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グッドバイ・ピッチ  作者: タンバ
1年目(久松プロ4年目)
9/102

7/27 対瀬戸急フライヤーズ 第11回戦②

2回表の攻撃は7番の田坂から始まる打順だった。

年齢は一つ下。右投げ右打ちで今日はレフトを守っている。

打率もホームランも打点もなんて事はないバッターだ。楽を出来るとすら思える。

自分の事は棚に上げて、瀬戸急の層の薄さ、あるいは戦略に思いを馳せる。

恐らくは左の俺に対して当てるための起用なのだろうが、にしたって30打席以上もらって打率1割いくかいかないかのバッターを、打撃で利得を出せるやつを置きたいレフトで使うのはなかなか苦しいものがあろう。

もちろん、そうしてまで使いたいという気になる要素があるのかもしれないが。


「残り2ね。逆に怖ぇな」


田坂の頭の上に出てきた数字を見てそうひとりごちる。

世知辛い所ではあるが、俺も抑えなければ後がない立場だ。

対戦する上で考慮すべきは田坂を起用した理由、何故左に強いのかというだろう。

考えられるのはとりあえず2つ。

まず、インコースに強い可能性。

対左において、右打者は位置関係上ボールが自分の方に向かってくることが多い。懐が深い奴、回ってボールをバットに乗っけられる奴、腕をたたむのが上手い奴なんかは思いっきり引っ張れるしその分ホームランになりやすい。あまり考えたくないパターンだ。

次に、遅めの球速帯を得意とする可能性。

これは単純にプロのスピードについていけてないという側面もあるだろうが、俺のような球速の出ないピッチャーにとってはかなり苦しい。打たれこそしないとしても、打ち損じで球数を稼がれたり、根負けで四球を取られるなど心身に負担の大きい結果になる事もある。

左ピッチャーは右ピッチャーに比べて速度が出ない傾向にあるので、結果遅めの球速帯に強い事が左に強いと思われてしまうのだろう。

勘弁して欲しいのは、両方の特性を持っている場合だ。悲しい話だが、そうなってくると俺のようなピッチャーから打つ以外存在意義はない。


篠原さんのサインはスライダー。構えは真ん中あたりだ。真ん中に投げ込んでこい、ではなくスライダーで投げ込むならば、ここより内側に行かないようにという事だろう。俺が思い至るような事、篠原さんが考えない訳がないか。

サインに頷き、外目を意識して腕を振る。

ボール。

外を意識しすぎて、腕が横目に振れてしまった。ボールを取った篠原さんはひとつ頷き返球した後、座って腕を振るジェスチャーをした。

縦振り意識しろという事だろう。

次もスライダーのサイン。

これはストライクゾーンに行き、バッターも手を出してきた。

外角に来ているのに、レフトスタンドに顔が向いている。スイングはゴルフのショットのような軌道で、真ん中から低めにかけてしか当たらなさそうな感じだ。

などと考えた後、篠原さんの方に目をやる。

サインが来る。次はストレート。内に構えたが恐らくは高めに投げ込めという事だろう。7番の田坂を簡単に攻略出来るならば、8番9番と打力が更に落ちていくだろうから、より1から6番までに集中できるという訳か。

投げミスすると痛い目見るかもしれないが、リターンは大きいし、次の打者を考えるとそこまでリスクは大きくないはずだ。

篠原さんのサインに逆らう事なく、俺は腕を振った。


「っしゃ」


塁上で田坂がそう言ったのが聞こえた。

三塁線を破るツーベースヒット。

しっかり打ってくるか。思わずうなりたくなる。

マウンドを均し、アンパイアからボールを受け取る。その時に篠原さんをチラリとみたが、特に変わった様子はない。実際慌てなくてもいいのはそうなのだが、やはりキャッチャーが落ち着いているとこちらも気楽に構えられる。


「まぁ、どうにでもなるだろ」


思っていることを口に出し、篠原さんが構えたところ目掛けて投げる。

8番は初球のツーシームを引っ掛けてサードゴロ。

9番はピッチャーだったが三球三振。

1番の増田さんに帰って来たが、5球目のストレートを打ち上げてくれて無失点。

2イニング目は随分と体力や球数を抑える事ができた。

2回31球2失点。1イニング目の出来を考えると立て直しにかかれたと言っていいだろう。


「ようやったね。田坂のとこはちょっと勿体なかったけど、それ以外はよかったし増田もストレートで押し込めてたわ」

「ありがとうございます。あそこはすいませんでした」

「まぁあの高さに行ったら打つわな。でも、逆にあそこより下だけや当たるのは。次のバッターも別に振れとる訳やないし、先頭バッターで出られる分には問題ないと思うね」


篠原さんの所見に首肯する。

打順の巡りとしては次が2から始まっていくので、5番ないし6番までで切れれば大丈夫だ。

もちろん、最大限他の打者も警戒はする。

田坂の打順まで気を抜けないという話だけだ。

このように負担を強いられている事から、戦略的には劣勢と言っていいだろう。

穴をつけるなら簡単な話だが、それをさせてくれないのがプロ野球だ。

無論こちらもプロなので跳ね返せばならないというのは、そう。


2回裏、ネイビークロウズはというと、相手先発を打ち崩せる気配なく、淡白な攻撃だった。

その後俺は、3回、4回とヒットやフォアボールを出しつつもなんとか無失点で切り抜けた。

4回表、2度目の田坂との対戦は、外外と攻め、最後はインハイのストレートで空振り三振に切って取った。

田坂の安打数は1でとどまった。とりあえず爆弾は次に持ち越せそうだと、誰が知るわけでもない不安を肩から下ろし、ひとまず水分補給をする。

4回裏の攻撃も、味方のバットから快音は聞かれなかった。

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