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「みんな今日はありがとう!」
その言葉に、会場内に歓声が響き渡る。
ライブツアー最終公演ももう少しで終わり。
寂しい気持ちもあるけど、それ以上にメンバーの眩しい姿に胸が高鳴るのを抑えられずにいる。
「みんなと楽しい時間を過ごせて、俺達もすっごく幸せだよ!
また会おうな!」
周りから一際大きい歓声が上がる中、私もステージ上で輝く推しの姿を見つめながら応援の言葉を送った。
「最高に輝いてるよ!」
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「はー、よかった
ほんとよかったわ」
「うん、よかった」
「もう最高によかったよね、結衣は特によかったところある?」
「もう全部よかったよ」
「あはは、やっぱそうだよねー」
さっきからよかったしか言えないくらい語彙力が低下している私…鈴川結衣と友達の水原舞香。
でもあんなすごいライブを見たら、こうなっちゃうのもしょうがないというか。
本当に素敵なライブだった。
今、人気急上昇中の男性アイドルグループ「Bright Voice」。
私の推しは藤野灯也。
明るい性格で、グループを引っ張ってくれる存在だ。
今日の灯也君も輝いてた…眩しい…かっこいい…最高…。
ペンライトと灯也君のうちわをぎゅっと握って、さっきまでライブ会場となっていた建物を見ながら余韻に浸っていた時だった。
「…え…?」
その建物が、消えた。
音もなく、一瞬にしてその姿を消したのだ。
「え…え…?
どういう事…?」
そう口にしたところで、新たな異変に気がつく。
「舞香…?」
今の今まで隣にいたはずの舞香がいない。
舞香だけじゃない…周りにいたたくさんの人達もいなくなっている。
そして街中にいたはずなのに、今私が立っているのは原っぱだった。
あれ…まって…?
という事は…建物が消えたわけじゃなくて、私だけちがう場所にきちゃったって事…?
…え、私って実は魔法使えたの?
ずっと私の中で眠っていた魔力が今目覚めたというのか…。
…なんて、半分冗談(そして半分本気)で考えてみたけど答えがわかるわけがなく、夜の広い原っぱに1人で立ちつくしていた時だった。
「すみませーん!」
突然後ろから人の声がして反射的に振り返った私は、今度は固まってしまう。
そこにいたのは、さっきまでステージ上でライブをしていた私の推し───藤野灯也だった。