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03 幼女に懐かれるのは悪い気はしない


 ところ変わって神殿。

 外気は少し肌寒くはあるけれど、貸してもらった高そうなローブのおかげさほど気にならず。これには幼女ちゃんもにっこにこである。

 お城の裏手にある神殿に移動する間、数歩進んでは振り返りこちらに手を振る姿はとても可愛らしく、レグルス王子と一緒に癒されていた。

 ああいう無垢な微笑みって言うのは日々に疲れた人間には染みるんだよ。……もしかして王子もこっち側か。


 神殿の中にはファンタジー特有の巨大な謎クリスタルが鎮座していて。

 ゲームの知識ではアレに主人公ちゃんが触れることであのクリスタルの持つ魔力を生み出す力を活性化させるんだったか。

 結局このクソデカ謎クリスタルもとい魔法石が何なのか、なんで魔力が枯渇してるのかも私がやっていた範囲では語られてなかった。なんでこの世界は危機に陥っているんだろうね。


「さて、星の神子。魔法石に触れてくれるかい?」


 エルナトに促されせいらちゃんがゆっくりと手を伸ばす。

 ゲームスチルの主人公ちゃん(十五歳)ともかなりの差があったのに、今の幼女せいらちゃんだとクリスタルの大きさがより顕著だなぁ。


 小さな手がぺたりと青みを帯びたクリスタルに触れた瞬間、巨大なクリスタルが虹色に輝き始める。

 ……ソシャゲのガチャ演出みたいだな。こんなにもSSRが排出されたみたいな状況なのに、なんでこのゲームのガチャ画面これじゃなかったんだろう。確かネクスト名探偵ヒントみたいなガチャ画面だったんだよ。

 クリスタルから溢れ出た光が落ち着きを取り戻す頃には、私とせいらちゃん以外には安堵というか歓喜の声が漏れていた。ガチャ演出とか考えていたのは秘密にしておこう。


「まぶしかった」

「あらら、おめめ痛くない?」

「うん」


 これでいいのか? どういう理屈なのかはわからないが何とかなったらしい。

 目をこすりながら帰って来たせいらちゃんが隣まで来て手を握る。これは、懐かれているとみていいんだろうか。そんなにされてもピザとポテトくらいしか分けてあげられるものがないぞ。

 というか私、鞄どこやったんだろう。財布もスマホもないや。手元に残ったのはピザとビールのみ。やっぱり頼りになるのはアルコールだけなのか。


「これで、やっと世界が……」


 ぼそりとレグルス王子が呟いた。

 そのまま、ゆっくりと傅く。イケメンに見上げられるのっていいよね。自分の癖が変わってなくてちょっと笑う。


「必ず私がお守ります。だから、この世界を救ってくれませんか?」


 因みにこれ全部私に言われているわけじゃない。全部せいらちゃんに向けた言葉だ。

 この辺りはムービーで、最後にちらっと移るエルナトが印象的だったなぁ。意味深で何かあるんだろうなと思ったが、それがわかるところまでゲームをプレイしてないので彼がどうかかわってくるのかも知らない。

 まぁつまり、ここからゲームが始まるわけだけど。……幼女に世界の命運を任せるのはちょっと酷じゃない?


「えっと」

「ムリしなくていいよ。嫌だったり、怖かったりしたらやらなくてもいい」


 この世界の人には申し訳ないとは思うが、幼女に押し付けて良い問題じゃないと思うのよ。まぁ、ゲーム本編の高校生に入ったばかりの主人公ちゃんに押し付けるのも違うけど。

 それにいくら世界の魔力が枯渇しかけていると言ったって、今日明日で滅びるわけじゃないはず。

 もちろんレグルス王子たちも何かしらの方法を模索してくれると思う。せめてせいらちゃんが安全に魔法石の活性化が出来ると言い切れるまでは。


「おてつだい、だよね?」

「ええ、危ないことは絶対にさせません」


 少しだけ握られた手に力が込められた。とは言っても、五歳児の力なんて高が知れていて簡単に振り払えるような握力しかない。

 レグルス王子を見ていたせいらちゃんが私を見上げた。小さくなっているとはいえ、ゲームの主人公ちゃんの面影がある。

 女性向けのゲームだったのもあってとても可愛らしい顔立ちだ。美少女だな。さぞ色んな人に可愛がられてきたことだろう。


「ななちゃんも、おてつだいしてくれる?」


 おっとそう来たか。懐かれているのかなとは思ったけど、私ご一緒する感じになるの? なんの理由かもわからずここにいるだけの人間よ? ちらりとレグルス王子の方を見ると真剣な顔で私を見て頷いた。

 まぁ、そうなるよなぁ。この人は何よりも自国、そしてこの世界に住む人々を救いたいと願っていた。

 世界を救うためならば一般人がもう一人巻き込まれたとて、全部まとめて守り切る覚悟をしてしまうんだろう。


 せいらちゃんに視線を戻せば私を伺うような、不安そうな顔をしている。そんな顔させたいわけじゃないし、私だって幼女に押し付けるわけにもいかない。

 ゲームの内容も途中までしか知らなければ、事細かに覚えているわけではない。でもこの手を振り払えばすぐに大粒の涙を溢しそうな幼女相手に断れるはずもなく。


「イイヨー」


 しゃがみ込んで視線を合わせれば、途端に嬉しそうな顔になった幼女が私目掛けて抱き着いて来る。

 嫌じゃない。幼女に頼られて嫌な人間とかいない。でも私ただの疲れた社会人だぞ。

 まぁ、幼女に頼まれたらやるんだけど。


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