10/25 2025年日本中央野球リーグ新人選手選択会議
「去年堀江我慢したんですから豊葉の高橋行かせてくださいよーッ!絶対モノになるってーッ!」
「野手なら大卒即戦力だろォ!華隆の田島だよォ!」
白熱、というには些か入れ込みが見えるスカウト陣のぶつかり合いを見ながら、扇と吉永はそれぞれ獲得候補たちの資料に目を向ける。
目玉、逸材、秘蔵っ子。あらゆるパターンや巡り合わせを考慮した結果、絞った上で選択肢は100に近い数となっている。
去年は取りたい選手やタイプがある程度決まっていたためにチーフスカウトとその補佐を連れて行くくらいだったが、今年はそれぞれの地域から2人ずつ増員参加の許可を出した。
いや活気があって大変良いことではあると思いつつもその裁決を出した扇は思わず苦笑いを浮かべ、そろそろ落ち着いた話し合いの時間だろうと、話を遮った。
「ふむ。ふむ。2候補ともに大変結構です。では、高橋選手を推す田辺くんに伺いますが、高橋選手はハズレ1位に残りますかね?」
「ありえません。去年堀江があんなに競合してますし、どこもこの手の高卒ショートは欲しいはずですから。この子も最低2〜3は突っ込んでくるはずです。佐多が蓋としては丁度いい年齢ですし、チームとして成長力を維持することを考えると、競合覚悟でも高橋を取るべきだと考えます」
田辺の主張を聞いた扇は、目で論戦の相手である関西地区スカウトの本木を促す。
「確かに高橋選手はいい選手ですし、高卒カテゴリでは1番手というのに否やはありません。翻って華隆の田島はどうなのか。彼を評価するポイントとしては、即戦力性の高さとここのところレベルが高い関西大学リーグで好成績を残している点。うちの妻木とも対戦があり、これからキチンと打てているのもいい。ポジションは2年次までサード、3年次から捕手挑戦となってます。捕手はまぁ就活の色が強いですけど、サードっていうのはウチの補強ポイントに合致しますから、スポッと定着出来そうかなと。で、これは私の勝手な見立てなんですが」
一拍置いて外連味を効かせた後、本木は続ける。
「案外セカンドとかやらせたら出来るんじゃないかと思ってるんですよね。キャッチャーやってる割には脚力が残ってるし、サードとセカンドの守備にはある程度互換性がある。深い守備位置と強い肩で範囲を誤魔化すセカンドっていうのはここ数年のトレンドにもなりましたから、無理はないのではないかと。なんならファースト、レフトライトに回しても使い出がある。おまけに左打者。野口池田アダメスとウチで打球カチ上げられるのはみんな右ですから、その辺のオプションが付くとより使いやすい。佐多と同い年でデプス的にも欲しい選手でしょう」
本木の説明に、何人かが声をあげたり頷くなどのリアクションを取る。
空気は完全に田島もとい本木優勢だ。
「なるほど。佐多田島による同年代でのセンターライン構築も見えてくる、と。確かにそれを聞くとかなり良さそうですね。とはいえ。田辺スカウト。その辺り高橋選手の方はどうなんです?ユーティリティ性や将来展望など」
地固めかちゃぶ台返しか。扇としては田島で決まって欲しい腹ではあるが、指名対象決定にこそ、慎重なプロセスが必要だと考えて田辺に水を向ける。
「そうですね…。二、三、遊は確実にこなせると思います。ちょっと勿体無いですが外野も見ていいかと。将来性の話で行くと、3割20本40盗塁とかそういうタイプに落ち着くと思います。飛ばす力は及第点で備えてますが、スラッガーではないかなという印象です」
「田島は30打てます」
劣勢を悟った田辺に、本木が追い討ちをかける。大勢は決した。
「…という事で、第一入札は田島くんとします。よろしいですか」
数時間後にはクロウズの未来と希望を積載された一文が読み上げられる。
大小を問わず、彼が夢を叶えるための1ピースなると信じられて、送信される。
「第一巡選択希望選手、京央ネイビークロウズ。田島、龍輝。捕手、華隆大学」