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35話 若頭のトップ・シークレット

第35話 若頭のトップ・シークレット


 夏の日差しが、朝のダイニングをまばゆく照らしている。

 榊原がテーブルで新聞を広げると、ちょうど庭から淑恵が戻ってきたところだった。

「あなた。おはようございます」

「おはよう。淑恵は、今朝も水やりか?」

「ええ。カンナの花がちょうど咲き始めたところよ」

 そう言って微笑む淑恵は、まさに花よりも芳しく咲き誇っている。榊原の胸にまで、庭の清涼な空気が吹き抜けるかのようだった。

「淑恵はまめだな」

 淑恵はいつも朝は榊原より先に起きて、夜は榊原が帰って来るまで待っている。仕事上、榊原の帰りは深夜になることが多いため、先に寝てもいいと言っているのだが、そのたびに淑恵はこう言うのだ。

「忍さんのお顔を見ないと、安心して眠れないの。だから、待ってます」

 淑恵が丹精込めて育てた花が咲き乱れる庭は、まさに淑恵の心の美しさをそのまま映し出したようなものだ――と、榊原は思う。

 それだけに、響子と一晩中打った朝、待ちくたびれてリビングで眠ってしまった淑恵の顔を見ると、榊原は居たたまれなくなるのだった。

 ――いっそ、淑恵に何もかも打ち明けちまおうか。

 そう考えたことは、一度や二度ではない。だが、榊原は自分自身に首を横に振ってきた。

 ――淑恵を傷付けたくねえ。

 響子との関係にやましいことは一切ない。だが、それで淑恵が分かってくれると期待するほど、榊原は子供じゃなかった。

 榊原が、自分に隠して知らない女と会っていた。それだけで、淑恵を傷付けるには十分なのだと、この紳士的な若頭は知っていた。

 ――だが、響子のことも放っておけねえ。

 若頭といる時だけは安心するんです、と言う響子の笑みは、いつでも寂しげに見える。表に見せているよりもずっと苦労してきただろう響子を、少しでも幸せにしてやりたい。

 ――麻雀を打ってる時は、響子も楽しそうだからな。

 今日は、冬枝とさやかを招いて、4人で昼から打つ約束をしてある。キャンドルホテルのレストランバーがリニューアルオープンし、食事を取りながら麻雀もできるというので、早速予約を入れたのだ。

 ――昼間なら、淑恵に怪しまれずに済む。

 きっと今日の麻雀も、男たちそっちのけで響子とさやかが盛り上がるのだろう。響子は榊原に遠慮してくれるが、さやかときたら相手が誰でも手加減なしだ。ちったぁ気を遣わねえか、と叱りつける冬枝がまるでさやかの父親みたいで、見ている榊原も思わず笑ってしまう。

 ――冬枝も、丸くなったもんだ。

 若い頃の冬枝は、目つきも態度も悪くて、よく源に小突かれていたものだった。榊原とは縁の遠い存在だった冬枝が、まさか、今になって休日に卓を囲んで打つ仲になるなんて、あの頃は想像もしていなかった。

 ――いい女と巡り会うと、男も変わるってことかもしれねえな。

 榊原がしみじみとコーヒーを口にしたところで、淑恵が朝食のマフィンをテーブルに並べながら言った。

「今日は晴れて良かったわ。大きな窓のあるプールだから、きっと日差しが気持ちいいでしょうね」

「ん?」

「午後はコンサートもあるし、あまり泳ぎすぎると眠ってしまうかもしれないわね。忍さん、バイオリンコンサートはいつも寝てしまうもの」

 くすくす、と思い出し笑いをしてから、淑恵は幸せそうに微笑んだ。

「今日のコンサート、とっても人気のあるバイオリニストの方なのに、忍さんが頑張ってチケットを手に入れてくれて…本当に嬉しいわ。今日は、2人でゆっくり過ごしましょうね」

 榊原の顔から、サーッと血の気が引いた。

 手の中で、コーヒーカップが微かにカチャリと音を立てる。

 ――忘れてた…!



 同じ頃、朝日が燦々と降り注ぐバー『せせらぎ』の屋根の下。

 こじんまりとした庭に置かれた小さな鉢植えを、小柄な少女と長身の男がしゃがんで見下ろしている。

 2人の影の中で、白い花が可憐に花びらを揺らしていた。

「綺麗。バラの苗ですか」

「ああ。知り合いにもらったんだ」

 長身の男――源は鉢植えをそっと両手で持ち上げると、「いつか、この庭いっぱいバラの花にしてやるさ」と言った。

 小柄な少女――さやかは「いいですね」と口元をほころばせた。

「源さん、お花が好きなんですね」

「花はいい。きっと、花の中に立ったさやかは、天女みたいに見えるだろうな」

「ふふ…。ちょっと大げさです」

 今朝、珍しく早起きをしたさやかは、源のもとを訪れていた。

「榊原さんと響子さんのこと…。源さんは、もうご存知なんですよね」

 さやかと源が入れ替わっていた際、相手がさやかではなく源だとは知らない榊原が口を滑らせてしまった、と冬枝から聞いていた。

「ああ」

 源のタバコの煙が、朝の日差しの中に細く消えていく。さやかは、思い切って相談してみることにした。

「このまま榊原さんとの関係を続けていても、響子さんが辛いだけだと思うんです。やっぱり、別れたほうがいいってもう一度、説得するべきでしょうか…」

 源は「いや」と言った。

「外野が何言ったって無駄だろ。逆に、焚き付けることになりかねねえ」

「そうですよね…」

「さやかが悩む必要はねえさ」

 慰めかと思ったが、さやかが顔を上げると、源はタバコ片手に不思議な確信めいた笑みを浮かべていた。

 ――源さん?

 楽しげですらある源の笑みは、しかし、見間違いだったのかと思うほどの一瞬で消えた。

「響子のために何かしてやりてえなら、一緒にいて、話を聞いてやるだけで十分だ」

「…そうですね」

 俯くさやかの肩を、源がそっと抱いた。

「さやかは、今日も麻雀か?」

「ええ…。実はその、響子さんと…」

 と、さやかが言いかけたところで、『せせらぎ』の軒先に見慣れた黒のプレリュードが停まった。

 ――あれ、榊原さんの車…?

 さやかの予想を裏付けるように、プレリュードから榊原その人が姿を現した。若い衆は連れておらず、単身こちらに向かってくる。

「嬢ちゃん。おはよう」

「おはようございます…。どうしたんですか、こんな朝早くに」

 そこでさやかはハッとして、一人で納得した。

「なるほど。今日は半荘じゃなくて、トビなしの一荘戦なんですね。いいでしょう、僕は何時間だろうと受けて立ちますよ。冬枝さんは店の中にいますから、呼んできます」

「いや、そうじゃなくてだな…。ちょっと、車で話せないか」

 珍しく、榊原は気忙しそうにそわそわしている。何かアクシデントでもあったのだろうか、とさやかは首を傾げた。

「………」

 そこで、榊原はようやく源の存在に気付いたらしく、「ああ、源。おはよう」と言った。

「おはよう。朝っぱらから忙しいな、てめえは」

「邪魔して悪いな。ちょっとさやかを借りるから、冬枝に伝えておいてくれないか」

「フン」

 不機嫌そうな源を残して、さやかと榊原はプレリュードに乗り込んだ。

「予定がかぶった?」

 榊原から事情を聞いたさやかは、絶句した。

 ――響子さんとの麻雀と、淑恵さんとのデートを同じ日に約束しちゃったなんて。

 榊原は、さやかを拝むようにして両手を合わせた。

「頼む。協力してくれねえか」

「協力って…えっ、まさか、響子さんと淑恵さんとの予定をこのまま通すつもりなんですか!?」

 つまり、二重デートだ。榊原は、響子にも淑恵にもバレないよう、2人との予定を何とか実行しようというつもりらしい。

 呆気に取られるさやかに、榊原は必死で言いつのった。

「響子のことも淑恵のことも傷付けたくねえんだ。こんなこと、嬢ちゃんにしか頼めねえ」

「…あの、冬枝さんには言わないんですか?」

「冬枝はな…」

 そこで榊原の視線がちらっと背後の『せせらぎ』に向いたので、さやかは納得した。

 ――冬枝さんに言うと、源さんに筒抜けってことか。

 今でも淑恵に想いを寄せている源に、ダブルブッキングのことが知られるのは、確かによろしくない。

 だが、実のところ、榊原の本心は別のところにあった。

 ――淑恵と冬枝を会わせたくねえ、とは嬢ちゃんには言えねえな…。

 冬枝のことを信用していないわけではない。冬枝に限らず、極道絡みの人間をなるべく淑恵に近付けたくないのだ。

 そんな榊原の夫心は知らないさやかだが、とにかく引き受けることにした。

「…分かりました。僕も、お二人に残念な想いはさせたくありません」

「嬢ちゃん…。ありがとう」

 さやか相手に頭を下げる榊原に、邪気は感じられない。今回のダブルブッキングは、本当に悪気のないミスなのだろう。

 淑恵との予定も、響子との麻雀も後回しにしないのは、榊原なりの誠意とも言える。さやかもまた、2人が心から楽しい時間を過ごすためなら、助力を惜しむつもりはない。

 ――何とかして、この二重デートを成功させなくっちゃ。



 さやかと榊原は、そのまま車でキャンドルホテルに直行した。

 チェックアウトする客や荷物を運ぶホテルマンなどが行き交うロビーを、榊原は早足に通り抜けた。

「今日は、10時から淑恵とプールで泳ぐ約束になってる」

「10時って…響子さんとの麻雀も10時でしたよね」

「ああ」

 榊原は硬い顔つきで、「ここがプールだ」と言って、さやかを案内した。

 さやかは近くの掲示板に貼られているホテル内の地図を確認し、「雀卓のあるレストランとはそう離れていませんね」と言った。

「榊原さんに急用が入ったことにして、響子さんには30分ほど待ってもらいましょう。その間、僕と冬枝さんが響子さんのお相手をします。三麻でもして」

「ああ…。それがいいな」

 勿論、いつまで経っても榊原が来ないのでは、響子に怪しまれる。榊原は30分ほど淑恵とプールで過ごしたら、響子の待つレストランバーに向かうことにした。

「プールでは、できるだけ顔や髪を濡らさないようにしてください。今日の天気では、雨に降られたと誤魔化すのも難しいでしょうから」

「ああ。わかった」

「問題はこの後ですね…」

 淑恵を1時間もプールで待たせるわけにはいかないが、麻雀中に榊原がしょっちゅう席を抜けているのも不自然だ。

 そこで、さやかの出番である。

「榊原さんがレストランに来たら、今度は僕が淑恵さんのところに行きます。偶然を装って世間話でもしながら、何とか時間を稼ぎます」

「ありがとう、嬢ちゃん。助かる」

 つまり、榊原とさやかが、淑恵と響子の間をそれぞれ行ったり来たりすることで、何とか乗り切ろうというのが今日の作戦だ。

 さやかはホテルの売店で水着とタオルを買い、あらかじめ服の下に着て行くことにした。

 ――淑恵さんと響子さんもだけど、冬枝さんのことは誤魔化せるかな…。

 冬枝になら事情を伝えても問題ないとは思うが、ダブルブッキングで呆然自失している榊原にその発想はなさそうだ。若頭のトップシークレットを、ヒラである冬枝には言いたくないのかもしれない。

 ガラス戸越しに望むプールは、何も知らずに静かな水面を煌めかせていた。



 ぶすっ、とした冬枝の、への字に曲がった口にタバコがピコピコと揺れる。

 さやかと榊原に置き去りにされた冬枝は、『せせらぎ』のカウンターで頬杖をついた。

「何なんですかね、榊原さんは。響子さんと揉めたのか?」

 朝からさやかを一人で源に会いに行かせるほど、冬枝は不用心ではない。さやかが源に相談したいことがある、と言うので、冬枝が朝からカローラを走らせてやったのだ。

 ――それがまさか、榊原さんに連れて行かれちまうなんて。

 榊原がさやかによからぬことをするとは思えないが、さやかを勝手に連れて行かれた冬枝としては、不満しきりだった。

 だいたい、源もらしくない。筋金入りの榊原嫌いなんだから、何だかんだと文句をつけて、さやかを榊原に渡さなければよかったのだ。

「って、源さん。聞いてますか?」

 冬枝のぼやきをよそに、源は庭で花に水やりをしている。

「………」

 凛とした後ろ姿に変わりはないが、今日の源はどこか上の空のような気がした。

「とにかく、俺もさやかを追っかけます。今日は、さやかと4人でキャンドルホテルで麻雀があるんで」

「キャンドルホテルか…」

 源が、ふと気付いたように呟いた。その手には、『バイオリンリサイタル1986』と印字されたチケットが握られていた。



 プールとレストランの下見を終えたさやかは、榊原に連れられてロビー近くのカフェに入った。

「そういえば、嬢ちゃんは淑恵と会ったことがあったかな」

「はい。バレーボール大会の時に、一度」

「ああ。あれか」

 本当は、それ以前にさやかは榊原邸を訪れているのだが、一応、榊原には秘密ということになっている。

 榊原はアイスコーヒーを口にした。

「あの時も、嬢ちゃんのお陰で助かったっけな。何だか、嬢ちゃんには格好悪いところばっかり見せちまってる気がする」

「ははは…。そんなことないですよ」

 バレーボール大会の時も、淑恵と響子が鉢合わせするというハプニングが起こった。榊原は「助かった」と安心しているが、淑恵は『さやかの友人』響子の正体に気付いてだろう。

「淑恵とは、しょっちゅう嬢ちゃんの話をしてる。きっと、淑恵のほうも嬢ちゃんのことを覚えてると思う」

 そう言って、おもむろにスーツの懐からタバコを出した榊原が、箱を開けて一人、ちょっと目を丸くした。

「どうしたんですか?」

「いや…これがな」

 HOPEの箱から出てきたのは、タバコではなく花模様の小袋だった。

 ピンク色のリボンが結ばれた可愛らしい小袋は、榊原の武骨な手のひらと好対照をなしている。榊原は、ほいとさやかに小袋を渡した。

「これ、なんて言うんだったかな」

「ポプリですね。ラベンダーの香りがします」

 さやかがくんくんと嗅ぐと、榊原が「嬢ちゃんも、意外と女らしいこと知ってるんだな」と言って笑った。

「瑞恵が…上の娘が、こないだ会った時に寄越したんだ。もうすぐおじいちゃんになるんだから、タバコは控えてくれって」

「えっ…榊原さん、お孫さんが生まれるんですか」

「まだ先の話さ。瑞恵の奴、結婚したからってもう子供だなんて、気が早いよな」

 呆れたように言いつつも、榊原は嬉しそうだ。瑞恵の作ったポプリを見つめる瞳は、優しい父親そのもののようにさやかには映った。

 ――娘さんのこと、本当に可愛がってるんだな。

 榊原は、大切そうにポプリをスーツの懐にしまった。

「淑恵も俺の禁煙には賛成だって言ってたから、淑恵が俺の背広に入れたんだな。困った奴だ」

「ラベンダーはリラックス効果がありますから、今日みたいな日にはちょうどいいと思いますよ」

 いい奥さんじゃないですか、という月並みなコメントをさやかは控えた。これから、そのいい奥さんと愛人の間を往復するのはさやか自身だ。

 さやかの複雑な内心など知らず、榊原はカフェのメニュー表に目をやった。

「嬢ちゃんは今日、朝飯は?」

「源さんのところで頂いてきました」

「ああ、源か…。嬢ちゃんは、源とは親しいのか?」

 と言いかけて、榊原は苦笑した。

「嬢ちゃんみたいな可愛い女の子なら、源が放っとくわけないな」

「そんな…。源さんから見たら、僕なんて子供ですよ」

 ――むしろ、源さんは僕よりも、淑恵さんとのほうが本気なんじゃないかな。

 響子のことを相談した時の、源の謎めいた笑みがさやかの中で引っかかっていた。源は美形なだけに、ただの微笑みですら意味深に見えてしまうのかもしれないが。

 さやかは、カフェの柱時計に目をやった。

「そろそろ、いい時間ですね。僕、ちょっと着替えてきます」

「ああ…。すまねえな、嬢ちゃん」

 さやかが服の下に水着を着にトイレへ行こうと立ち上がったところで、「おはようございます」という、至極不愛想な声が響いた。

「冬枝さん!」

「おう、冬枝。おはよう」

「………」

 冬枝は、その場に響子がいないのを見て眉根を寄せた。

 ――なんで、榊原さんとさやかが2人っきりで会う必要があるんだ?

 今日の麻雀のことで何か相談があるなら、代打ちのさやかではなく、まずは組員である自分に相談すべきじゃないのか。

 というのはもちろん建前で、冬枝はただただ、横から油揚げをかっさらうトンビよろしく、榊原がさやかを連れ出したのが気に入らないのだった。

「響子さんは?」

 冬枝が当然の疑問を口にすると、榊原が「時間になったら来るだろ」と、これまた当然の返事をした。約束の10時まで、まだ30分以上ある。

「冬枝は、先に店行っててくれねえか。俺はちょっと用事ができたんで、遅れるって響子に伝えといてくれ」

「はあ…。分かりました」

 ――用事、ねえ。

 若頭である榊原は、白虎組や傘下の組を統括・管理する多忙な身だ。オフの日でも急用が入ってもおかしくはないが、冬枝は違和感を抱いた。

「冬枝さん。僕、ちょっとお手洗い行ってきますね」

「ん?ああ」

 さやかと榊原は、まるで冬枝の目を気にするかの如く、2人揃ってそそくさと退散した。

 ――何か、きな臭えな。

 そう思ってしまうのは、源の榊原嫌いが伝染ったのか。尤も、源の場合は多分に横恋慕だが。

 ついでに、トイレから戻ってきたさやかの髪がちょっと乱れていたのにも、冬枝は首を傾げた。



 とはいえ、レストランバーにある麻雀スペースを見たさやかのリアクションは、疑心暗鬼の冬枝から見ても、素直そのものだった。

「うわあ。お洒落なレストランに、雀卓が6つも並んでる」

 さやかは一直線に雀卓へと駆け寄ると、雀卓の新しさ、椅子の高さ、窓から見える景色などを確認し、うっとりと頬に手を当てた。

「完璧です。こんなところで麻雀が打てるなんて、僕、代打ちになって良かった…」

「お前の感動するツボが分からねえよ」

 冬枝が呆れ気味に突っ込むと、さやかが「感動するポイントですか?まずですね、この自動卓。最新式の『雀夢』が採用されています。それと、椅子ですが…」と熱心に解説し始めたので、冬枝は頭を抱えた。

「ダメだこりゃ」

「ふふ。夏目さんが楽しそうでよかったです。最近、大変なことが多かったですから」

 微笑ましそうにさやかを見守る響子は、まるでさやかの姉のようだ。さやかとさほど年は離れていないはずだが、ワンレングスの長い黒髪がさらさらと揺れる響子は、とても大人びている。

 ――あの麻雀バカとは大違いだな。

 今回の主催者である榊原が急用で席を外したと聞いても、響子は嫌な顔ひとつしなかった。

「仕方がありませんね、若頭はお忙しいですから。今日は、お二人とお会いできただけでも光栄です」

 そんな響子を励ますように、さやかも「僕も、今日はすっごく楽しみにしてたんです!」と言った。

「良かったですね、冬枝さん。榊原さんがいないから、両手に花ですよ?」

「お前な。響子さんはともかく、代打ちが花にカウントされると思ってんのか」

「まあ。そんなことをおっしゃったら、夏目さんにボコボコにされてしまいますよ、冬枝さん」

 そう言って微笑む響子もまた、腕のいい雀士である。正直、冬枝は若い女2人に囲まれて嬉しいというよりも、右と左から牌で叩きのめされる未来しか見えなかった。

 ――ま、今日の主役は榊原さんだし、俺はせいぜい『両手に花』を満喫するか。

 響子はまだしも、さやか相手に本気でかかったところで勝てやしないのだ。冬枝は、早くも諦めモードになった。

 榊原がいないこともあって、女2人との三麻は雑談ベースで和やかに進んだ。

「夏目さん、この間、美佐緒ママと勝負したんですって?」

「ええ。と言っても、途中で酔っ払っちゃったんで、よく覚えてないんですけど」

「フフ。相手を酔わせて潰しちゃうのもママの手の一つですから、次は気をつけたほうがいいですよ」

「やっぱりあれ、作戦だったんですか!やられた…!」

 未成年のさやかは、スナックのように酒が飲める場で打った経験自体が少ない。酔い潰してこようとする相手に当たらなかったのは、運が良かっただけだろう。美佐緒も言っていたが、酒ぐらい飲めないと代打ちは務まらないかもしれない。

「冬枝さんの晩酌、今度から僕もお相伴にあずかろうかなぁ」

「なーに言ってんだ。お前はつまみばっかお相伴してるじゃねえか」

「でも、冬枝さんと一緒に飲むなら夏目さんも安心ですね。どんなに泥酔しても、心配ありませんもの」

 くすくすと笑う響子は、恐らく冬枝とさやかは恋人同士だから、という意味で『安心』と言ったのだろう。

 ――まあ、安心っちゃ安心かもしれねえけどよ。

 実際、先日の美佐緒との勝負の後、酔っ払ったさやかをおんぶして帰った冬枝は、イビキ交じりにヨダレを垂らして寝ているさやかを見て、邪心よりも親心が芽生えたぐらいだ。

 むしろ、心配なのはさやかではなく、冬枝が酔っている時だ。冬枝は酒が強いだけに、自分が酔っているという自覚がほとんどない場合が多い。

 ――つまり、さやかにあんなことやこんなことをしちまおうとしても、ブレーキが利かないかもしれねえ。

 流石に、家での晩酌でそこまで前後を失うことはないが、用心するに越したことはない。冬枝は、ぽつりと「酒、減らすかな」と呟いた。

 すると、さやかがぱあっと卓から顔を上げた。

「冬枝さん、禁酒するんですか」

「お前、なんで嬉しそうなんだよ」

「だって冬枝さん、お酒飲み過ぎなんですもん。昨日買ったと思ったウィスキーボトルが、もう半分になってたりするし」

「あら。それは確かに飲み過ぎですね」

 響子が真顔で頷くと、冬枝は手をひらひらと振った。

「さやかは大げさなんだよ。たいていロックにしたり水割りにしたり、色んな飲み方してるから大丈夫だって」

「その『大丈夫』が信じられないんです。冬枝さんの水割りは、ほとんどストレートです」

「お前、飲んだこともねえのになんで分かるんだよ」

 などと言い合っているうちに、榊原がばたばたとやって来た。

「響子。待たせて悪かったな」

「若頭…。用事はもうお済みになったんですか」

「ああ、一応な」

 榊原が卓に着くと、今度はさやかが席から立ち上がった。

「僕、ちょっとお手洗いに行ってきますね。あ、長くなりそうなので、お三方で打っててください」

「お前、大丈夫か?」

 冬枝は思わず、「源さんの作ったピザトーストが美味かったからって、おかわりして3枚も食うからだぞ」と言った。

「…!ほっといてください!」

 さやかは赤面して、憤然と背中を向けた。

 ぷんすかと大股に去っていくさやかは、とてもトイレにこもりそうな体調には見えない。冬枝はちょっと首を傾げたが、女の用事かもしれないと思い直し、榊原たちとの麻雀に集中した。



 さやかが更衣室で服を脱ぎ、プールサイドへ出ると、白いデッキチェアに腰かける淑恵の後ろ姿が見えた。

 ――美人って、後ろ姿も綺麗なんだな。

 淑恵は泳ぐために長い髪をまとめていて、あらわになった首筋がとても艶っぽい。美しい曲線を描く白い背中は、さやかに東京の母を思い出させた。

「淑恵さん。こんにちは」

 さやかが声をかけると、淑恵がゆっくりと振り返った。

「あら、夏目さん。こんにちは」

 柔らかく微笑んで「夏目さん」と呼ばれると、さやかの視界で淑恵の姿と響子の面影が重なった。

 ――こうして見ると、2人って似てるのかも…。

 まさか、淑恵に似ているから、榊原は響子を見初めたのだろうか。大学時代の後輩だった霜田なら、榊原の好みも熟知しているだろう。

 暗い憶測を押し隠し、さやかは「ここのプール、初めて来たんですけど」と世間話を始めた。

「すっごく広いですね。リニューアルしたって聞いたから来たんだけど、来て正解だったな」

「ええ。本当は宿泊するお客さんしか入れないのだけれど、主人がホテルのオーナーに特別にお願いしてくれたの」

 無論、そこのところもさやかは榊原と打ち合わせ済みだ。さやかは、したり顔で頷いた。

「流石、榊原さんですね。実は、僕も特権で来ちゃいました」

「あら。もしかして、冬枝さんと?」

「はい」

 このホテルには冬枝も来ているから、嘘はついていない、とさやかは自分に言い聞かせた。

「冬枝さんは泳ぐのに興味ないみたいで、レストランで新聞読んでます」

「そうなの。冬枝さん、せめてプールサイドまで一緒に来てあげたらいいのに」

 一人ぼっちのさやかを気遣うように言ってから、淑恵は「ああ、だけど…」と言った。

「もしかしたら冬枝さん、刺青を気にしているのかもしれないわ」

「刺青…ですか。そういえば、背中に入れてたような…」

「他の方の目もあるけれど、まだ若い夏目さんにはあまり見せたくないのかもしれないわ。冬枝さんは夏目さんのことをすごく大事にしてるって、主人も言っていたもの」

 確かに、前に冬枝の刺青をちらっと見た時にも、冬枝は「若い娘が見るもんじゃない」と言ってさっさと隠してしまったし、海でも上にシャツを着ていた。

 さやかは冬枝の優しさに胸が温かくなるのと同時に、どこか寂しくもなった。

 ――僕が冬枝さんの刺青を見られる日って、来るんだろうか…。

 いや、男の人の背中が見たいなんて、そんなスケベな意味じゃなくて、と誰にともなく心の中で言い訳をするさやかを、淑恵は不思議そうに見上げた。

「夏目さんは、泳ぎはお得意なの?」

「あ、はい、一応。高校のプール大会で2位になったことがあります」

「まあ、それは凄いわね」

 さやかは、プールの壁にかかった時計を横目で見上げた。榊原たちの元に戻るには、まだ時間が早すぎる。

「淑恵さん。もし良かったら、僕と競争しませんか」

「あら、夏目さんと競争?種目は何かしら」

「淑恵さんのお得意なものでどうぞ。僕はクロールにします」

 すると、淑恵がにっこりと微笑んだ。

「夏目さんに勝てるか分からないけれど、私も水泳は得意よ。背泳ぎでいいかしら」

「ぜひ。よろしくお願いします」

 淑恵が、すっとデッキチェアから立ち上がった。白いワンピース型の水着が描くボディラインが、大きな窓から差し込む陽光にキラリと浮かび上がる。

 ――淑恵さん、めちゃくちゃスタイルが良いんだ…。

 ツンと上を向いたバストなど、とてもじゃないが結婚した娘がいる女性のものとは思えない。胸の谷間といい、張りのあるお尻といい、鈴子と匹敵する魅力的な肉体に、さやかは視線を吸い寄せられた。

「そんなに見られると、恥ずかしいわ…。やっぱり、若い方から見ると、変かしら」

 淑恵がはにかむように頬を染めると、濡れた素肌のせいでますます色気が漂う。さやかは妙にどぎまぎして、「と、とんでもないです!」と首を横に振った。

 ――むしろ、淑恵さんと並ぶと僕のほうが……。

 さやかの水着姿がのっぺりしているのは、売店で買った野暮ったい水着のせいではない。バスト補正ブラのご利益も、本物のナイスバディの前では無力だった。

 ――せめて、泳ぎだけでも勝つ!

 さやかと淑恵は、同時に青く煌めくプールへと身を投じた。

 勝負の結果は、僅差でさやかの勝利だった。

「淑恵さん、速いですね!それに、フォームがすごく綺麗」

「そんな、夏目さんに比べたらたいしたことないわ。ふふっ、水泳で勝負なんて、娘たちともしたことがないから、なんだかとっても新鮮だったわ」

「僕も、楽しかったです。ありがとうございます、淑恵さん」

 心からの笑みを交わし合ってから、さやかは失敗に気付いた。

 ――しまった!髪が…!

 榊原には髪と顔を濡らすなと忠告したのに、自分はすっかり忘れて全力で泳いでしまった。淑恵を騙している、という後ろめたさで頭がいっぱいだったせいかもしれない。

「髪、濡れちゃった…」

 さやかが思わずぽつりと呟くと、淑恵が「あら」と小首を傾けた。

「そ、そろそろ冬枝さんのところに戻らなきゃいけないんですけど、こんなびしょびしょの髪で行くのはちょっと…」

 さやかの言い訳に、淑恵はふんわりと包み込むような笑みを浮かべてくれた。

「分かったわ。一緒に更衣室に行きましょう」

「え…」

 更衣室に行くと、淑恵はボディタオルでさやかの全身を拭き、次に別のタオルでさやかの髪を拭いてくれた。

「ここは、ドライヤーも置いてあるから大丈夫よ。ちゃんと乾かして、綺麗な髪にしてあげますからね」

「淑恵さん…。ありがとうございます」

 タオル越しに感じる淑恵の指は、とても気持ちがいい。やはり、東京にいる母に髪を拭かれているみたいで、さやかはちょっと泣きそうになった。

 ――こんなに若くて美人なのに、やっぱり淑恵さんって『お母さん』なんだな。

 淑恵がさやかの傍に来る度に、ミュゲの優しい香りがする。さやかは、思わず今朝の話をした。

「榊原さんが、瑞恵さんの作ったポプリを見せてくれたんです。榊原さん、けっこう自慢げでしたよ」

「まあ…。あの人ったら」

「榊原さんのタバコの箱にポプリを入れたのは、淑恵さんですか?」

「ええ、そうよ」

 淑恵は、熱くならない距離でさやかの髪にドライヤーの風をあてた。

「私がいくらお願いしても禁煙してくれなかったけれど、娘の言うことなら素直に聞いてくれるみたいね。本当に、子煩悩な人」

「はは…。僕の父も僕には甘かったので、そういうものかもしれませんね」

「夏目さんは素敵なお父様をお持ちなのね」

 そこでふと、淑恵が「私の父は…」と暗い声を出した。

 ――淑恵さんのお父さんって、国会議員の灘議員……。

 政治にそこまで感心のないさやかでも、名前は知っている大物議員だ。また、白虎組の後援者でもある。

 尤も、先日、灘議員のゴルフ接待に参加した冬枝に言わせれば「時代遅れのくたばりぞこない」らしいが。

 ――流石に、くたばり損ないは言い過ぎだと思うけど。

 とはいえ、それを聞いてさやかの中で解が見えた。

 ――霜田さんや響子さんが淑恵さんたちを別れさせようとしてるのは、灘議員のせいだ。

 ゴルフ場で散々アゴで使われたという冬枝の悪態を聞いていれば、灘議員が榊原に対してどういう態度を取っているのか、さやかでも察しがつく。榊原を敬愛している霜田や響子が、それを許せるはずがない。

 ――淑恵さんと離婚すれば、榊原さんは灘議員から解放されるってことか…。

 だが、あまりにも強引だ。灘議員云々はともかく、当事者である榊原と淑恵の意志はどうなるのか。

 ――灘議員から解放されても、淑恵さんがいないと榊原さんは幸せにはなれないんじゃないかな。

 今朝の、幸せそうに瑞恵や淑恵の話をしていた榊原の顔を思い出す。不倫しているとはいえ、さやかを使ってまで隠したいのは淑恵を傷つけたくないからだ。

 そんなことを考えているうちに、「はい、できたわ」と淑恵が明るい声を出した。

 鏡を見たさやかは、ふわりと軽やかにまとまった自分の髪を見て、思わず顔が綻んだ。

「わあ…。美容院に行ってきたみたい」

「ふふ。満足してもらえてよかったわ」

「ありがとうございます、淑恵さん」

 さやかが振り返って礼を言うと、淑恵がそっとさやかの髪を撫でた。

「夏目さんの髪を乾かしていたら、娘たちにも小さい頃、同じようにしていたのを思い出して……ちょっと、涙が出てしまったわ」

「淑恵さん…」

 さやかに触れる淑恵の指先は、まさに母親そのものだった。このままずっと甘えていたくなる衝動を押し込めて、さやかは更衣室を後にした。



 その後も、さやかと榊原のプール・レストラン間の往復は何度か続けられた。

 ――流石に、ちょっと苦しくなってきたかも。

 麻雀好きのさやかとしては、響子たちとの対局を中座しなければならないのが純粋につらい、というのもあるが――さやかと榊原を見る冬枝と響子の視線が、どんどん痛くなってきた。

 ――『急用』って言い張れる榊原さんはともかく、僕が何度も席を立つのはやっぱり変だよなぁ。

 よっぽどお腹の具合が悪いと思われているのかも、とさやかは居心地悪い思いでいたが、ふと、さやかは自分を見る響子の視線に微妙な含みを感じた。

 ――なんか、僕の髪とか服をちらちら見られているような……。

 そこで、さやかはあることにハッと気づいた。

 ――しまった!

 さやかは慌ててサイドテーブルのアイスティーをグビグビと飲み干し、ガタッと椅子から立ち上がった。

「ここ、ドリンクの種類も豊富なんですよね。僕、今度はクリームソーダにしようかな」

 さやかがちらっと目配せすると、榊原もメニュー表をおもむろに手にした。

「俺も、アイスコーヒーのおかわりでももらおうかな。氷が溶けちまった」

 さやかと榊原は連れ立って、レストランのカウンター前へと移動した。

 ランチタイムが近いせいか、厨房からはカレーの美味しそうな匂いが漂っている。衝立の影で、さやかは小声で告げた。

「榊原さん。大変です」

「どうした、嬢ちゃん」

「その……僕たち、たぶん、疑われてます」

 さやかの発言に、榊原はちょっと眉をひそめた。

「淑恵のことがバレたのか?」

「いえ…それはないと思うんですが、その…僕たち、だんだんすれ違うタイミングがズレてきたじゃないですか」

 さやかも榊原も、着替えの時間や会話の流れでどうしてもスムーズに退席できない場合がある。そのため、さやかと榊原が2人ともいない、という空白の時間が、少しずつだが生じ始めていた。

「僕と榊原さんがしょっちゅう席を空けて、その度に着衣が乱れて、まるでシャワーを浴びてきたみたいな見た目で戻ってくるというのは、かなり怪しいのではないかと…」

 さやかのオブラートに包んだ説明を聞いて、一拍置いて榊原が手で口を覆った。

「…なるほど。そいつは想定外だった」

「はい。僕も、もう少し慎重に動くべきでした」

 早く冬枝たちの元に戻らなければと焦るあまり、さやかの髪や肌には湿り気が残ってしまった。榊原もまた、せっかくプールに来たのに全く泳がないというのは不自然なため、多少は水に濡れざるを得なかったようだ。

 ――響子さんはまだしも、冬枝さんにそんな風に誤解されてたら、どうしよう…。

 さやかの思案顔を見て、榊原がポンとさやかの頭を撫でた。

「響子と冬枝には、俺からもさりげなくフォローしておく。嬢ちゃんは、また淑恵のほうに行ってくれないか」

「はい」

 今回のダブルブッキングは、下手をすればさやかと冬枝の関係にまでヒビが入りかねない。用心しなきゃ、とさやかは気を引き締めた。

 ランチタイムが近付き、ロビーには商談で訪れたと思しきビジネスマンや、お昼休みのOLの姿も見られるようになった。足早にプールへ向かうさやかの姿もさほど目立たない、と思ったところで、さやかは両腕から引き上げられた。

「えっ!?」

「捕まえたぜ、麻雀小町」

「朝からちょこまかと、忙しいことですね」

 さやかの右と左で悪人面をしているのは、朽木と霜田だった。

「どうして、霜田さんと朽木さんがここに…」

 ロビーの大きな柱の陰に引きずり込まれ、さやかは呆然と2人を見上げた。

 霜田が、眼鏡の縁を高慢な仕草で押し上げた。

「若頭のためにコンサートチケットを入手するのも、補佐たる私の務め」

 すると、朽木も隣で口角を上げた。

「レストランのリニューアルオープンの日を調整させるのは、流石に骨が折れたぜ」

「…!もしかして、今回のダブルブッキング…」

 ――全部、この2人の策略だったんだ。

 若頭補佐である霜田なら、榊原のスケジュールもバッチリ把握しているだろう。響子に榊原と会うよう焚き付けるのも、お手の物だ。

「榊原さんなら、淑恵さんとの約束も響子さんとの約束も反故に出来ない、って分かってたんですね」

「若頭は、女相手にも義理を通す人ですから。たとえそのせいで、2人の女が運悪く鉢合わせしたとしても」

 美佐緒の件ではちょっと見直したが、今の霜田は完全に悪代官の顔だ。さやかは、眦を吊り上げた。

「そんなことになったら、榊原さんも淑恵さんも、響子さんも傷付くんですよ」

「それを言うなら、響子も淑恵さんも、既に十分、傷付いているのではありませんか」

「それは…」

 意外な角度から霜田に言い返され、さやかは言葉を失った。

 霜田が、小柄な身体を屈めてずいっとさやかに迫った。

「麻雀小町。お前は随分、響子と親しくしているそうですね」

「…ええ」

「だったら、お前も響子が若頭と結ばれたほうがいいと思うでしょう?若くて美しい響子が、いつまでも中途半端な立場のままでいるのは哀れだと思いませんか」

「それは、そうですけど」

 さやかは「でも」と霜田に反論した。

「淑恵さんはどうなってもいいって言うんですか。淑恵さんには何の非もないのに、こんな形で別れさせるなんておかしいです。霜田さんは、本当にこれでいいと思ってるんですか」

 さやかの強い語気に、霜田が一瞬、鼻白んだが――すぐに、わざとらしく眼鏡の位置を直した。

「私とて、淑恵さんには何の恨みもありゃしませんよ。ですから、淑恵さんには別の男をあてがえばよろしい」

「別の男?」

 まさか朽木か、とさやかは朽木の顔を見上げたが、朽木はおどけ顔で肩をすくめた。

 霜田はフッ、と小馬鹿にしたような笑みを浮かべた。

「まあ、せいぜいネズミのように走り回ることです。もっとも、淑恵さんと響子は誤魔化せても、あの男には太刀打ちできないでしょうが」

 朽木が「頑張れよ、麻雀ネズミ」と言ったのを捨て台詞にして、2人はさやかの前から去って行った。

 ――誰が麻雀ネズミだ。

 不運なダブルブッキングは、陰険な罠だったのだ。ネズミ呼ばわりとあいまって、さやかは一気に戦意を燃やした。

 ――今日のダブルデート、絶対に無事に終わらせてみせる!



 ところが、そんなさやかの鼻っ柱はすぐに挫かれた。

 プールに向かったさやかの目に、その光景はあまりにも眩しく、真夏の白昼夢のように映った。

 キラキラ輝くプールサイドは、まるでエメラルドブルーの地中海。青空を白く切り取るように組まれた窓枠は、パルテノン神殿の柱のようだ。

 背景までも神々しく見せてしまうのは、女神のように美しく優しい淑恵と、その隣で悠然と微笑む、これまた美形の男だった。

 ――『別の男』って、源さんのことだったのか…!

 さやかは、思わずプールサイドで立ち尽くした。

 いつの間にプールに来ていたのか、源は淑恵と仲良く談笑している。

 ――源さん、楽しそうだな…。

 冬枝と違って刺青など全く気にしない源は、背中の観音様も誇らしげに、長い脚をデッキチェアの上で組んでいる。知らなければ、源が淑恵の夫だと勘違いしてしまいそうな距離の近さだ。

 ――というか、もう、カップルにしか見えない。

 2人は別に、腕を組んでいるわけでも、寄り添い合っているわけでもない。ただ、2人とも常人には目も眩むような美貌の持ち主であるせいで、ただ並んで座っているだけで妙に色っぽく見えてしまうのだ。

 ――なんか、この光景を榊原さんに見られるのはまずい気がする。

 水着姿の中年美男美女は、それだけで『情事』というタイトルをつけたくなってしまう仕上がりだ。源はともかく、淑恵にその気がないのは分かっているが、榊原はどう思うだろうか。

 さやかは、思い切って源と淑恵の元にずんずんと歩み寄った。

「淑恵さん。源さん。こんにちは」

「あら、夏目さん。今ちょうど、夏目さんのお話をしていたのよ」

「こんな所で逢えるなんて、俺たちきっと運命だな」

「もう、夏目さんにまでそんなことを言っちゃダメよ、源さん」

 淑恵がくすくす笑うと、源も切れ長の目を和らげた。まるで、愛しい恋人にたしなめられて、満更でもない彼氏みたいだ。

 ――なんか、源さんに本気の匂いを感じる。

 知り合いと雑談しているだけのつもりの淑恵と違って、源の視線は太陽よりも熱い。2人のツーショットにやたら色気が濃く匂うのは、多分に源のせいだ。

 このままでは、響子と淑恵が鉢合わせして修羅場――の前に、榊原と源の間で修羅場が発生しかねない。さやかは、にこやかに笑う大人2人を咳払いで遮った。

「源さん。ちょっと、お話があるんですけど」

「ああ。いいぞ」

 源は特に渋るでもなく、あっさりとさやかと共にプールの隅へと身を寄せた。

「まさか、源さんも霜田さんとグルなんですか?」

 さやかが疑い混じりに切り出すと、源が形のいい眉をひそめた。

「霜田?あのチビネズミがここに来てるのか」

「あれ…違うんですか」

 源のリアクションは、演技ではなさそうだ。さやかは、ちょっと拍子抜けした。

 ――まあ、源さんが霜田さんの陰謀に加担するわけないか。

 さやかが事情を説明すると、源は「そうか」と腕を組んだ。

「榊原の奴、まんまと霜田に担がれたわけか。間抜けだな」

「そうは言っても、淑恵さんのことも響子さんのことも放っておけません。源さん、力を貸してもらえませんか」

 そろそろ、さやかと榊原だけで場を誤魔化すのは苦しくなってきた。源が相手なら、冬枝や響子も怪しむまい。

 だが、さやかの意に反して、源からは「断る」というきっぱりした返事が返ってきた。

「えっ…」

「二兎追う者は一兎も得ず、って言うだろ。ここで淑恵を俺に取られちまうんなら、それは二股かけた榊原が悪いのさ」

「源さん、本気で言ってるんですか」

「本気だ」

 そう答えた源の目は、こちらを貫くように真っ直ぐだった。

「さやかも、こんなくだらねえ茶番に付き合うことねえ。てめえの尻拭いぐらい、榊原自身にさせりゃいいんだ」

「そんな…」

「俺は、淑恵を2番目の女になんかしたくねえ」

 源は、プールサイドに腰かける淑恵の横顔をじっと見つめた。

「淑恵をこの世で一番に愛する、一生をかけて愛し抜く。榊原がそう約束したから、俺は淑恵を諦めた」

 源と榊原の間には、淑恵を巡って色々な攻防があったのかもしれない。さやかにそう思わせるほど、源の眼差しは遙か遠くを見ていた。

「だが、奴は約束を破った。惚れた女が苦しんでるっていうのに、何もせずに見てるなんて俺にはできねえ」

 そう言う源の語調の強さに、さやかは思わず引き込まれそうになった。

 プールの水音や、客たちの喧騒が、不意に遠ざかる。

 ――これで、いいのかな。

 さやかは、源の意見にも一理ある、と思った。

 榊原と響子が結ばれれば、もう響子は苦しまなくて済む。残された淑恵のことは、源が大切にしてくれるだろう。

 今の不自然な状態を続けるより、ここで終わりにしてしまったほうが皆、楽になれるのではないか。

 榊原と麻雀を打っている時の響子の楽しげな笑みや、源と淑恵の麗しいツーショットが、さやかの瞼をよぎった。

 ――これが、最適解なのか…?

 考えているうちに、さやかの手は無意識に髪に触れていた。タオル越しに感じた淑恵の指の感触が、まだそこに残っている。

「…僕、淑恵さんのこと、母さんみたいだなって思ったんです」

 さやかは、ぽつりと言った。

「榊原さんも、瑞恵さんの作ったポプリを大事に持ってて…ホント、お子さんたちのことが大好きなんですね」

「……」

「榊原さんたちは、素敵な家族です。決して、誰かの勝手な想いで壊していいものじゃない」

 それが、さやかの今の解だった。

 源は、何も言わない。十数年越しの想いは、さやかの説得ごときでは揺るがないようだ。

 だから、さやかはただ小さく苦笑した。

「源さんの恋をお邪魔するつもりはありません。響子さんたちのことは、僕が何とかします」

 さやかはすっくと立ち上がると、「じゃあ、また」と言って、源の前を去った。

「………」

 源は、小さくなっていくさやかの背中を黙って見送った。



 ――そういえば、霜田さんたち、何しに来たんだろう。

 わざわざ、さやかに種明かしをするためだけに来たわけではあるまい。さやかが何となくロビーを見回したところで、背後から腕を引っ張られた。

「痛っ!」

「てめえも凝りねえな、麻雀小町」

「朽木さん!」

 朽木は、さやかの腕をこれみよがしにぎりぎりと握った。

「霜田さんにああ言われたら、普通は恐縮して引き上げるのが利口なやり方だぜ」

「…ああ、あれ、警告だったんですか」

 分かりにくいな、と眉根を寄せるさやかの腕を、朽木が更に捻り上げる。

「痛っ!ちょっと、放してください」

「霜田さんはてめえなんざ歯牙にもかけてねえよ。今日は若頭の修羅場を見届けに来たのと、街の見回りだ」

 朽木は、傲岸な目付きでさやかを見下ろした。

「誰かさんのせいで、秋津の連中が我が物顔でうろついてるからなぁ。冬枝が貧乏神なら、てめえは疫病神ってとこだな」

「…どうも」

 朽木の皮肉に、いちいち狼狽えていたらきりがない。さやかは受け流した。

「とにかく、代打ち風情が邪魔すんじゃねえ。悪い子の麻雀小町は、俺様がいいとこに連れてってやるよ」

「遠慮します」

「そう言うなって。オッサン相手に麻雀打ってるより、よっぽど楽しいぜ」

 朽木にぐいと腕を引かれ、さやかは声を上げた。

「いやーっ!放せ、変態!」

「誰が変態だ、騒ぐとぶん殴るぞ!」

 朽木が本当に腕を振り上げたところで、ロビーのほうから何かが疾風のように現れた。

「!」

 朽木が目を見開いた時には、高速で飛来する枯れ葉色の背広の膝しか見えなかった。

「ぐふっ!」

 朽木がロビーの壁に叩きつけられ、さやかは反動でカーペットにぺたりと倒れた。

「さやか。大丈夫か」

「冬枝さん!」

 さやかを助け起こすと、冬枝は朽木を睨み付けた。

「てめえもしつけえ野郎だな。そんなにさやかが好きなのか」

「…冗談じゃねえ。そんな十人前、俺様は願い下げだ」

「こっちのセリフです」

 さやかは、ぶすっと口を尖らせた。

 朽木は血のついた口元をアルマーニの袖で拭い、よろよろと立ち上がった。

「ちょうどいい。冬枝、てめえがいるんだったら、麻雀小町をデートにでも連れ出してやれよ」

「ああ?何言ってんだお前」

「その女にチョロチョロされると迷惑なんだよ。いっそ、2人揃ってフケちまえ」

「訳分かんねえこと言ってんじゃねえよ。てめえの指図を受ける筋合いはねえ」

 冬枝と朽木はしばらく鼻先を突き合わせて睨み合っていたが、周囲の客たちがざわめき始めたのに気付いて、朽木のほうが退いた。

「フン。どうせ若頭は今日、家庭崩壊する運命なんだ。てめえらはせいぜい、とばっちり喰らわねえように避難するんだな」

 まだ何か言いたげな冬枝をさやかが制し、アルマーニのポケットに手を突っ込んでぶらぶらとカフェへ向かう朽木の背中を見送った。

「おい、さやか」

 朽木がいなくなった途端、さやかは今度は冬枝にジロッと睨まれた。

「お前、何か隠してるだろ」

「さあ、何のことでしょう」

「とぼけんなよ。朽木に絡まれるわ、榊原さんも様子がおかしいわ、明らかに何か起きてるじゃねえか」

「まあ…そうですね」

 さやかがまだ言い淀むのを見て、冬枝は溜息を吐いた。

「まさか、淑恵さんでも来てるっていうんじゃあるまいし、何をそんなにコソコソしてんだ」

「その、まさか、です」

「えっ。マジかよ」

「マジです」

 さやかの表情が真剣なのを見て、冬枝はようやく事態を察した。

「まずいじゃねえか。淑恵さんと響子さんが鉢合わせしたら、目も当てられねえぞ」

「それが、もっとまずいことになってて…。プールの淑恵さんのところに、源さんが来てるんです」

「源さんが?」

 冬枝は、ハッとしてプールの方を見た。

「まさか源さん、もう淑恵さんとデキちまったのか」

「そうならないために、冬枝さんにも協力して欲しいんです。源さんと淑恵さんがプールで一緒にいるところを榊原さんに見られたら、妙な誤解をされかねません」

「うーむ」

 確かに、自分が不倫しているという後ろめたさがあるだけに、榊原は疑心暗鬼になっているかもしれない。

 街の顔役である若頭が、もう引退して一般人になった源と、公衆の面前で妻を取り合うなんて、いい物笑いの種だ。淑恵に関して源に退く気など微塵もないことを、冬枝はよく承知していた。

「…分かった。源さんは、俺がどうにかする」

「冬枝さんが…?できるんですか、どうにか」

「何とかするしかねえだろ。死ぬかもしれねえが」

「死…」

 さやかが言葉を失くすくらい、冬枝の横顔からは悲壮感が漂っていた。

「あの人、昔っからデートの邪魔されるの嫌いなんだよ。俺が親分から電話ですー、とか伝えただけで、部屋の外まで蹴り飛ばされたんだぞ」

「…冬枝さん、苦労なさったんですね」

 冬枝と源が強固な絆で結ばれているのと同時に、非常に厳しい上下関係にあったことは、さやかも知らないわけではない。

 ――流石に、冬枝さんにそこまで骨を折らせるのは可哀想だなぁ。

 榊原と淑恵のランチタイムまで、もうあまり時間がない。さやかは思考をフル回転させ、今、もっとも現実的な解を叩き出した。

「こうなったら、北風と太陽作戦です」

「北風と太陽?」

「もしくは、馬にニンジン作戦でもいいです」

 怪訝そうな冬枝に、さやかはとにかく榊原の足止めをしてくれと頼んで、自身はロビーにある電話ボックスへと向かった。



 ――なるほど、馬にニンジンか。

 トイレに行くと言って卓を抜けた冬枝は、柱の影からこっそりその様子を覗いていた。

 レッドカーペットの上を歩くハリウッドの銀幕スターのように颯爽とロビーを横切る源――その両脇に、さやかと鈴子を誇らしげに抱いている。

 さやかの言った「北風と太陽」ないし「馬にニンジン」作戦とは、鈴子を呼び出し、2人で源を篭絡することだったのだ。

 ――色仕掛けなんて、小賢しいことしやがって。

 冬枝が面白くないのは、腐っても己の兄貴分である源を女でオトす、なんてくだらない作戦を仕掛けられたせいであって、決してさやかが割と満更でもなさそうな笑みで源の腕に抱かれているせいではない。

 ――なんだよあいつ、源さんに気があるんじゃねえのか。

「ダンディ冬枝、金に困ってついにさやかにツツモタセをやらせるように…」

「誰がんなことやらせるか!って、嵐か」

 いつの間にか、冬枝の背中に嵐がぴったり寄り添っていた。暑苦しいのでしっしっと追い払うと、嵐はくるりとターンしながら離れた。

「ナルシー源、いいご身分っスねえ。うちの嫁とさやかを両手に抱えて、お殿様気取り」

 嵐はちらっと冬枝を横目に見て「ダンディ冬枝、さやかをナルシー源に取られちまったんだ」と憐れむような眼をした。

「違ぇよ!あれはだな、人妻に色ボケした源さんを釣るんじゃ、さやかのべってぇ乳じゃとてもじゃねえが無理だから、てめえの嫁を借りようっていうさやかの浅知恵で…」

「全員を敵に回したわね、冬枝さん」

 苦笑いする鈴子の横では、源とさやかが冷ややかに冬枝を見つめていた。

「さやか。俺と鈴子と一緒に、このまま飯でも食いに行かねえか」

「あら、それいいわね。私、ここのランチ食べてみたかったのよ」

 源と鈴子が口々に言うと、さやかも「僕もそうしよっかな」と無表情に言った。

「源さんはともかく、お前がフケてどうすんだよ。榊原さんになんて言うつもりだ」

「分かってますよ。響子さんに一人でお昼ご飯を食べさせるのは気の毒ですから」

「さやちゃんも大変ね。今度、うちで一緒にかき氷食べましょうね」

「はい。ぜひ」

 鈴子によしよしと頭を撫でられ、さやかの不機嫌面が和らいだ。

 そこに、嵐が横からぐいっと割って入る。

「麻雀から不倫若頭の尻拭いまで、白虎組の代打ちは何でもできる万能選手でござい」

「おい嵐、余計なこと喋るとぶっ飛ばすぞ」

「そうですよ。僕は鈴子さんに来て欲しいってお願いしたのであって、嵐さんを呼んだ覚えはありません」

「2人揃って冷てえなあ。ワイルド嵐クンだって、協力しねえことはねえぞ?」

「協力って…嵐さんが?」

 怪訝そうに見上げるさやかに、嵐は自信満々に胸を叩いた。

「そう!例えば、プールで美貌の極妻の相手をするとか」

「百年早い。てめえは家帰って便所の掃除でもしてろ」

 スパっと切り捨てると、源はそっと鈴子の肩を抱いた。

「さやかがいねえのは寂しいが、鈴子と2人ならきっと楽しいな」

「ええ。嵐以外の男とデートなんて、何年ぶりかしら」

「こらー!このホテルは不倫多発地帯か!」

 拳を振り上げ、やいのやいの言う嵐に付きまとわれながら、源と鈴子はランチタイムで賑わうレストランへと向かっていった。

「……」

 去り際、源がちらりと自分のほうを見た気がして――さやかは、またも意味深なものを感じた。

「馬にニンジンたあ、うまいこと言ったな、さやか。これで、面倒がひとつ減った」

 冬枝はそう言ってくれたが、さやかは源たちが去って行った方向から目が離せなかった。

 ――源さんはまだ、諦めていないんじゃ……。



 冬枝と少しタイミングをずらして、さやかは何事もなかったかのように榊原たちのいるレストランバーへと戻った。

「…!」

 さやかの姿を認めた途端、榊原が雀卓から立ち上がった。そのまま、厨房近くの衝立の影で足早にさやかと合流した。

「嬢ちゃん。淑恵の様子はどうだった」

「あ、はい…今のところ、怪しんではいないようですよ」

 源のことを話す訳にはいかず、さやかは返事をぼかした。

 榊原は、ちらっとレストランの向こう側を眺めた。

「この後、淑恵とランチを食べる予定なんだが…」

「あ、じゃあ、こっちでの食事は…」

「こっちでも食うさ。2食分ぐらいは平気だ」

 榊原は、スーツの腹をポンと叩いた。

「淑恵と一緒なのに俺が早食いしてたんじゃ、可哀想だ。今度はちょっと時間がかかるが、嬢ちゃん、大丈夫か?」

「はい。こっちは僕に任せてください」

 さやかと榊原が離れている時間があったほうが、響子の誤解も解ける。さやかはちらちらと、雀卓にいる響子を目で追った。

「ランチの後は、コンサートでしたよね。コンサートを途中で抜けるのは、流石に厳しいでしょうか…」

「いや、タバコを吸うって言って何とか抜け出すよ。今は禁煙中だし、我慢できなくなったって言えば信じてもらえるはずだ」

「じゃあ、僕も当日券を買って会場に向かいます」

 コンサート会場を行ったり来たりするなんて、びっくりするほど行儀が悪いお客さんだ。周囲の白い目を想像すると、さやかは溜息を吐きたくなった。

 榊原が何度目かの『急用』と言って抜け出すと、響子がおもむろに「あの」とさやかに声をかけた。

「夏目さん。もしかして今日、何か大事なご用があったんじゃないんですか」

「えっ…いや、そんなことないですよ」

 遠慮深い響子でも聞かずにはいられないほど、さやかの出入りは不審だったのだろう。

 どう誤魔化そうか考えるさやかに、響子はいたわるように言った。

「夏目さんがとても麻雀熱心なのは知っているけれど、無理なさらないで。麻雀ならいつだってできるんですから」

「響子さん…」

「何度も席を立ってはいても、夏目さんが決して手を抜いていないのはよくわかりました。席に戻ると、一瞬で雀士の顔になったもの。やっぱり組の代打ちなのね」

 さやかが真剣に相手をしてくれているのはよく分かったから、そろそろさやか自身の用事を優先してほしい。響子は、そう言ってくれた。

 ――僕よりも、響子さんのほうがすごいのに。

 さやかと榊原がしょっちゅう席を抜けるというおかしな対局にも関わらず、響子は終始微笑を絶やさなかった。想い人である榊原の様子が気にならないはずがないのにだ。

 ――いっそ、全部言ってしまえたらな。

 こんなくだらねえ茶番に付き合うことねえ、という源の声がさやかの脳裏によみがえる。淑恵も響子も、心から誠実に接してくれているのに、さやかはその2人を騙しているのだ。

 今すぐ本当のことを話してしまいたい衝動に駆られた瞬間、さやかの目に卓でタバコを吸っている冬枝の姿が映った。

 冬枝の何気ない横顔を見ただけで、さやかの中で覚悟が決まった。

 ――今更いい人ぶるなんて、ズルだ。

 今ここで響子に本当のことを白状したところで、さやかが楽になれるだけだ。響子は再び心が乱れ、淑恵と榊原を引き裂こうとするかもしれない。淑恵だって苦しむ。2人を傷つけまいとした榊原の苦労は、完全に水の泡と化す。

 ――冬枝さんだったら、そんな中途半端な仕事はしない。

 さやかは暴れ出す良心をぐっと押さえつけ、笑顔を作った。

「…すみません。代打ちなら、卓を離れちゃいけませんよね」

「夏目さん…。そんなつもりで言ったわけじゃ…」

「実は、このホテルで僕の友人が、旦那さんじゃない男の人と会ってるんです」

「えっ…」

 今頃、鈴子と源はレストランでランチを食べているだろう。嵐もくっついているかもしれないが、嘘はついていない。

「トイレに行った時、たまたま2人が会っているのを見ちゃって…。それが気になって、何度も様子を見に行ってたんです」

「そうだったんですか…」

 込み入った事情に、響子も控えめな言葉で返事を濁すしかないようだった。

 卓のそばにある大きな窓から、昼下がりの街が見える。曇りない青空の向こうを、さやかは見つめた。

「別に、不倫が悪いっていうんじゃないんです。当事者じゃない僕がどうこうできることじゃないってことも、分かってます。ただ、それでも見守っていたいんです。友達だから」

 さやかの言葉に、響子が一瞬、ハッとしたように目を見開いた。

 それ以上は何も言わないさやかの笑みに、響子もまた、柔らかな笑みを浮かべた。

「…ええ。きっと、私が夏目さんの立場でも、同じだったと思います」

 ――それは、僕も同じだ。

 さやかが好きになった人は、たまたま独身だっただけだ。もしも響子のように、既に家庭のある相手を好きになってしまっていたら――そう考えれば、さやかは正義面をする気にはなれない。

 さやかと響子と冬枝は、厨房に近いカウンターで並んでカレーライスを食べた。女2人で対局の話ばかりしていたせいか、冬枝は終始、黙々と食べていた。



 ランチを終えた榊原が戻ってきたため、さやかと冬枝は一旦、卓を抜けて打ち合わせに入った。

「お前、またプールに行くのか。そろそろふやけるぞ」

「いえ…。淑恵さんたちはバイオリンコンサートに行くそうなので、僕もそちらに」

「コンサート?」

 冬枝は「それって、ここの大ホールでやるやつか」と言った。

「そうですけど…、冬枝さん、ご存知なんですか?」

「ご存知も何も、源さんが行くって言ってたんだよ。やけに自慢そうにチケットをぴらぴら見せびらかしてたから、一緒に行く女でも出来たのかと思ってたが……」

 さやかと冬枝の間に、気まずい沈黙が降りた。

「…そうか。それで解が見えました」

「だな。源さん、最初っから淑恵さんをひっかけるつもりだったんだな」

「ひっかけるって…」

 冬枝は口の前に人差し指を立てて「あの人には言うなよ」と片目をつむった。

「源さん、今日のデートを知ってたんでしょうか」

「さあな。ひょっとして、マジで淑恵さんとデキてるんじゃねえだろうな」

「そんな…ことになってないといいんですけど」

 確かに、淑恵が源をコンサートに誘ったのだとしたら合点がいく。だが、いくら淑恵と源が親しくても、夫とのデートに他の男を誘うだろうか。

 ――まさか、榊原さんだけじゃなくて、淑恵さんもダブルブッキングしてた……?

 だが、さやかの髪を拭いてくれた母のような指先からは、そんなやましさは感じられなかった。無表情でも下心が妖気のように滲み出ていた源とは、対照的だ。

「とにかく、僕もコンサート会場に行ってきます。源さんに怪しい動きがあったら、何とかして止めないと」

「お前にあの人が止められっかよ。俺が行く」

「ダメですよ。冬枝さんがバイオリンコンサートにいたら、榊原さんに不審がられます」

「…それもそうか」

 冬枝に今回のダブルブッキングがバレたことを、榊原はまだ知らない。雀卓にいるはずの冬枝がコンサート会場にいるのは不自然だ。

 ――にしても、人が良すぎねえか、さやか。

 友人である響子はまだしも、熟年カップルの榊原夫婦のことは本人たちに任せておけばいいのだ。朽木じゃないが、榊原家が家庭崩壊するなら、所詮はそれが運命なのだろう。

 赤の他人のために、バカ真面目に右往左往するさやかが、冬枝は危なっかしくて仕方なかった。

「冬枝さん。一つだけお願いしてもいいですか」

「ん?何だよ」

 さやかの手が、そっと冬枝の手を握った。冬枝がおっと思ったところで、さやかから放たれたのは意外な言葉だった。

「麻雀、あんまり負けないでくださいね。いくら榊原さんが相手だからって、あんなに点差が開いていたら、真面目に打ってないのかと思われちゃいますよ」

「…へいへい、気をつけます」

 確かに、さやかはレストランと淑恵の元を行ったり来たりしながらも、麻雀ではトップをキープしていた。今日ぐらい手を抜けよと思わないでもない冬枝だが、恐らく、さやかは全方位にバカ真面目なのだろう。



 さやかがコンサート会場に向かうと、チケット売り場は既に長蛇の列ができていた。

 ――うわぁ、めちゃくちゃ混んでる。

 壁にずらりと貼られたポスターを見れば、さやかも知っている有名なバイオリニストが映っていた。こんな田舎町にはめったに来ない大物演奏者だけに、ますます客が押し寄せているのだろう。

 ――淑恵さんたち、もう会場に行っちゃったかな。

 老若男女でごった返す会場では、人を探すのも一苦労だ。源がいれば目立ちそうなものだが、とさやかが背伸びしようとしたところで、チケット売り場からアナウンスが流れた。

「大変申し訳ありませんが、ただいまをもってチケットの当日券は売り切れとなりました。前売り券をお持ちのお客様は、そのまま列にお進みください……」

 ――当日券、売り切れ!?

 ショックで硬直するさやかの気持ちを代弁するかのように、列のあちこちから落胆の声が漏れた。

 残念だったね、と肩を叩き合う男女の群れが、ぞろぞろとさやかの左右を行き過ぎていく。多くの客は、名残惜しそうにその場にとどまっていた。

「………」

 さやかもしばらくその場に立ち尽くしていたが、やがて、はあと肩を落とした。

 ――仕方ない。冬枝さんたちのところに戻るか……。

 少なくとも、榊原がいれば源だって淑恵に手出しはできまい。静粛なバイオリンコンサートでケンカするほど、榊原も源も非常識ではないはずだ。

 ――多分。

 もっとも、バイオリンコンサートは純粋にちょっと聞いてみたかった気もする。東京にいた頃は、よく友人に誘われてコンサートに行ったものだが、こっちに来てからはそんな機会もなかった。

 ――冬枝さん、こういうの興味ないだろうなぁ。

 さやかが一人苦笑して、会場に背を向けたところで、後ろから肩をポンと叩かれた。

「さやか」

「…源さん!」

「俺を探してたのか?」

 真顔で冗談めかしながら、源は首を傾けた。

 大ホールの扉の向こうから、華やかな拍手が聞こえる。どうやら、コンサートが始まったようだ。

 堂々と会場外にいる源に、さやかはおずおずと尋ねた。

「あの、源さん、コンサートは…?」

「ああ。チケットなら、本来の持ち主に返した」

「本来の持ち主…?」

 源の横顔は、どこかすっきりしている。霧が晴れて、澄み渡った湖のようだ。

 ――源さん、いい顔してる。

 さやかは、横から軽やかに源の腕を取った。

「じゃあ源さん、これから僕と一緒に打ちませんか?今日の冬枝さん、全然ふるわなくって。源さんがいれば、冬枝さんにも気合が入ると思うんです」

「いいな。響子って娘も紹介してくれ」

「ふふっ、いいですよ」

 さやかの小さなつむじを見下ろしながら、源はふと、プールで淑恵と交わした会話を思い出していた。

「夏目さんの髪を拭いてあげていたら、何だか涙が出てきてしまったの。ダメね、子離れできなくって」

 淑恵の長女・瑞恵は結婚して既に家を出ており、次女・奈々恵も大学の寮に入っている。子供たちが巣立っても、淑恵は今でも娘を想う母のままだった。

 そして、そんな淑恵の慈しみに溢れる眼差しが、源には侵し難い聖域のように見えた。

 ――勝手な想いで壊していいものじゃない、か。

 源がしようとしたのは、神聖な天上の女神を、汚れた下界へ引きずり降ろす蛮行に過ぎなかったのかもしれない。さやかの清らかな瞳には、真に守るべきものが見えていたのだろう。

 ――だからって、諦めるつもりもないが。

 源は、善人を気取るつもりはない。淑恵さえその気になってくれれば、いつだって地獄に落ちてやる。淑恵が分けてくれたバラの苗は、きっとトゲのある美しい花を咲かせるだろう。

 ただ、今日のところは『素敵な家族』の邪魔はしないでおく。さやかの肩を抱きながら、源はそっとコンサート会場の扉を見つめた。

「…!」

 そこで、源が不意にロビーを睨んだ。

「源さん?」

「…何か、誰かにデバガメされてる気分だ」

 さやかも、源が見つめる方向を注視してみたが、めいめいに歩いたり話したりしている人々の中に、さやかたちを特に気にする人物は見受けられない。

 ――でも、源さんが言うなら確かに誰かいるんだな。

 源は、白虎組の先代組長の親衛隊長を務めていた男だ。不審な気配や殺気には、人一倍敏感なのだろう。

「とっとと戻るか。冬枝が妬くかもしれねえからな」

 さやかを安心させるようにあえて軽口を叩くと、源はさやかを腕にしっかりと抱いて歩いた。



 柱の陰に身を潜めながら、ミノルはほうと感心した。

「源清司。引退したとはいえ、勘は鈍ってないようですね」

 間に柱と客の群れを挟んでいたというのに、源の眼光は真っ直ぐにミノルを捉えていた。

 ミノルの傍らにいる栗林も、源の一瞬ながら狙いの正確な弾丸の如き睥睨に、すっかり青くなっている。

「やれやれ。僕らがいることは、源君にはバレバレのようです。今日のところは帰りましょうか」

「…よろしいんですか、ミノルさん」

「元々、榊原君のプライベートをお邪魔するつもりはありませんよ。せめて、さやかさんに助言でも、と思ったんですが、無駄足でしたね」

 若頭のダブルブッキングに、まさかさやかまで巻き込まれるとは。なまじ頭が良いだけに、便利使いされているのだろう、とミノルはさやかの境遇に同情した。

 ――僕もよく、お兄さんたちの女性関係に手を焼かされたものです。

 厳格な三兄・タケルを除いて、上の2人の兄は女性関係が派手だった。2人とも妻子のいる身であれば、フォローに追われるのはミノルである。

 義姉たちはいずれも賢く美しく、物分かりも良いが、当たり前のように浮気されて気分がいいはずがない。兄たちの家庭の平和のため、独身の末っ子はあの手この手で誤魔化し、兄らの代わりに侘び、兄夫婦の仲を取り持ってきた。

 ――何だか、僕たちはとことん似ていますね、さやかさん。

 尤も、身内の問題だったミノルと違って、ヤクザの夫婦円満のために奔走する女の子は、日本広しといえどもさやかぐらいなものだろう。

 また会う日を楽しみにしながら、ミノルは栗林を連れてキャンドルホテルを後にした。



 バイオリンコンサートが始まる少し前、榊原は慌ただしく席に着いた。

「ふう。間に合って良かった」

「あら、あなた。ご用はもうお済みになったの?」

「ああ。混んでるから、席を探すのに手間取っちまった」

 というのは勿論言い訳で、実際はギリギリまで響子と一緒にいたせいだ。

 さやかの打ち回しがこうだった、と今日の対局について語る響子はとても楽しそうで、無邪気な年頃の娘そのものだった。そんな響子を見ていると、榊原の心も満たされた。

 ――やっぱり、今日の予定をキャンセルしなくて良かった。

 淑恵とも、久しぶりに2人でゆっくり過ごすことができた。一緒にプールで泳ぐと若い頃に戻ったみたいで、年甲斐もなくはしゃいでしまった気がする。

 何より、プールにいる淑恵はとても綺麗で、他の男に見せるのが嫌になるぐらいだった。

 ――いつ見ても美人だが、淑恵って、今年でいくつになるんだったかな。

 年齢をまったく感じさせない水着姿など、我が妻ながら見惚れてしまった。これだから、榊原は自分の若い衆でさえ、淑恵や娘たちには近付けたくないのだった。

 会場の席が、徐々に埋まっていく。パンフレット片手に楽しそうにお喋りする若い娘たちの姿に、榊原は目を細めた。

「本当は、今日は瑞恵も一緒に来るはずだったんだよな」

 淑恵との間に生まれた長女を、榊原は目に入れても痛くないぐらい可愛がっていた。淑恵によく似て美しく、気立てが良く、心優しく育った娘は、榊原の溺愛とは裏腹に、たった22歳で嫁いでしまった。

 ――結婚なんかしなくたって、ずっと家にいればいいのに。

 瑞恵が巣立ち、更に下の娘の奈々恵まで大学の寮に入ってしまい、父親としては娘たちの成長が嬉しい反面、正直に言えば寂しい日々である。だから、今日のコンサートで瑞恵と会えるのが、榊原も淑恵も本当に楽しみだったのだ。

「仕方ないわ。瑞恵は高校の同窓会があるんですもの」

 そう言う淑恵も、寂しげだった。ピアノを習っていた淑恵の影響で、瑞恵も6歳からバイオリンを習い始めたのだ。

 音楽には疎い榊原も、妻と娘がピアノとバイオリンで一緒に演奏しているのを見ているだけで、心が洗われたものだった。

 ――久しぶりに、瑞恵の顔が見たかったんだけどな。

「そういえば、瑞恵の分のチケット、誰かに譲るって言ってなかったか」

「そうだわ、まだ言ってなかったわね。今日のチケット、実は…」

 淑恵が言いかけたところで、淑恵の隣の席に白いレースのワンピースがふわりと揺れた。

「お父さん、お母さん」

「瑞恵!」

 瑞恵は長い髪を揺らして「久しぶりね」と微笑んだ。

「同窓会じゃなかったのか」

「ご挨拶だけで抜けてきたの。お父さんとお母さんの顔が見たくって」

 ふふっ、とはにかむような瑞恵の笑い方は、母親そっくりだ。榊原の胸に、じわじわと喜びがこみ上げた。

「でも、当日券がすでに売り切れてしまっていて…。どうしようかと思っていたら、源のおじさまが譲ってくださったの」

「…源が?」

 意外な名前が出てきて、榊原は驚いた。

「最後におじさまと会ったのは、私が4歳の時だったけれど…大きな可愛いテディベアをプレゼントしてくれたから、よく覚えていたの。全然変わっていないのね、おじさま」

「ふふ、そうね。源さんなら、瑞恵が大きくなっていても分かるわね。瑞恵と奈々恵のことを、すごく可愛がってくれたもの」

 淑恵と瑞恵は嬉しそうに話しているが、榊原はちょっと首を傾げていた。

 ――源の奴、バイオリンコンサートになんて来るのか……?

 何より、源の女好きを熟知している榊原としては、成長した瑞恵に源が近付くことにも胸がざわつくのだが――瑞恵が「このコンサート、すごく楽しみにしてたの。来られて良かった」とはしゃいでいるのを見たら、どうでもよくなってきた。

 ――ここは、源に感謝しないとな。

「お父さんとお母さん、今でも2人でデートしてるのね。本当に仲が良いんだから」

「ふふっ。瑞恵たちほどじゃないわよ」

「やだ、お母さんったら」

 瑞恵は「今度は、ナナちゃんと4人でどこか行けるといいわね」と榊原に笑いかけた。

「ああ。そうだな」

 家族の和やかな時間は、榊原が寝入ってしまってコンサートの後、淑恵と瑞恵の両方からくすくすと笑われるまで続いた。

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