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4話 月に叢雲、花に嵐

第4話 月に叢雲、花に嵐


「よっ、麻雀小町」

 まったく聞き覚えのない声だったが、明らかに自分のことだと分かったので、さやかは振り返った。

 相手はピンク色のジャケットを着た、無精ヒゲの生えた男だった。年は30代くらいか。

「僕に何か用でしょうか」

「家、探してんの?」

「…ええ、まあ」

 さやかがいるのは、不動産屋の前だった。

 冬枝の代打ちになることは決まったものの、いつまでも冬枝の自宅に居候しているわけにはいかない。さやかは、冬枝が紹介してくれた不動産屋を訪ねてみることにした。

 外に貼り出された物件情報に目を通していたところに、横から声をかけられたのである。

 男の陽気な笑顔が、ずいっとさやかの目の前に躍り出た。

「じゃ、うち来いよ!ボロだけど、個室あるし、シャワーもついてるぞ」

「結構です」

「そう言うなって。美人の嫁さんもいるから、美味い飯が毎日食えるぞ」

 さやかは、まじまじと男の顔を見た。ナンパにしてはおかしな情報が混ざったからだ。

「奥さんがいらっしゃるんですか」

「んだ。鈴子って言うんだ。胸もおっきいぞ」

「……?」

 さやかが男の真意を測りかねていると、男の目線がさやかの胸元に向かった。

「ペチャパイの麻雀小町かあ。牌だけに」

「……っ!余計なお世話だ!」

 さやかが思わず両腕で胸元を隠すと、男はカラカラと笑った。

「悪ぃ、嘘がつけないもんで。心配すんな、ペチャパイはペチャパイで需要があるから。なっ?」

「あっ、あんた、僕に用があるんじゃないのか」

 胸のことを連呼されるのは腹立たしいが、『麻雀小町』という呼び方からして、男はさやかが雀荘『こまち』で大勝したことを知っているのだろう。もしかすると、さやかが『こまち』のオーナーであるヤクザ――冬枝の代打ちになったことも掴んでいるかもしれない。男はどことなく胡散臭い雰囲気があるし、カタギではない可能性がある。

 ――日中とはいえ、一人で出歩いたのは不用心だったか。

 ヤクザの代打ちになったが、さやか自身は組員ではないし、構える必要はないと思っていた。

 だが、麻雀打ちの間で噂が伝わるのは早い。思わぬところから、剣呑な輩に絡まれる危険性は十分にあった。

 さやかが警戒心を持ったのとは裏腹に、男は急に悲しそうな表情になった。

「もしかして、俺のこと知らねえ?」

「は?」

 男は額を叩くと、しまったとばかりに天を仰いだ。

「さいー、やざねぐなったなぁ。これでも『こまち』のエース、ワイルド嵐で通してきたんだけど」

「ワイルド……?」

「あの日はちょうど鈴子と寒風山さ行ってて、麻雀小町の活躍を見逃したんだよなぁ。あれ、いだましごとした」

 さっきから、一方的にまくしたてられるばかりで、さっぱり話が見えてこない。

 帰ろうかな、とさやかが踵を返そうとしたところで、男が急に低い声を出した。

「俺がその場にいたら、お嬢ちゃんをヤクザの代打ちになんかさせなかったんだが」

 さやかの背に、緊張が走った。

「……何が言いたいんですか」

 男は不敵な笑みを浮かべた。

「俺と勝負しろ。俺が勝ったら、代打ちは辞めてもらうぜ、麻雀小町」



 男と対決するメリットは何もない。分かってはいたが、麻雀の挑戦となると断れないのがさやかの性分だった。

「俺は春野嵐。ワイルド嵐、でよろしく」

「嵐さん、ですか」

 雀荘『こまち』へは、男――春野嵐と歩いて向かった。

 冬枝は今日、組当番で組の事務所に行っている。弟分たちもそれぞれ用事があるようで、さやかは朝から一人だった。

 ――わざわざ、冬枝さんに知らせることでもないか。

 馴れ馴れしい男だが、嵐から悪意は感じない。少なくとも、白虎組若頭補佐・霜田のような厭らしさはないし、嵐のほうが人好きするところはある。

「嵐さんが勝ったら、僕に代打ちを辞めろという話でしたが……僕が勝ったら、嵐さんは何をしてくれるんですか」

「うーん、そうだなー。麻雀小町」

 さやかはびしっと人差し指を突き付けた。

「『夏目さやか』!その呼び方、恥ずかしいからやめてもらえませんか」

 冬枝がつけた渾名が、いつの間にか広がってしまったらしい。恐らく雀荘『こまち』にかけたのだろうが、野暮ったくて仕方がない。

 嵐は「さやか、かー。お堅い見た目のわりに名前はめんけえな」とおどけた。

「じゃあ、俺が負けたら、なんと!!」

「なんと?」

「タダで我が家に下宿させてやろうじゃないの!!!」

「……………」

 それでは、勝っても負けても嵐の思い通りのような気がする。さやかは呆れて二の句が継げなかった。

「別に、さやかが住みたいなら、今すぐうちに来てもいいけど」

「お断りします。だいたい、奥さんの了承は得ているんですか」

「得てねえけどー。鈴子もきっといいって言うと思うよ、さやかなら」

「何の根拠があるんだ……」

「さやかはさ、今どこさ住んでんの?」

 この男、人との間合いが近すぎないか。出会ったばかりだというのに、「うちに住め」だの「ペチャパイ」だの、さやかは宇宙人と遭遇したような気分でいた。

「別に……」

「あ、分かった!ダンディ冬枝の家だな」

「………!」

 図星だった。特にやましいことはないはずなのに、何故か赤面してしまう。

 嵐はこれ見よがしに両手で顔を覆った。

「ああ、やざがねえ。嫁入り前の娘が、もうヤクザにチョシマシされてしまうなんて」

「されてない!僕と冬枝さんは部下と上司みたいなものだ。それ以外の何物でもないっ」

 さやかは東京育ちだが、5歳までこちらにいたので、嵐の失礼な方言も理解できる。

 嵐がじとっとこちらを睨んだ。

「ばしこげぇ。トニックの匂いプンプンさせてるくせに」

「うっ…!」

 さやかは言葉に詰まった。

 日用品は住む場所が決まってから買うつもりでいたので、シャワーの際は冬枝が使っているトニックを借りていた。頭がすーすーするなあとは思ったが、そんな誤解を招くなんて予想していなかった。

「…借りただけです。深い意味はありません」

「ホントだべか」

 嵐が探るような眼を向けてきたが、さやかはもう反応するのも面倒だった。

 ――勝って、こいつを黙らせる。

 両拳を握り締め、さやかは『こまち』へと歩を進めたのだった。



 昼下がり、冬枝は書類を取りにマンションに戻った。

 ――さやかの奴、部屋探しに行くって言ってたが、引っ越し先は決まったかな。

 引っ越すといっても、さやかの荷物はトランクとボストンバッグくらいだ。部屋が決まれば、今日のうちにでもここを出て行けるだろう。

 胸のうちをスキマ風が吹き抜けたが、冬枝は気付かなかったことにした。

 リビングで、さやかがぽつんとソファに座り込んでいた。

「何やってんだ、さやか」

 さやかは、何をするでもなく、ぼんやりとテーブルの上を見つめている。心なしか、背中が小さい。

「冬枝さん」

「ん?」

「あの…その…」

「何だよ」

 さやかは、喋ろうとしてはやめる、を繰り返した。

 冬枝はじれったくなって、さやかの前に回り込んだ。

 そこで、さやかの足元にトランクとボストンバッグが並んでいるのに気付いた。

「ああ。引っ越し先、決まったのか」

「…はい」

 さやかは「そのことなんですけど…」と声を小さくした。

「何だよ、さっきから。どうかしたのか」

「僕……あの……」

 さやかにしては珍しく、歯切れが悪い。不安げにこちらを窺う様子は、0点のテストでも隠している子供みたいだ。

「どうかしたのか?」

「…っ!冬枝さん、僕…」

 さやかは、意を決したように顔を上げた。

「僕、ここから出て行きたくありません…!」

「えっ?」

「このまま、冬枝さんのそばにいちゃ、ダメですか?」

 さやかから潤んだ瞳で見つめられ、冬枝は戸惑った。

 ――それって、つまり……。

 冬枝は昨夜、さやかに鮭とばを分けてやったことを思い出した。

「ほれ、あーん」

「あむ。ちょっと硬いです」

「ったく、自分で食えよな」

 さやかに酒のつまみを食べさせてやるのも、これで三度目だ。若い女と晩酌を共にしている、という色っぽいムードとは程遠い。野良猫にエサを与えているようなものだ。

 さやかがもうひとくち欲しいと言うので、今度は鮭とばをライターで焙って食べさせてやった。こっちのほうが美味しい、とさやかは笑った。

 そんな時間も、冬枝は嫌いじゃなかった。さやかが可愛いか可愛くないか、と聞かれたら、可愛いと答えるだろう。

 さやかからこんな風に縋り付かれて、それなら、と思ってしまうのだから。

 ――それなら、別に俺は……。

「兄貴ー、まだっすかー?」

 ドアの向こうから響く、土井の間延びした声が、冬枝を我に返らせた。

 ――って、何考えてんだ、俺は!

 危うく、「それなら、ずっとこの家にいてもいい」と言ってしまうところだった。

 さやかは野良猫ではなく、若い女だ。冬枝のようなヤクザと同居して、いいことなんて一つもない。冬枝とて、自室には見られたくないものが山ほどある。家事雑用を任せている弟分たちですら、住み込みにはさせないぐらいだ。

 冬枝は、さやかの肩をぽんと叩いた。

「何、弱気になってんだ。こっちは東京よりずっと治安がいいんだから、心配することねえ」

「冬枝さん…」

「困ったことがあったら、いつでも俺に電話しろ。お前は俺の代打ちなんだから、何でも力になってやる」

 すると、さやかが眉を八の字に下げた。今にも泣きそうに見えて、冬枝は目を逸らした。

 ――このままじゃ、さやかを引き止めちまう。

 情が移ったのだろうか。我ながらどうかしている、と冬枝は自制した。

「…お世話になりました」

 さやかは、力なく頭を下げた。

 こうして、3日に渡る冬枝とさやかの同居生活は幕を下ろしたのだった。



 嵐の住まいは、日の当たらない路地にある古い一軒家だった。

「暗いだろ?昔は日当たりが良かったんだけどさ、ほら、そこにでかいビルが建ったもんで。日陰になっちまったんだ」

「………」

 さやかは、嵐の自宅が薄暗いボロ家だろうと、どうでもよかった。

 ――こんな奴に負けるなんて……。

 麻雀で負けるなんて、いつ以来だろうか。白虎組の猛者たちを難なく倒した後だけに、こんなヘラヘラした男に敗れるなんて、さやかは信じられない気分だった。



 雀荘『こまち』での勝負は、始めはさやかがリードしていた。

 配牌の段階から手が良く、驚くほどスムーズに和了ることが出来た。対する嵐は『こまち』のエースを自称する割にはいいとこなしで、捨て牌からもお粗末さが伺えた。

 ――あるいは、こちらを油断させて、イカサマでも仕掛けるつもりか。

 だが、嵐のやり方は、イカサマなんて姑息なものではなかった。

「はいっ、金鶏和~。満貫!」

「ツモ!双竜争珠!満貫っ!」

「悪いねー、十三不塔!役満!」

 あっけらかんと和了り続ける嵐に、さやかは呆然とした。

 ――こんな和了り形は、僕の解にはない……!

 嵐が使ったのは、どれもこれも古い役だった。少なくとも、さやかがこれまでに打ってきた東京の雀荘で、これらの役を採用している店は見たことがない。

「あんたはいつの時代の麻雀をしてるんだ…!誰が知ってるんだ、そんな昔の役っ!」

 さやかが思わず椅子から立ち上がると、嵐は悪びれもせずに足を組んだ。

「いやー、ここは田舎だからさー。時がちょっと止まっちゃってるのよね」

「田舎でも、今はほとんど成立しない役のはずだ。点数だって、店によって違う」

「おーい、中尾ー。役一覧表持ってきてくれ」

 嵐に呼ばれてやってきたマスターの中尾が、店の奥から古い画用紙を持ってきた。

 卓の上に広げられた黄ばんだ一覧表には、確かに、それらの役が嵐の言った通りの点数で記載されていた。

 言葉を失うさやかの前で、嵐が芝居がかった仕草で拍手した。

「ヤクザと縁切り、おめでとう。ちょうどいいから、ここで昼飯食って行こうぜ」

「…………」

 食欲なんて、あるわけがない。さやかが何も言えずにいるうちに、中尾と呼ばれた店員が、さやかと嵐の前にカレーライスを置いた。

 ――カレーライス……。

 そういえば今朝、冬枝の弟分の高根から「今日のお昼はカレーですよ、さやかさん」と言われた。

 まさか、さやかがこんなところで味のしないカレーライスを食べているとは、高根は思ってもいないだろう。

「東京から来たお客さんのために、今夜はうちできりたんぽ鍋にでもするかな。さやかの歓迎パーティーだ!」

 太陽のように元気ハツラツの嵐に対し、さやかは目の前が暗くなった。

 ――冬枝さんにこのことを知られたら、失望されてしまう。

 この際、『代打ちを辞める』という嵐との口約束など、反故にしたっていい。だが、アマチュア相手に負けたという事実は、揺るがしようがない。

 先日、さやかが白虎組の代打ちたちを破り、組長や若頭の覚えもめでたくなったことで、冬枝は満足げだった。

「よくやった、さやか。いい麻雀見せてもらったぜ」

 冬枝に褒められて、さやかも嬉しかった。正直、ヤクザの代打ちをすること自体にそれほどのこだわりはなかったが、この人の役に立ちたい、と思い始めていた。

 ――僕が僕でいていい、と言ってくれた人。

 さやかはさやかだ、という冬枝の言葉を、お守りのように胸に抱いている自分がいた。

「嵐」

「ん?」

「代打ちは辞められない」

 カチャカチャ、とスプーンがカレー皿に当たる音が、ピタリと止まった。

 さやかは真剣だった。

「…少なくとも、僕の一存では決められない。だから、他の条件で手を打ってくれませんか」

 金ならある。金以外のものを要求されたとしても、くだらない負け方をしてしまった以上、冬枝の手を借りることはできない。

 成り行きに任せるしかない、とさやかは覚悟を決めた。

 ぽつりと、嵐が尋ねた。

「ヤクザの代打ちなんかやって、どうすんだよ。金か?」

「…勝つだけです。僕は、本気の麻雀がしたいので」

 それは、さやかの偽りない心情だった。

 嵐はカチャリと空になった皿を置くと、バッと両腕を広げた。

「ようこそ、我が家へ!」

「は!?」

「お前、住むとこ探してるんだろ?今なら特別に、タダで下宿させてやるぜ!」

 ――やっぱり、勝っても負けてもこいつの思い通りだった。

 嵐はなぜか両腕を広げた体勢のまま、目を閉じ、唇を突き出して待っていたが、さやかは力なく立ち尽くすばかりだった。



 冬枝には負けたことは伏せ、住むところが決まったとだけ告げて、さやかは荷物をまとめて冬枝のマンションを出た。

 ノコノコと嵐について来てしまったが、あんな滅茶苦茶な麻雀をする男と同居なんて、どう考えても危険である。

 ――もう、どうにでもなってしまえ。

 どうせ浪人中の身だ。しかも、ヤクザの代打ちにまでなった。何か起こったところで、落ちるところまで落ちるだけだ。

 半ばヤケクソ気味のさやかとは対照的に、嵐は能天気なものである。

「うち、ちゃんとシャワーとトイレ別々だからな。そうだ、さやかに俺の背中でも流してもらおうかな」

「そ、そこまでする義理はありませんっ」

「えー?ダンディ冬枝とは、一緒にお風呂入ってたんじゃねえの?」

 またトニックの話を蒸し返され、さやかは頬が熱くなった。

「入るわけないでしょ!あの人はあんたとは違う」

「下心なしで家に泊める男がいるかねえ。いくらさやかが胸なし、尻なし、ペッタンコ娘といったって、一応女なんだし」

「よ・け・い・な・お・せ・わ・だ…!」

 嵐といると、完全に主導権を握られてしまう。ただの軽口にも振り回され、さやかは苛立った。

「俺と鈴子はしょっちゅう一緒に風呂入ってるんだぜ。さやかも、俺の嫁さん2号になるからには、そういう心積もりでいてもらわないと」

「誰が嫁さん2号だ!そんなことするぐらいなら、死んだ方がマシです」

 そこで嵐が、ふっ、と優しい眼差しになった。

「死ぬとか言うなよ。無理強いはしないからさ。さやかがそのうち、ダンディ冬枝よりもワイルド嵐のほうがいい!って心から思った時には、いつでも抱いてやる」

 嵐の声音は無駄に温かかったが、言っていることは愚にもつかなかった。

 ――こんな奴よりだったら、いっそ冬枝さんのほうが……。

 と考えかけて、さやかは一人赤面した。すっかり、嵐のペースに巻き込まれている。

「おっ、顔が赤いぞ?麻雀小町じゃなくて、スケベ小町か」

「…だまれ」

 こいつ、殺したい――とさやかはわななく拳を握り締めた。

「!」

 嵐が不意に身を翻し、ガードレールを飛び越えて、車道に出た。

「えっ?」

 一拍遅れてさやかが見ると、通りの向こうでおばあさんが倒れている。そのすぐ先を、若い男がカバンを持って走り去るところだった。

 ――ひったくり!

 嵐は瞬く間に車道を横断すると、ひったくりに肘鉄を食らわせた。

「ぐあっ!」

 嵐が車道を乗り越え、ひったくりを組み伏せるまでに、ものの1分もかかっていない。ひったくりを押さえつける嵐の姿は、まるで刑事ドラマに出てくる刑事そのものだった。

 ――こいつ、ただの麻雀打ちじゃない。

 嵐の手際の良さに、さやかは目を見張った。

 嵐はひったくりの上に乗りながら「おーい、さやか」とこちらに呼びかけた。

「このカバン、ばーちゃんに返してやってくれないか」

「あっ、はい。分かりました」

 さやかは、車が途切れたスキを縫って車道を渡ると、嵐の手からカバンを受け取った。

「はい、どうぞ」

「ありがとうねえ、お嬢ちゃん。嵐ちゃんも」

 顔見知りなのか、おばあさんは嵐に手をすり合わせた。嵐も「いいってことよ」と笑顔で返す。

「俺が通りかかるなんてラッキーだったぜ、ばーちゃん。これも、麻雀小町のお導きかな」

「…麻雀小町って呼ばないでください」

 その後、嵐はひったくり犯を近くの交番に連れて行った。道中、ひったくり犯は逃げようとしてもがいていたが、嵐の腕はびくともしなかった。

 只者ではない。かといって、ヤクザにも見えない。さやかは、嵐の正体を測りかねた。

「嵐…さんって、何者なんですか?」

 嵐は立ち止まると、急に真剣な目つきになった。

 大人の男から真っ直ぐに見つめられて、さやかはちょっとたじろぐ。

 嵐は真顔にぴったりの真剣な声で、こう答えた。

「お前の未来の旦那さん」

「……奥さん、いるんじゃないんですか」

「だから、2号にしてやるって~!」

 嵐から笑いながら肩を叩かれ、さやかは閉口した。

 ――よく分からない奴……。

 悪人には見えないが、冗談にしては度を過ぎている。少なくとも、まともな世界の人間ではなさそうだ。

 さやかがもやもやとした疑問を抱いているうちに、嵐の家に辿り着いた。

 嵐が言った通り、春野家は古色蒼然としている。都会的だった冬枝のマンションとは、大違いだ。

 ビルの影に沈む、うらぶれたボロ家を見ていると、嵐に奥さんがいる、というのが作り話のような気がしてきた。

 この家に入ったが最後、ろくなことにならないのではないか。悪い想像ばかりが膨らんで、さやかは唇を噛んだ。

 ――こんなことぐらいで、ひるんでたまるか。

 白虎組の事務所で、若頭補佐の霜田に絡まれた時、冬枝が怒ってくれたことを思い出す。

「さやかは、雀士としてここに来たんです。あんたも極道名乗るんだったら、それにふさわしい口を利くべきだろうが!」

 冬枝がいる限り、何も恐れることはない。自分は、勝つことだけを考えればいいのだ。

 そう思って自分を奮い立たせるものの、やはり目の前の家はどんよりしているし、隣でご機嫌に鼻歌を歌っている男と『何か』が起こるのは、正直嫌だった。

「ただいまー」

 嵐が、ガラガラと立て付けの悪い引き戸を開けると、中から「おかえりー」という声が返ってきた。

「鈴子。噂の麻雀小町、連れてきたぞ」

「うそっ、ホント?わあ、可愛い」

「こ、こんにちは…」

 出てきたのは黒いヘアバンドをした、髪の長い綺麗な女性だった。嵐と同じぐらいの30代だろうか。華やかだが下品ではない程度の化粧をしていて、笑顔がキラキラしている。

「今日から、うちに住むことになりました!はいっ、自己紹介して」

 嵐から偉そうに背中を叩かれ、さやかはむっとしたが、渋々頭を下げた。

「…夏目さやかです。お世話になります……」

 いきなり見ず知らずの女が「お世話になります」などと言い出したというのに、女性ははしゃいだ声を上げた。

「きゃあっ、嬉しい。私、春野鈴子。嵐の妻です。よろしくね」

 さやかの手を握る手は、夫同様に馴れ馴れしいが、優しかった。ニコニコ顔の夫婦に囲まれ、さやかはぎこちない笑みを浮かべるしかなかった。



 その日、冬枝のマンションでは、久しぶりに男3人の夕飯となった。

「さやかさんがいなくなると、ちょっと寂しいですね」

「ホントホント。やっぱ、女子がいるって良かったよな」

 弟分2人は嘆いたが、冬枝は「女子がいるのがおかしかったんだよ」とたしなめた。

「嫁入り前の娘が、家族でも恋人でもない男の家に居候してるなんて、不健全だろ」

「そりゃ、そうですけど。まさか、こんなすぐに出て行っちゃうなんて」

「即入居可なんて、さやかさん、いい引っ越し先見つけたもんだよな」

 さやかが「お世話になりました」と言ってこの部屋を出て行ったのは、冬枝たちが所用から戻ってきた昼下がりのことだった。

 台所番である高根は「なら、せめて夕飯でも」と誘ったが、さやかは首を横に振った。

「すぐ行かなければならないので…」

 それで現在、4人前のカレーライスを男3人で片付けている次第である。

「さやかさん、せっかく部屋が決まったってのに、元気なかったな」

「どうしたんだろうな。不動産屋から、高い物件を押し付けられちゃったとか?」

「それはねえよ。さやかには、俺が口利いたところに行かせた」

 冬枝が否定すると、土井は「じゃあさやかさん、兄貴と離れたくなかったんじゃないですか?」と言い出した。

「ぐっ」

 冬枝は、カレーを噴き出しそうになった。

 さやかが家を出る直前、冬枝に言ったことを思い出す。

「このまま、冬枝さんのそばにいちゃ、ダメですか?」

 さやかから潤んだ瞳で見つめられ、正直、ぐらっとしかけたのは事実である。

 さやかはきっと、異郷の地で一人暮らしを始めるのが心細いだけだ。あそこで勘違いしていたら、ただのスケベ親父になってしまう。

「誰だって、初めての一人暮らしは不安なもんだろ」

 弟分の軽口にいちいち動揺していては、沽券に関わる。冬枝は、努めて平静を装った。

 いつもなら高根が土井を諫めるところだが、真面目なほうの弟分も土井に同調した。

「兄貴、さやかさんを引き止めてあげたほうが良かったんじゃないですか」

「高根、お前まで何言ってんだ」

「さやかさんなら、ずっとここにいたっていいじゃないですか。物静かな娘だし」

「そうそう。女の子がいたほうが、オレらも楽しいんだけどなー」

「お前ら、最初はさやかのこと、気味悪がってなかったか?」

 大金を持ってるのに無防備すぎて不審だとか、コンピューターみたいだとか、弟分たちがさやかに疑いの目を向けていたのは、ついこの間のことではなかったか。

 高根と土井は顔を見合わせると、「いやあ」と声を揃えた。

「兄貴がさやかさんのこと、気に入ってるみたいだったから」

「俺が?」

 そりゃ、溝口や岩淵など、古参の代打ちたちすら凌駕する腕前を見せたさやかは、冬枝にとって頼もしいことこの上ないが――弟分2人のそわそわした様子には、それ以上の含みがある気がする。

「お前ら、なに勘繰ってんだ」

「だって、さやかさんから兄貴のトニックの匂いがしたもんですから」

「ぐっ」

 今度は、カレーを喉に詰まらせそうになった。さやかが冬枝のシャンプーを使っていることは知っていたが、さやかは東京から来たばかりだし、シャンプーぐらい別にいいかと好きにさせていた。

 ――若い娘なら、もうちょっと気にしろよ!

 冬枝は水を一杯飲むと、「あいつが勝手に使っただけだ」と弁明した。

「えーっ、あんなの若い女子が使います?」

「まさか兄貴、さやかさんと一緒にお風呂に…」

「それ以上言うと、しばくぞ。さやかがここを出て行ったのがいい証拠だろ」

 とはいえ、出て行った時のさやかの沈痛な様子は、冬枝も気になっていた。

 ――まるで、これから地獄にでも行くみたいな面してたな。

 麻雀の際の送り迎えに必要なので、さやかの新しい住所は聞いてある。一度行ってみるか、と冬枝は考えた。



 春野家は嵐と鈴子の2人住まいらしく、2階の空いている部屋をさやかに貸してくれることになった。

「借りるなんて思わなくていいわよ、家賃もいらないわ」

「いえ、そういう訳には……」

「気にすんなって。うちに来たからには、もう俺の嫁みたいなもんだ」

「は?」

 奥さんがいる前で言うことか、とさやかは目を吊り上げたが、鈴子はキャハハと笑った。

「いいわね、さやちゃんがお嫁さんになってくれたら。うちも明るくなるわ」

「す、鈴子さん」

「大丈夫よ、うちは自由な夫婦なの。不倫だなんて言わないから、好きにして」

 大丈夫と言われても、さやかは逆に不安になった。嵐も八方破れだが、鈴子もかなり変わっている。

 ――きっと、僕が子供だと思って、からかっているだけだ。

 古びた家の中は、壁の至るところにびっしりと写真が貼り付けてあった。どれもが、嵐と鈴子と、家族や友人と思しき人々のものだ。

 最近のものらしき写真の中で、嵐と鈴子と、鈴子によく似た女性の3人が映った写真があった。

「この人は…?」

「ああ、鳴子。私の妹よ。そっくりでしょ」

 鳴子と呼ばれた女性は、快活な姉よりも儚げで、お人形のような雰囲気の美人だ。

「可愛い娘だからね、男にモテたわよ。あの娘もすぐポーッとしちゃうから、コロッと落ちちゃうの」

「はあ…」

「ただね、鳴子は男運がないっていうか、男の趣味が悪いっていうかで、ろくでもない男にばっかり引っかかるのよね。そのせいで、中学生の頃からしょっちゅう警察のお世話になってたわ」

「でも、さやかより胸は大きかったな」

 嵐が横から口を挟んだ。さやかは嵐を睨み付け、鈴子も「バカ」と言って嵐をバシッと叩いてくれた。

 鳴子の話題はそこで終わり、やがて夕食の時間になった。

 テーブルの上には、季節外れのカセットコンロと土鍋が鎮座している。

「きりたんぽって、大晦日ぐらいにしか食べないわね」

「そういうものですか」

「今日はさやかが家に来た日だから、正月みたいなもんだ!メリークリスマス!」

 言っていることが支離滅裂だが、嵐と鈴子はとにかく笑顔でさやかを歓迎してくれた。

「きりたんぽ、何だか懐かしいです。美味しい」

「あら、さやちゃんも食べたことあるの?」

「はい。僕、5歳までこちらにいたんです」

「ホントかよ。じゃあ俺たち、もう家族みたいなもんだな!」

「何ですか、それ」

 嵐の言葉に苦笑しつつ、さやかも徐々に、この家の雰囲気に慣れてきた。

 古いが温かい家、マイペースだが明るく親切な夫妻。きりたんぽ鍋も美味しかった。

 ――負けたのは悔しいけど、ここで暮らすのも悪くないかな。

 どうせ、いつかは冬枝の家を出て行くつもりだった。異郷の地で一人暮らしをするよりも、気心の知れた夫妻と同居するほうが安全かもしれない。

 肩の力が抜けると、ここに来るまで不安がっていたことが、急にバカらしくなってきた。

 ――冬枝さんに、余計な心配かけちゃったかな。

 嵐に負けた口惜しさや申し訳なさも手伝って、冬枝の前では泣き言を言ってしまった。冬枝が優しいから、つい甘えが出てしまったのかもしれない。

 ――あれでも一応、ヤクザなんだけど。

 冬枝がヤクザだということを忘れたわけではないが、冬枝の元にいて嫌だと思ったことは一度もなかった。

 冬枝さんは今頃、どうしてるのかな――とさやかが窓の外を眺めていると、後ろから鈴子が近寄ってきた。

「さやちゃん、髪きれいね」

「そうですか?」

「ねえ、梳かしてもいい?」

 鈴子は、木目が美しい櫛を手にしていた。

 さやかの髪を梳きながら、鈴子も窓の向こうの夜空を見上げた。

「さやちゃんは彗星、見たことある?」

「ハレー彗星ですか?76年に一度見られるっていう」

「そうよ。さやちゃんは物知りね」

 先日、鈴子と嵐は、ハレー彗星を見に山に登ったのだという。

「嵐の後輩の入江くんがね、頑張って彗星の写真撮ったのよ。後で、さやちゃんにも見せてあげる」

「すごいですね。北半球ではほとんど見えないって言われてたのに」

「ふふっ、そうね、肉眼ではちっとも見えなかったわ。でも、星がとても綺麗だった」

「いいですね」

「でもね…」

 鈴子はぽつりと「素敵な景色を見ていても、何だか帰りたくなっちゃうの」と呟いた。

「……」

 鈴子の明るい声音に、どこか寂しさが滲んでいる気がして、さやかは何も言えない。

「さやちゃんにも見せてあげたかったわ」

「星ですか?」

「ううん。嵐がテントで踊ってくれた、全裸のセクシーダンス」

「…………」

 さっきの寂しげな様子は気のせいだったかな、とさやかは思い直した。嵐が嵐なら、鈴子も鈴子だ。

「さやちゃーん。お風呂空いたわよ」

 夜、さやかが居間でテレビを見ていると、鈴子が風呂から上がってきた。

 鈴子は素肌にタオルだけ巻いた姿だったため、さやかはぎょっとした。

「さやちゃんも入ったら?もうこんな時間だし」

「わ、わかりました。いただきます」

「タオルとか、好きに使ってね。ここはもう、さやちゃんの家なんだから」

 鈴子の笑みには、屈託がない。こんな笑い方をする大人がいるんだな、と思わずさやかは見惚れてしまう。

 同時に、つい鈴子のふっくらとしたバストに目がいって、さやかは赤面した。

 ――確かに、大きい…。

 さやかの胸元には、あるかなきかの膨らみしかない。美しい曲線を描く鈴子のシルエットとは、天と地の差がある。

 ――鈴子さんと比べたら、僕はまるで麻雀牌だな…。

 いいんだ、僕は麻雀が好きなんだから!とさやかは半ば開き直って風呂に入った。

 さやかが脱衣所で着替えていると、いきなり嵐が入ってきた。

「!?な…」

「あっ、すまん。いると思わなかった」

 ここまでなら単なる事故で済むが、嵐はちらっとこちらを見て、余計な一言をつけた。

「お前、ブラとパンティーバラバラなのな。色気のないことで」

「…っ!出てけ!!!」

 さやかがバスタオルを投げつけると、嵐は「へーへー」と気のない返事でドアを閉めた。

 ――何なんだ、まったく。

 それだけでも頭から湯気が出そうになったのに、極めつけは深夜だった。

 さやかは、部屋の布団で目を覚ました。

 ウォークマンを聴きながら横になっているうちに、いつの間にか寝入っていたらしい。イヤフォンを外し、ウォークマンを枕元に寄せようとして身体をひねったさやかは、隣に誰かが寝ていることに気がついた。

「えっ…!?」

「うーん、ちんち~ほ~」

 さやかを負かした役をぶつぶつ呟いているのは、誰であろう嵐だ。さやかは仰天した。

「なっ、なっ、なんでっ」

 当然だが、夫婦の部屋はさやかとは別である。我が物顔で布団の半分以上を占拠している嵐に、さやかは言葉が出てこなかった。

 嵐は寝惚け眼のまま、悪びれもしない。

「いーじゃん、一緒に寝るぐらい」

「よ、よくない!自分の部屋があるでしょ」

「ここは、俺の家。屋根の下はぜーんぶ、俺の部屋」

「そんなバカなっ」

 うろたえるさやかを、嵐がいきなりガバッと抱き締めた。

「!???」

「うーん、身が薄い。もうちょい肉付きが良ければな~」

 嵐の手がさやかの身体をあちこちまさぐった挙句、胸を思いっきり揉んだ。

「あれ、寝る時はブラジャーつけないタイプ?」

「いやああああああああああああああああああああああっ!!!!」

 さやかは嵐の体を思いっきり突き飛ばすと、荷物をまとめて春野家を飛び出した。



 深夜、冬枝はいつも通り、自宅マンションで晩酌をしていた。今夜のつまみは、季節外れのハタハタ寿司だ。

 ここ最近、冬枝のつまみを横取りしていたさやかはもういない。自由気ままなリラックスタイムを取り戻したわけだが、冬枝は気が晴れなかった。

 ――さやかの奴、ちゃんとやってっかな。

 さやかは麻雀に関しては誰よりも頼もしいが、それ以外は無邪気・無防備・無用心の三拍子である。今朝など、パジャマ姿で起きてきたのはいつも通りとして、何故か下はパンツ一丁だった。

 ――ここはお前の実家じゃねえんだぞ!

 ぎょっとする冬枝をよそに、寝ぼけたさやかはその格好のままで「おはようございましゅ」と抜かした。

 ボーダー模様のパンティーを見せびらかしながら、さやかは平然と洗面所に向かった。そして、また歯磨き粉と冬枝のシェービングクリームを間違えて「うぇ~」と呻いていた。

 さやかの頼りない様を思い出すにつけ、冬枝は不安になってしまう。

 ――あいつ、ちゃんと鍵かけて寝ただろうな。

 田舎とはいえ、女の一人暮らしで鍵をかけないのはまずい。雀荘帰りにでも、良からぬ輩に後を付けられたら、たまったものではない。

 飯は食ったのか、風呂は入ったのか、一人で寝られるのか――など、いつの間にか父親のように気を揉んでいる自分に気付いて、冬枝は苦笑した。

 ――俺が、そこまで心配する義理もねえか。

 それは、さやかの親の役目だ。さやかをヤクザの代打ちにして金を稼がせている冬枝が、さやかの親を気取る資格はない。

 とはいえ、一人で食べるハタハタ寿司は、何だか味気なかった。色気のない女だと思ってはいても、若い娘と一緒に晩酌ができるのは、贅沢だったのかもしれない。

 ほれ、と冬枝が箸を向ければ、無邪気に口を開けて待っていたさやかが目に浮かぶ。

 ――別に、寂しいとかいう訳じゃねえけどよ。

 冬枝がウィスキーを軽く呷ったところで、部屋のチャイムが鳴った。

「誰だ、こんな時間に…」

 弟分たちは家に帰したし、飲み会帰りの知り合いでも遊びに来たのだろうか。

 ドアを開けると、そこに立っていたのはさやかだった。

「さやか!?どうした、夜遅くに」

「………」

 さやかは蒼白な顔をして、髪も乱れている。まるで、化け物から大急ぎで逃げてきたかのようだ。

 よく見ると、服もパジャマの上に、冬枝が贈った水色のコートを羽織っただけだ。両手には、トランクとボストンバッグを提げている。

 何があったんだ、と冬枝が問う前に、さやかがその場で土下座した。

「お願いします!ここに住ませてくださいっ!!!」

「な、なんだ、急に」

 冬枝は「お前、引っ越したんじゃなかったのか」と尋ねた。

「あんなところにいたら、僕の身がもちません」

「お前、どんなところに引っ越したんだ?」

 さやかは地面に額をこすり付けたまま、「お願いします」と繰り返した。

「家賃は払います。何でもするので、ここに置いてください」

「………」

 一体、さやかに何があったのか。聞きたいことは頭に渋滞していたが、ふと、冬枝の脳裏に高根の発言がよぎった。

「さやかさんなら、ずっとここにいたっていいじゃないですか」

 ――確かにな。

 弟分すら住み込みにはさせない冬枝が、さやかのことはシャンプーを借りようが酒のつまみをぱくつかれようが、気にならなかった。さやかとは、相性が悪くないということかもしれない。

 冬枝はしゃがむと、さやかの頭をポンと優しく叩いた。

「家賃なんかいらねえよ。それより、中に入れ。風邪引くぞ」

「………はい」

 ありがとうございます、と言って、さやかはくしゃっと顔を歪めた。

 ――普通、若い娘がヤクザと同居したがるか?

 弟分たちがまた何か深読みしそうだが、勿論、冬枝に下心はない。さやかがこうして帰ってきたことが、何よりの証拠だ。

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