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127 穏やかな明日を願って


 今日も元気に幼女がはしゃいでいる。

 いつもの様に中庭でレグルス王子とイクリール君に構ってもらっているせいらちゃんを、噴水の縁に腰かけて眺める。

 平和そうなのはもちろん、今まで抱えていたものが一段落したのもあってか、皆心なしか表情が明るい。いいことだな。


 せいらちゃんは全ての魔法石の活性化を終えて、一先ず星の神子としての役目を終えた。

 レグルス王子やエルナト曰く、役目を終えた星の神子が故郷に帰ったという資料もないらしいし、基本的にはこの世界で暮らしていくことになるんだろう。まぁ、神殿と同じく保護観察という扱いになるんだろう。


 あぁ、改めて。全部終わったんだなぁ。レグルス王子や騎士さんたちの計らいで殆ど大変な目にも遭わず、過ごすことが出来た。魔物が多い地方ではそれなりに危険もあったけど、怪我もなかったし問題ないな。

 ゆくゆくは自立するべきとは思うんだけどね。そんなことを考えていると、不意に隣に影が差す。


「よう」

「あらどうも」


 見慣れた顔が、慣れた様に隣へ腰かけた。アルヘナ君だ。

 しばらくはレグルス王子と一緒に忙しくしていたようだが、一通り各所に連絡を終えて、彼が手を出せる範囲は終わったらしい。お疲れ様です。

 お互いに労いつつ、これからどうするのかとか、世間話に興じる。アルヘナ君は変わらずレグルス王子に付き従っていくし、これからもっと忙しくなるんだろう。


「お前はどうすんの? ……あー。まぁ、言いたくなけりゃ別にいいけど」


 何とも歯切れの悪いアルヘナ君に、以前、似たような話をしたのを思い出す。

 あの時は周りが見えていなくて、つい酷い態度をとってしまったんだったか。アレは本当に申し訳ないことをした。

 アルヘナ君が私のことなんか気にするわけがないって決めつけて。この世界の人たちと自分は違うんだって、拒絶していたのは私の方だった。物分かりのいいフリをしていただけだった。


「エルナトに魔法を教えて貰おうと思ってて」

「あ?」

「星の神子を召喚した魔法を教えてもらって、将来的にはこちらの世界と向こうの世界を行き来する方法を確立出来ればなって」

「ふーん、いいんじゃねぇの」


 興味のなさそうな言い方だが、どことなく機嫌は良さそうだ。

 何がどうして機嫌がよくなったのかはわからないが、まぁ、いいのか?


「元の世界に帰る方法が見つかったらどうするんだ?」

「そうしたら次は、こちらとあちらを行き来する方法を探す」


 足を組んで頬杖を付くアルヘナ君に、少し前から考えていたことを話す。

 自分が何をしたいかって考えた時、今一何も浮かばなかったんだけど、せいらちゃんの様に何の準備もなくこの世界に呼び出されるような存在がいるのだと思ったら何か出来ないかと。

 あんまり意識していなかったけど、もしかしたら私は自分のためよりも誰かのために動いていた方が考えがまとまりやすいのかもしれない。


「へぇ、その次は?」

「探そうと思えばやることなんて無限に探せるからねぇ。銀の針をどうするかとか?」


 私の言葉を聞いて、どういうわけかにんまりと笑ったアルヘナ君が続きを促す。さすがにこれ以上はすぐに思いつかないんだが、そのうちまた何かしら思い付くでしょう。

 思いを馳せる様に肩を落とすと、こちらをじっと見つめた後、アルヘナ君がため息を吐いた。


「そうかよ、心配して損した」

「心配? 私とせいらちゃんが帰ると思ったんだ?」

「うっせ」


 茶化すように軽口を言って笑えば、アルヘナ君も拗ねたようにそっぽを向く。けれど彼の声色はずっと明るいままで。

 くすくすと笑えば、軽く頭を小突かれる。決して痛くはない。いつも私が軽口でじゃれつかれているのに、立場が逆転したみたいでなんだかおかしかった。


「帰らないよ」


 拗ねたように、けれどどこか機嫌のいいアルヘナ君に向けてはっきりと言い放つ。

 私の答えが意外だったのか、アルヘナ君にしては珍しく目を丸くした。そんな顔をされるほどかな。

 向こうの世界に未練がないわけではないけれど、帰る方法がないのはそうそうに教えて貰ったし、納得するだけの時間はあった。それに、私はまだ。


「まだ君に喝を入れてもらった分を返せてないし」


 正直。私にとってアルヘナ君は、よくわからない人だ。

 前を向くきっかけをくれた。この世界でちゃんと生きていくために、自分と、人と向き合うために叱咤してくれたのも彼。そういう意味では恩人だ。

 行動に移すより頭の中で考える時間の方が圧倒的に多い私にとって、物事をはっきりと言い切ってくれるアルヘナ君は隣にいて楽な存在であり好ましい相手でもある。


 これは、親愛や友愛と呼んでいいんだろうか。

 こういう青臭い経験を思春期に経験し損ねたので、非常に恥ずかしいのだが、もう少しだけ。この青臭い感情を彼の隣でこねくり回していたいと思ってしまったのだ。


「これからどんどん返していくから、それまでこうしていさせてね」


 アルヘナ君がこちらに向きなおったのを見て、笑いかける。

 日差しは少し眩しく、柔らかな風が撫でて噴水の水がぴちゃりと跳ねた。少し先ではなじみの友人たちの楽しそうな声が聞こえる。

 次第に、アルヘナ君の口角が持ち上がる。それにつられて、どうしてか心が弾む。


「ばーか」


 からかうような柔らかな声に、どちらともなく笑った。




読んでいただきありがとうございます!

これにてこの話は完結になります。

賢いフリをしていた大人が、人と触れ合ってちょっとだけ自分から動いてみようと考えを変えるお話でした。


一週間ほど休みまして、また新しいお話を更新していこうと思っております。

改めてまして、読了ありがとうございました!


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