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以前は絶対に安全というわけではなかったものの、住処などの特定の場所に近づかなければ、モンスターに襲われる事はそこまでなかったそうだ。
だけど突然モンスターの王───魔王が現れてからモンスターの凶暴化が進み、人里に現れる事が増えて被害が後を絶たない。
魔王を倒すために、アスドラント王国は魔力を持つ人達───討伐者達による魔王討伐隊を結成するために動いた。
魔力を多く持っている人は珍しく、滅多にいないそうだ。
そのため別の世界からも魔力を持つ人達を探してここに喚んだ。
その時に巻き込まれたのが、灯也君と私らしい。
「俺は最初、おまえ達の事をヒトに化けて王国に入り込もうとする魔王の手先の可能性もあると思ってな
怪我への心配半分、ヒトかモンスターか見分ける目的半分で傷薬を渡したんだが、ヒトでよかったぜ」
「見分けるために傷薬を…?」
「ああ、あれはヒトにとっては薬だが、モンスターにとっては毒だ
触れたと同時に苦しみだす」
「えええ…人間でよかった…」
…それにしても、モンスターかもと疑われてたの全然気がつかなかったな。
でもヴィクターさんからしてみれば正体をはっきりさせたかったところだろうし、結果私達の疑いも晴れたからよかった。
「それも返してもらうか」
そう言ったヴィクターさんが私達がつけているブレスレットに手をかざすと、音を立てて外れた。
どうやら魔法で外れる仕組みになっているようだ。
「魔除け貸してくれてありがとうございました」
「あー、悪い
本当は魔除けじゃないんだ
これは魔力を制御するもので、装着した者は魔法が使えなくなる
ヒトであっても身元がはっきりしないやつをそのまま街に入れるわけにはいかなかったからな、保安対策ってやつだ」
そ、そうだったんだ…保安対策…。
…そっか、だから最初にこの街に入る時、門番は私達がつけていたブレスレットを見てきたのか。
身元がわからない怪しい私達が街の中で悪い事をしないように、しっかりと保安対策されてるのかを確かめるために。
「疑ったりだましたりと、すまなかったな」
「いやそんな、謝らないでください
ヴィクターさんがいてくれたから私達はここにいられるわけですし…」
「そうですよ、本当に感謝してます」
「…嬉しい事言ってくれるじゃねえか
俺の方こそ、ありがとな」
3人で笑みを向け合い和やかな空気になるのを感じていると、後ろから声をかけられた。
声の主はアメリさんだった。
まだ顔色は青白いけど、さっきよりはよくなっている気がする。
「おうアメリ、もういいのか」
「やはり召喚の儀は完璧だった、なにひとつとして間違いなどなかった
だがこうして想定外な事が起きている
…この思考を延々くり返しただけで、答えは出なかった」
「…あの、聞きたい事があるんですけど
俺達は日本に…元の世界に帰れるんですか?」
灯也君が問いかけると、アメリさんは私達に目を向けてくる。