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第2話 loine

戍吉はベットに転がり新しく登録されたloineのアイコンを見ていた。戍吉の部屋はいたって普通だ。シャーペンを飾る専用の棚さえなければ。今夜を共にするシャーペンが枕元に置いてある。彼はホンモノのシャーペン狂いだ。


「うわー、ガチで入ってるじゃん。すげー。あれ?ちょっと待てよ。」


まさきちはある意味喜んでいた。佐藤のloineのアイコンは犬だった。しかし、戍吉の記憶にある限りクラスloineの佐藤のアイコンは初期状態のままのはずだ。戍吉はクラスloineへと移動し、メンバーの所でアイコンを確認する。


「あれ、こっちはそのままだ。ということは、アカウント使い分けてるってことか?でも、じゃあ何で俺にこっちを教えたんだ?」


うーんとベットで転がりながら悩んでいるうちに、スマホからloineの通知がピコンと鳴る。そこには、sizuと書かれた犬のアイコンのアカウントから初のメッセージが届いた。戍吉は慌てて、loineを開きsizuをタップする。


『よろー』


簡潔なメッセージが表示された。何を送るか悩みながら、戍吉はフリックボードを操作していく。


『よろよろよろ。』


異性とloineをするのは幾億光年振りだ。いや、初めての可能性もある。胡座をかいて、返信を待つ。戍吉は枕元にあるシャーペンを手に取って眺める。精神安定剤だ。


『最近のおすすめブランド教え合わない?』


戍吉の緊張感が急に解ける。そう言えば画面の向こうにいるのは戍吉と同類だ。仰向けになり、リラックスした状態で同胞と語る。


『おけ、俺は最近ブームっていうブランドに注目してるかな。』


『え、何それ知らない。詳しく教えてよ。』


『お任せあれ。』


戍吉は思わずニヤニヤしてしまう。ようやく蓄えすぎたシャーペンの知識を誰かに話す時が来た。


『これはなあ...』




ふと気づけばかなり長い間シャーペンについて話してしまっていた。時計をチラリと見れば日はとうに跨いでいる。トーク履歴は戍吉の一方的なものでもなかった。佐藤の方も中々に長文を話している。戍吉はマイナーなブランドをほぼ網羅しているが、それ以外には弱い。それに対し佐藤は逆で、最新の流行を完璧に抑えていた。そしてシャーペンブランドに対する知識欲は両者とも異常だ。会話は途切れることなく綿々と続いていた。


『そういえば、このアカウントってクラスloineのやつとは別なの?』


シャーペンの会話が一区切りついたので戍吉は気になっていたことを勢いで聞く。そのメッセージにはすぐに既読がついた。秒針のコツコツという規則的な音が自室に響く。会話が停止した。どんなに長くても3分以内には返信していた佐藤が、5分以上音沙汰がない。戍吉は冷汗をかき始めた。シャーペン以外のこととなると、そこにあるのは明確なカースト差だ。追いloineをしようとした瞬間にどこかで見たネット記事が戍吉の脳裏によぎる。メッセージを書いては消してを繰り返す。


『これは違くて、いや違うわけでもないんだけど。別に黒部君を騙そうとしていたとかは本当になくて。単純にクラスloineに入ると、そっから友達申請とかできるじゃん?ちょっとそれが最近あまりにも多すぎて、友達用というか普段から連絡とる人と分けるために別にしてるだけだから。あ、ごめん。勝手に友達とか言って。自分の趣味についてここまで話せる人が初めてだから正直滅茶苦茶テンション上がっちゃって。えっと、これは関係ないか。あの、ほんとに君をなんかどうにかしようとかなくて。あー、まじで普通に趣味について話したいだけなんだ。ごめんね、事前に言っておけばよかった。』


ものすごい桁が違う文章が送られてきた。実際話してみても思ったが、佐藤は見た目はダウナー心は普通よりの女の子なのかもしれない。戍吉はそんなキショいことを考えながら、すぐに返信をした。


『全然、俺こそごめん。変なこと言って。』


『いやいやごめん、私が良くなかった。』


『いや俺が...』


このやり取りが3往復程続けられた。戍吉はその途中で急激な睡魔に襲われていた。シャーペンの話をしていたから変なアドレナリンが出てしまっていた。戍吉の平均就寝時間は午後11時だ。何とか眠気に抗いながら文字を打っていく。自分が何を入力しているか、戍吉にはボンヤリとしている。


『じゃああしたいっしょのブームにいこおおおやすむ。』


『え、明日?!めっちゃ急じゃん。いきなりどうしたの?』


通知の音は戍吉の耳には届かない。


『おーい、大丈夫?』


寝息が聞こえてきた。規則正しく一定だ。


『一応私明日なら空いてるけど...』


最早寝返りもうちはじめてしまった。


『...今日、学校で。』


戍吉は綺麗に枕に沈んだ。

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