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01 ピザとビールをキめたかっただけなのに


 右手にコンビニで買った缶ビール、左手にピザの持ち帰り。おまけにサイドメニューのポテト付き。

 その時の私は何者にも邪魔されるべきでない幸せの体現者のはずだった。

 それがですよ。ルンルン気分で住宅街を歩いてたら突然眩しくなって、次の瞬間には明らかに日本の様式ではない建築物の中で、日本人ではなさそうな人たちに囲まれてたってわけ。なにこれ?

 そんな中でも唯一の褒められた点は、両手のピザとビールを手放していなかったことだと思う。


「召喚に成功したぞ!」

「星の神子だ!」


 なんか言ってる。

 白くてアニメやゲームなんかでしか見ないようなローブ、……ローブでいいの? あれ。とにかく日本で暮らしていたらおよそ見ないようなファンタジーな格好をした人たちが騒いでいる。


「召喚には成功したけど、ちょっと手違いがあったみたいだね」


 ローブの集団の中でも一際派手なローブのイケメンが困った様に笑いながら私を見た。

 手違いとは。私にとっても、今すぐ家に帰ってビールとピザを楽しめないのが手違いなんですけど。


「そのようですね。でも、星の神子は無事に召喚された」


 なんとなく聞き覚えがあるような声がしてそちらを向く。見れば見る程王子様という出で立ちの青年がいた。わぁ綺麗な子。

 その子がゆっくりと歩いて来て、私から少し離れたところで立ち止まった。


「突然お呼び立てして申し訳ありません、星の神子様。どうか我々の世界を救っていただけませんか?」


 え、はぁ。え? 今なんて言った?

 あの王子様の言葉を聞いて唐突に思い出す。私多分あの子を知ってる。というか、目の前の光景を見たことがある。それもスマホの画面越しに。

 そうだ、アレよ。昔ちょっとやっていたスマホゲームのオープニング。就活だったりスマホを機種変したりでログインしなくなってそのままやらなくなっちゃったやつよ。

 そのゲームのメインキャラだったあの王子様が主人公に手を指し出している。多少の差異はあるものの、凡そ画面の中で見た一枚絵と同じ、だと思う。


「ここ、どこ?」


 そう、困惑している主人公ちゃんが幼女になっている以外は。


「ここはアヴィオール。この世界は今未曽有の危機に瀕しています。枯渇した魔力を再生するにはあなたの祈りが必要なのです」


 片膝を付き切々と協力を求める王子様は、本当に世界を救いたいんだろうと言う気持ちは伝わる。ただ、相手が悪い。確かゲームだと主人公は高校生くらいだったと思うんだが、今王子様の目の前にいるのは幼女だ。しかも推定年齢五歳くらいの。

 何なら王子様の傍に控えていた厳めしい鎧のおじさんも大丈夫かこれと呟いている。


「あ、あのー」


 幼女ちゃんの困惑する気配を感じて、とりあえず挙手する。一斉に集まった視線がいたたまれない。いや、この視線に幼女ちゃんがさらされ続けるよりはいいのか?

 一際派手なローブのイケメンが何か面白いものを見たような顔で私に手のひらを向け、発言を促す。多分、この人もゲームのキャラに似てるんだよなぁ。彼が活躍する章まで進めていなかったから記憶が曖昧だ。


「言葉、難しいです。相手子供ちゃんだから、もっと簡単な言葉で言ってあげて」


 目を丸くした王子様が、私を見上げる。

 ああそうだ。だんだん思い出してきたぞ。大学の頃にちょっとだけやっていたスマホゲームの登場キャラたちに似ているのだ、彼らは。あれはカードを集めて育てる系のゲームで、特に目の前にいる王子様が好みで始めたんだったと思う。

 私を見ていた王子様が、幼女ちゃんに向きなおる。


「世界を救うお手伝いをしてくれませんか?」

「おてつだい、すればいいの?」

「はい!」


 そうそう、こういう真面目で爽やかだけど笑うと幼い感じになるところが好きだったんだよ。

 ……ここって本当にゲームの中なの? 私最初の方しかやってないから世界を周って神殿で祈りを捧げるくらいしか内容を覚えていないんだが?

 というか推定主人公の幼女ちゃんが居るのに何で私ここにいるの? あのゲームって確か主人公がこの世界に呼ばれるところから始まるんだよね? そのシーンが多分、今。

 え? 本当になんで私ここにいるの?


「私はレグルスと言います。神子様のお名前を聞いてもいいですか?」

「はなぶさせいらです。ごさいです」


 わぁ聞いたことある名前ー。手のひらを王子様に向ける幼女に引き攣った笑いが出そうになる。

 そうか、主人公ちゃんデフォルトネームか。しかも五歳かぁ。えぇ? この世界五歳児に命運預けてるの?

 そんなことを考えていたら暫定主人公幼女ちゃんと目が合った。


「うん? どうかした?」

「お名前を聞きたいのかと」


 名前。私の? なんで?

 促すように私に告げたレグルス王子に疑問に思いながらも、幼女ちゃん改め、せいらちゃん五歳と視線を合わせるためにしゃがみ込んだ。


「北野奈々です。よろしくね」

「うん! ななちゃん!」


 あら可愛い。やっぱり幼女はおずおず大人の顔色伺ってるよりにこにこしてる方がいいよなぁ。

 ここが本当にゲームの世界かどうかは置いておいて、五歳児の笑顔を守るのが大人だよなぁ。

 私自身何が起こってるのか全くわかってないんだけど、幼女ちゃんの安全第一で行動すればいいか。

 ああ、私がピザとビールにありつけるのは一体いつになるんだろう。



読んでいただきありがとうございました!


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