見守っていただけたら嬉しいです。
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次回もお楽しみに!