拾いモノのお借りモノ
ミリヤムは先輩騎士とは言ってもふたりのようには戦わない、ちょっと特殊な立場の人。
眼鏡があまり賢さを醸さないタイプの、実は賢いド天然眼鏡キャラであり、ベリトの前世知識風に言うと『難聴系天然美人』である。
「はう~」という感嘆の息を盛大に零しながら後ろに倒れるミリヤムを、支えるでもなく支えたのは彼女の背後に立つ第三部隊副隊長のウルフ。
潜入中なのか令嬢と護衛風で、今日のミリヤムは眼鏡を掛けていない。
「お前らナチュラルにイチャつくなよ、ミリヤムが倒れるから」
「たまたま出会ったのに酷い言い掛かりだ!」
「大体人のこと言えます?」
イクセルのツッコミ通り、ふたりの方こそ普段からナチュラルにイチャついているのだが、未だ謎の両片想い……これぞ『難聴系』のなせる技である。
ちなみにウルフは紳士という名のヘタレだ。
「あ、ミリヤム先輩これ美味しいですよ!」
「ベリたんったらもう! イクセル君以外に食べさせちゃダメよ!」
「いや~、流石に私も先輩に食べかけは渡せませんよォ。 勧めただけっす」
「はわわ……極自然な特別発言……ッ! ご馳走様です!」
「食べてないのにもうご馳走様ですか?」
「ああ~尊いわぁ……! 基本ふたりはそのままでいて! でもたまにウッカリ異性として意識して!」
「ちょっと何言ってるかわからないっす!」
『なかなか恋愛に発展しないカプ萌え民』のミリヤム的にベリトとイクセルは推せるらしく、一旦尊死しかけて復活した今、ウルフそっちのけでベリトに絡んでいる。
ウルフも慣れているので、ミリヤムが謎リクエストをしているのをスルーし、イクセルと会話し出した。
「はは、今ここにいるってことは閣下に命じられたか」
「ええ。 おふたりもこの件で、ですよね?」
「まあ……そうと言えばそうだな」
ウルフの曖昧な返事にイクセルは眉を顰める。面倒臭いなにかがありそうで、なかなか嫌な感じだ。
(ツッコむか、ツッコまざるべきか)
特別報酬を考えたら、情報は共有しておいた方が対処しやすいのは確か。だが、ベリトの様子に特別な変化は見られない。反応する程のテンプレ臭はしないらしい。
(……止めておくか)
謎の多いレアスキルであり、なんならちょっとアホみたいなベリトのスキルだが、よくよく嗅がせて得た情報から重要な点を掻い摘むと凄い役割を果たす。
これまでのふたりの手柄の中から例を挙げると、被疑者の中から真犯人を掴むとか、或いは未来予知に近い、事象の特定など。
読み書きはできるようになったけれど、活字はあんまり好きでなく本も滅多に読まないベリトとは違い、彼女の前世の誰かは本が好きだったらしく『テンプレ臭』で示されるテンプレート分岐は意外と広かったのだ。
しかも目星さえつけば、イクセルのスキルを効率的に使えるという……
コレがふたりの成り上がり術だったりする。
生憎、今回は該当しないらしいので、ふたりで一早く解決するのは難しそう。
別の人の方が向いている案件ならばグダグダしてる間に解決され、特別報酬は出ないかお手伝いによる寸志程度である。
一番嫌いな言葉は『タダ働き』、二番目に嫌いな言葉は『骨折り損のくたびれ儲け』というイクセルは聞かないことにした。下手に知って手伝わされる羽目に陥るとか、冗談ではないので。
「あ、そうだ丁度良かった。 ちょっと竜貸してくれません?」
少し悩んだが、こういう時はさっさと話を変えるに限る。ついでに、後で誰かに頼むつもりだった用事も済ますことにした。
「竜を? 乗ってきたやつは?」
「アレは大きいので。 今日ちょっと使うだけなんすけど」
「小型だし今近くに停めてるが……」
「お、ラッキー」
「この後着替えて乗るんだよ。 どれくらいかかる?」
「それなりに。 ですが、一体でいいんで。 スピード出す必要ないなら貸してください」
つまり、『相乗りするからそっちもそれでいいよね?』という、両片想い紳士ヘタレであるウルフの足下を見た提案である。
だが別に恋愛的な後押しではない。
本当は許可取りのつもりで聞いただけなので、どのみち演習場まで戻るつもりだったのだから。けれど『近くにいる』と聞いて単純に面倒臭くなっただけであり、『こう言えば貸してくれる』という確証があっただけ。
「……図々しいなお前。 まあいい、貸そう」
「あざす!」
そして案の定許可が出た。
ウルフはさも仕方なさそうにそう言うが、明らかにそういう体。
ミリヤムは顔を真っ赤にして慌てふためいていたが、この後どうせまた『俺と二人乗りは嫌か?』などの問答をしながら、ナチュラルにイチャつくことは容易に想像できた。
ベリトのスキルが発動するまでもないテンプレであると言える。
皆幸せハッピーエンド♡
……ではなく、話はこれから。
今度こそ本当に、ふたりはクルーム子爵領領主邸へと向かっていた。