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拾いモノの拾いモノ

 

 イクセルとベリトは孤児だったが、ベリトのスキル『前世の記憶に紐づけられし勘働き』と、イクセルのスキル『遠視・遠聴』により、成り上がりのチャンスを逃さず掴み取ってきた。



 ──ベリト6歳、イクセル7歳の冬。

 行き倒れていたイクセルを、ベリトが幼いなりの打算から拾い匿ってやった。このふたりの出会いこそ『ベリト初・前世の記憶甦り記念日』……もっとも、日付などは覚えていないが。


 ベリトの母はいかがわしい酒場の女給をしていたが、数日前から帰って来なくなった。

 昼間に酒場に行ってわかったのは『男と逃げたらしい』ということ。

 貧民街に借りていた古いアパルトマンの一室から追い出されないよう、母の不在を誤魔化して過ごしながら、それでもベリトは帰ってこない母を待っていた。


 イクセルを拾ったのはそんな夜。

 家にはまだ食べ物や薪があり、飢えよりも寂しさが勝っていた。自分と同い年くらいの少年とはいえ、そうでなかったら多分拾っていない。


 イクセルは孤児院で育ったそう。

 どうもそこは、貴族のワケありの子が預けられるような場所だったようで、汚れてはいたが身に付けているものはそれなりにいい物だった。

 なにより彼は読み書き計算ができたのだ。

 このお陰で、日銭と家賃くらいは稼ぐことができるようになり、金さえ支払えば文句はないタイプの大家から追い出されることもなく過ごせた。


『孤児院を抜け出したところ、奴隷商に捕まるというヘマをしたが逃げた』とイクセルは語っていた。

 当初のベリトはそれを信じたものの、今は嘘だと思っている。


 よしんば彼のいたのが辺境伯領内の孤児院で、奴隷商が上手いこと普通の商人かなにかに扮して潜んでいたにせよ。貧民街に住み腹を空かせてフラフラしている、お菓子ひとつで簡単に吊られて捕まりそうな、ベリトの周囲の子らが消えたという話は特に聞いたことがなかったので。


 ただベリトはイクセルのそのあたりの事情にはあまり興味がないので、深く突っ込んで聞いたことなく今に至る。

 まあ、どうせ貴族の庶子とかなんだろうな~くらい。魔力量も多いし。


 なによりテンプレ臭が出会いのきっかけだったのだ。多分、貴族子息で間違いない。テンプレ的に。



「あの時はガッカリしたなぁ……」


 当時を思い出してベリトは呟いた。


 そう、まだ自分のスキルをよくわかっていなかったベリトは、衝動のままに家を出て出会ったイクセルにガッカリしたのだ。


 なにしろテンプレ臭は肉串の甘タレの匂い……なのにイクセルは、明らかに肉串など持ってはいなかったのだから。


「失敬な。 お前はもう少し俺に感謝すべきだ」

「してるしてる~」

「軽いわ」


 そんな思い出話に花を咲かせつつ、ふたりが降り立ったのは王立騎士団の演習場。

 管理はされているが、王都はやや厳しいので竜を初めに降ろす場所はここと決まっている。既に辺境から来た数体の小型飛竜もいる。


 竜……特に飛竜は神聖視されている上、リルクヴィスト辺境伯領でしか飼育には成功していないだけに、到着すると割と歓迎されるのが常。だが今回は急であり、しかも数が多いので『何事?!』という感じになっているのは仕方ない。

 それでも突然の王命発令と、以前の婚約者(侯爵令嬢)の時ことからも、上層部には察しがついている様子。

 王立騎士団から求められたのは飛竜停泊の手続き書類だけで、特になにも聞かれることはなく、記入後はあっさり解放された。


「……『密命』ってなんだっけ」

「言うな」


 この大騒ぎがほぼ主のただの色恋沙汰なだけに、誉ある筈の辺境伯騎士団員としてちょっぴり恥ずかしいふたりである。


 まあ侯爵令嬢の時のように、そこから内政がどうとか人命がどうとか、そういう重暗い話が絡んでくるよりは余程いいけれど。





 一旦演習場を出たふたりは、食事を摂りつつこれからの打ち合わせをすることにした。


 王都城下のメインストリートは貴族も闊歩するだけあり、都会的な高い建物が並び、道幅も広く整えられているものの、少し外れると一気に下町の雰囲気。雑多で賑々しく、活気に溢れている。

 ふたりが竜で来た演習場はそこから更に少し外れた場所にあり、周囲には博物館や美術館などの歴史ある大きな建物が点在している。


「あっアレ食べたい~!」

「まだ買う気か?」


 店に入っても良かったのだが、幸い天気も良い。

 屋台大好きなベリトの希望から、市などの催しが行われる大きな公園で昼食を楽しむことにした。まあ、メインは打ち合わせなのだが。


「掻っ攫うぐらいのつもりでいたわけだけど、二重取りの為にはかたちだけでも内情捜査は必要だ」

「色々本音がダダ漏れだなァ。 んで、どーすんの?」

「先触れを出す体で邸宅に入る」

「それ先触れなの?」

「どうせリルクヴィストのシーリングスタンプもないんだ、手紙なんてなくていい。 むしろそれを理由の直接訪問さ。 ま、元々急な話だし、辺境騎士団の隊服も着てる。 言いくるめられんだろ。 お前はいつも通り俺の傍で匂いを嗅ぎ取ればいい」

「りょ!」


 ふたりがバディを組むと、大体こんな感じでイクセルがほぼ勝手に決めるが、ベリトがそれに文句を付けることはまずない。

 大体「了解(りょ)」で終わる。


 成り上がりはしたけれど、ふたりはそこそこの問題児である。


 イクセルのスキル的にもベリトの性別的にも、本来別部隊に所属させる予定だった。しかしなにかある度、隙あらば勝手にバディを組もうとし、色々あって結局一緒にした。


 他にもクセの強い騎士はいるので、そのあたりはある程度柔軟だが、別に規律が緩いわけでもない。かなりの頻度で罰も受けたが、ふたりが懲りなかっただけである。

 一番の理由は都度成果を上げたから。

 許された、或いは諦められたとも言う。


「ふっ、相変わらず締まらねぇ返事だな。 顔にソースついてるし」

「ほらイクセル、コレ美味いよ」

「どれ」


 イクセルがベリトの顎に付いたソースを指で拭い、ベリトは自分の食べていたクレープのような物を一口食べさせる。

 傍から見ればイチャイチャしているようだがこれが昔からの日常である為、ふたりに気恥ずかしさや甘酸っぱい感覚は特にない。


 しかし──


「ほべぇえぇたたた、(たっと)い……ッ!」

「あれ?ミリヤム先輩」


 だからこそ(・・・・・)萌えてる人もいた。

 ふたりの先輩であり、ベリトの他の貴重な女性騎士、ミリヤム・フルトマンである。


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