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イクセルのスキル

 

「イクセルはなんでかグンナル殿に当たりがキツいよね」

「うるせぇ」


 イクセルがグンナルを気に食わない理由はいくつかあるけれど、内ひとつはベリトが妙に懐いていること。『菓子(エサ)で懐柔されやがって』と度々怒られている。


「……あ、お前アレわかってやったな?」

「なんのことォ?」

「チッ、普段空気なんか読まねぇ癖に」


 白々しく口笛を吹く真似をするベリトにイクセルは舌打ちする。


 大体の場合ベリトは空気を読まないし、なんなら読めないのだが、たまに読むので素なのかわざとかが大変わかりにくい。

 わかるのは付き合いの長いイクセルくらいだろう。


「それよりビューンと今日中に着いちゃうとか、流石だよね! まさかコイツに乗れるとは思わなかったなぁ~」


 この幸運(フェアリクス)と名付けられた飛竜は雄で、頭から尻尾まで3メートル程。翼を広げた全長は6メートルにも及び、飼育している中では最も大きい種類の厩舎にいる。

 だが彼はまだほんの子供で、育てば間違いなく一番の大きさになるらしい。

 実は飼育されている竜の中にはいない種類(・・・・・)のこの竜は、辺境伯閣下であるラーシュの拾いモノ……反則(チート)と言うべき能力はベリトの固有スキルや前世の記憶なんかではなく、間違いなくラーシュの悪癖である。

 おそらくグンナルがいなかったら『悪癖』などとは言われず、持て囃されていたに違いない。

 その点に於いて、イクセルはグンナルの冷静さを高く評価している。(何様)


 ちなみに辺境伯邸の庭には、拾ったフェンリルもいる。

 拾った当初は何食わぬ顔をして犬舎にいたが、でかくて場所を取るので最終的に放し飼いになった。


「ある種の悪ふざけじゃねぇの? 令嬢も閣下が拾ったようなモンだし」

「拾いモノの私達が拾いモノのコレで拾いモノの令嬢を回収っつー? はは、良いねそれ」


 孤児から騎士として成り上がれたように、このふたりもそれなりに活躍している。

 竜やフェンリルが特殊なだけで、『拾いモノ』の大体は命を救われるとか、能力を活かすチャンスを貰えるだけ。

 ふたりは人間の『拾いモノ』の中では出世した方だが、そうではなくても皆忠誠心が高く真面目なあたり、ラーシュの選別眼はやはりなかなかのモノであると言える。





 緊急の連絡に鷹や鳩が使われるのは、当然その速さによる。空では勾配も障害物も悪路も関係ない。いつでも最短ルートだ。

 そして飛ぶスピードも速い。竜なら尚のこと。

 鷹や鳩とは違い、当然ながら竜は目立つものの、この国の上空には虹程度の稀さで竜が観測される。なので辺境伯領を越えたところで、多少話題にはなってもとんでもなく驚かれたりはしない。


 尚、野生の竜は縄張り意識が強いがその分同じ区域に生息するらしく、そこに踏み込みさえしなければわざわざ害さない……というのが他国の研究者の見解である。

 実際、通り道には使われていても、野生の竜との交戦という話は記録にない。


 遙か昔の辺境伯領くらいでしか。


「なんだろ~ね、交戦したんなら、逆に恨まれててもおかしくなくない? 結果飼われるとかさぁ」

「交戦した結果、仲良くなったとかじゃね」

「拳で語る世界……!」


 ふたりに緊張感は一切なく、雑談で盛り上がるこの緩さ。


 なにしろ侯爵令嬢の時とは違いベリトのテンションは高い。

 だがいつもどちらかと言うとダウナーなイクセルのテンションも、実は割と高かった。


「ふっ……なんだかんだで二重取りはできた。 後は閣下からの特別報酬を如何に吊り上げるか……!」


 そう、イクセルのテンションを上げているのは特別報奨。

 あの態度の中にグンナルに対する気持ちもないではないが、基本的に彼は弁えているので普段ならあそこまで酷い態度を取ることはない。これを悟らせない為のポーズである。


「よ~し! いざ子爵邸!」

「おう、特別報奨を貰い受けに!!」

「いやドアマット令嬢の救出だからね?!」


 辺境伯領で高く空へと舞い上がったフェアリクス(幸運)の羽ばたきにより、王都はもう目前。

 豆粒並でもわかる華やかな街並みにふたりのテンションも上がり、まさにアゲアゲ。


 だがふたりとも間違っている──正しくは『辺境伯閣下の婚約者のお迎え』なので。





 王都を超えればすぐ子爵領。

 しかし土壇場で冷静になったイクセルの判断により、まず王都に降りることにした。


「いや待て。 グンナル殿の指示を考えたら、このまま竜で迎えに行くべきじゃない」

「内情捜査? イクセルのスキルを使えばいいじゃん」

「馬鹿、お前の謎スキルと俺のを一緒にすんな」


 実はイクセルもスキル持ちである。


 スキルにもいくつかあるが、ここで言うスキルは固有スキルのことで『ギフト』とも呼ばれ先天的な特殊能力である。


 だが、それを有用なモノにできるかはまた別の話。発動を含め、自在に操るには魔力操作が必要なのだ。

 魔力は極一部の例外を除き、この世界の人間誰もが体内に持つけれど、それを感じて任意で扱える者は少ない。


 ベリトが突発的に発動し後はほぼ垂れ流しであるように、彼女のように特殊なスキルでなくとも皆似たようなもの。

 たとえば『身体強化』スキル保持者の場合、常に付いている筋肉からは考えられない程度の力持ちであるとか、或いは火事場の馬鹿力的にピンチの時だけ使えるとか、そんな感じだ。


 特殊能力(スキル)持ち前の技術(スキル)として扱うには、魔力に対する知識と鍛錬、そして感じて操作できるだけの魔力量が必要不可欠。

 魔力は魔石でも代替できるものの、魔石は高額……従って、スキルをちゃんと使えるのは貴族が多い。


 まず前提として、スキルがないと話にならないのだが。そもそもスキルがあること自体、稀なので。


 イクセルのスキルは『遠視・遠聴』。

 ベリトと違い、滅茶苦茶使えるヤツである。


ちなみにラーシュが令嬢を辺境にそのまま持ち帰らなかったのは、子爵領が逆方向だからです。

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