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昨日の夜に私達を襲ってきた鳥が、こっちに向かって飛んできている。
また私達を襲う気…!?
「結衣ちゃん走るよ!」
「うん…!」
灯也君が私の手をつかみ、走り出す。
…ん?て?
「手ええええええっ…!?」
「え、なに!」
「いや、て、手、てっ…!」
「て…?
うわ、もうそこまできてる…!」
後方から迫りくる鳥、推しと手をつないでいる現状───鈴川結衣、いろいろな意味で大ピンチです。
ううう…気をしっかり持たないと本当に倒れる…!
その時、突然後ろから強風がふいてきて押し飛ばされる。
地面を転げ回り、その痛みに私は顔をしかめた。
灯也君は大丈夫だろうか。
そう思った時、誰かに抱きしめられている事に気がつき、はっと顔を上げる。
目の前の灯也君は、私よりもたくさん怪我をしていた。
「灯也君…!」
「…結衣ちゃん、大丈夫?」
「私は大丈夫です!それより灯也君が…!」
私をかばってくれたんだ…それでこんなに怪我を…!
「俺も大丈夫…動けるよ」
灯也君がそう言った時、また風がふいてきた。
振り返ると、大きな羽を動かしながら3つの顔がこっちを見ている。
強風を起こしたのはこの鳥のようだ。
ふと、羽になにかがついているのが見えた。
あれは…昨日持っていかれた灯也君のうちわの…とってだけ、だった。
「…っ…なんでそういう事するの…
灯也君を傷つけるし…うちわも壊すし…いい加減にしてよ!」
そう叫ぶと、鳥が私に向かって飛んでくる。
「結衣ちゃん!」
灯也君の焦ったような声が聞こえる。
どうしよう…どうすればいいの…!
思わず足元を見ると…青い色をした少し大きめの実のような物が転がってきた。
さっきの強風で飛ばされてきたのかもしれない。
鳥が目の前まできてる───もうやるしかない…!
私はその実を手に取ると、鳥に目掛けて投げた。
両端の顔が奪い合うように実を食べはじめる。
今のうちにどこかに隠れられれば…!
「灯也君…!」
「うん、行こう!」
この場から離れようと鳥に背を向けた時、後ろから大きな音が聞こえてきた。
思わず振り向くと、あの鳥が倒れていた。
どういうわけか両端の顔が寝ていて、真ん中の顔が怒声を上げている。
どうなってるの…?
目の前の光景に戸惑っていると、鳥に食べられて小さくなった実を見て灯也君が口を開いた。
「…あれ、あの実…朝に俺が見たやつと同じだ」
「え、さっき話してた変な模様の木の実の事…?」
「うん
ほら見て、ギザギザの模様がある」
「…本当だ」
さっきは気がつかなかったけど、よく見たら確かにギザギザの模様があった。
「…もしかして、あの実が関係してるのか…?」
「え…灯也君それって」
どういう事?と聞こうとした時だった。
「おい、大丈夫か!」
声を上げながら男の人が走ってくる。
人だ…!
灯也君と顔を見合わせて喜び、男の人に視線をもどして───ある事に気がついた。
男の人は鎧姿で、その手に剣が握られていた。
…コスプレですか?