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「怪我してるな
ほら、飲みな」
そう言って男の人は小瓶を2本差し出してきた。
受け取った灯也君が小瓶を見ながら言う。
「あの、これなんですか?」
「なにって、傷薬だよ」
「傷薬って…使うと体力が回復する、あの…?」
「まあ、そうだが…
なんだ、初めて見たって反応だな
どこでも売ってるし国民薬って言われてるくらいだから、知らないやつはいないと思ってたが…」
どこでも売ってる…?国民薬…?
そんな話聞いた事ない…。
戸惑っていると、男の人が鳥と実を見ながら言う。
「それにしてもおもしろい事になってるな、真ん中のやつだけ眠り実を食わなかったのか」
「…その実を食べると、寝てしまうって事ですよね?」
「ああそうだ、だから眠り実って名前がついてる」
「…やっぱりそうだ」
灯也君と男の人の会話を聞いて、私は眠り実が名前のとおりの実だと知る。
確かに実を食べた両端だけ寝ていて、食べてない真ん中は寝てない…寝てないけど…。
そんな魔法みたいな実ってあるの…?
「そういやまだ名乗ってなかったな
俺はヴィクターだ、おまえ達は?」
ヴィクターさん…海外の人なのかな?
「灯也です」
「結衣といいます」
「トウヤにユイだな
どこからきたんだ?」
「 東京です」
「トーキョー?どこだそこ?」
「日本の地名ですけど…
ちょっとまって…ここどこ…?」
「ここはアスドラント王国の首都ベルテアの近くにある丘だ」
「…聞いた事ない
結衣ちゃんは?」
「…私も知らないです」
…どういう事?
ここは東京じゃなくて、アスドラント王国っていう知らない所で…。
「…おまえ達、ここにきたのはいつだ?」
「…昨日の夜です
灯也君も私も東京にいたんですけど、気がついたらここにいて…」
「…そうか」
ヴィクターさんはなにか考える素振りを見せた後、鳥に近づき手をかざす。
「目と耳ふさいでな」
「え?はい」
言われたとおりに目を閉じて、耳を手でふさぐ。
なにをするんだろうと思った時───突然、雷のような音が耳に飛びこんできた。
驚いて、思わず耳をふさいでいる手に力が入る。
少し経って音が消えたので、おそるおそる目を開けると…あの鳥がいなくなっている。
「あれ…鳥は…?」
「討伐した
雷魔法は音がでかいからな、耳ふさいでてもうるさかっただろ?」
「え…?」
討伐…?雷魔法…?
あの鳥はたった今、雷の魔法で倒されたという事…らしい…。
「とりあえずベルテアにもどるぞ
それ、飲んどけよ」
傷薬に目をやり、灯也君と顔を見合わせる。
傷薬なんて飲んだ事ないし、どうしてもためらってしまう。
するとヴィクターさんはもう1本傷薬を取り出し、それを飲みはじめた。
「…っかー!甘え!
お、腕の痛みがとれてきた」
…もしかしてヴィクターさんは私達のために飲んでくれたのかな?
灯也君も同じ事を思ったのか、傷薬のふたを開ける。
私もふたを開けて傷薬を飲んだ。
ヴィクターさんの言うとおり、甘い味だ。
───そう思った時、さっき鳥が起こした風によって受けた体の痛みが消えていくのがわかってびっくりする。
「…本当に治った…」
「…すげえ…」
灯也君も驚きながら、そして目を輝かせて傷薬を見ている。
…でも衣装は汚れ、擦り切れたままだ。
「…灯也君、さっきは守ってくれてありがとうございます
怪我させちゃってごめんなさい、衣装も…」
「気にしないで、俺がやりたくてやった事だし
俺の方こそありがとう!あの鳥を眠らせたのすごかったよ!」
笑顔の灯也君に言葉がつまる。
自分が痛い思いをしても、それを言葉にしない。
衣装の事だってなにも思わないはずがないだろうに、それを表に出さない。
灯也君は、本当にすごい人だ。
…衣装、本当に直らないのかな…なにか方法は…。
「服ならベルテアに行けば直るぞ
その汚れも擦り切れも元通りだ」
「…えっ…?」